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とつぜん、勇者がやってきてツボやタルをこわし出ていった  作者: おいしいカレー屋さん
お金クエスト
15/47

晴天

 あれから、モヒカン男をあのまま放置する訳にも行かなかったので、町の警備に引き渡した。

 気絶したまま連れていかれたから、起きたらさぞ驚く事だろう。

 居場所にも。頭にも。


 二人でボロボロの体を引きずる様に歩いて、早朝と言う事もあり中々に奇異の目を向けられたが、なんとか帰路に着いた。


 そして直ぐに、人と会った。

 女の子と合う為に、寄り道。


「あ……ありがとう、ございました!」


 無事に……、無事にとは言い難いけれど、モヒカンをしばいた事をニスに報告する為、ゴミ置き場周辺に戻って来た。


「あの……それでそのきずは……」


「これは大丈夫よ、猫と喧嘩しただけだから」


 俺は二歩離れた所で、二人の会話をゴミを漁りながら聞いていた。

 随分大きな猫ですね。なんて突っ込みは入れない。怖がられちゃうから。


「すみませんが、君がニスの頼み事を聞いてくれた方ですかね?」


 割って入る様に腕を吊った、見た感じ初老の男性が声を掛けてきた。

 その立ち姿はどこか威厳があり、偉い人なんだろうと何となく思った。俺とは別の人種だから、そう思った。


「どなた?」


「わたしのぱぱなの! ぱぱすごくてね! あのね! ……ぱぱ、うでだいじょうぶ?」


「あぁ、ほれこの通り両腕使った運動だって難なく出来るぞ」


 言うと、軽快な腕立て伏せをして見せた。して見せただけで顔は明らかに軽快じゃない、ここまで悲痛の顔は中々お目にかかれるものじゃない。


 安心させるために体張りすぎではないか、今ので多分治癒期間一ヶ月は伸びてるだろう。


「ぐぅ……ふぐぅ……さ、さてこの話は置いといて本題に移りましょう」


「本題?」


「ぱぱ、ほんとうにだいじょうぶ……? くるしそうだけど……」


「な……も、問題無いぞ……ほら、逆立ちだってこの……こ、この通り!」


 何がそうさせる。そこまで根性あるならもう自分でモヒカン倒しに行けたのでは無いか。

 白目まで向いてやる必要は無いと思う。


「ほ、ほん……本題と言うのは……報酬の……こ、事です……」


「いらないわよ、既にその娘から受け取ってるもの」


 二人の負わされた傷とやらされた事に対し全く割りに合わない事を抜けば、十分な報酬金額を受け取っていた。


「話は聞いています。それに上乗せしてこれを受け取ってください」


 聞き捨てならないセリフを言いながらラランに一封の封筒を手渡す。


「これは……。……そうね、有り難く頂いておくわ」


「いくら貰ったんだよ」


「勝手にお金を貰ったと思わないで、下品よ」


「いくら?」


「これは有り難く使わせてもらうわ。ありがとう、助かりました」


「やっぱ金じゃねえか。何枚?」


 この反応は相当貰ってやがる。

 これからの冒険で必要なのだ、早く言いなさいよ。


 貰った金額を、言いなさいよ。

 俺に。


 遠慮せず。

 何もしないから。

 ほら。


「娘の無理を聞いてくださったんです、これくらい安いものです」


「おねえちゃんありがとう!」


 親子はにこやかに告げた。

 しかし、俺の心は全くにこやかになれない。


「ララン、お金は平等にあるべきだ。お金は一人一人の幸せを買うべきだ。故にお金は俺に預けるのが然るべき行動だと俺は思う」


「では、本当にありがとうございました。あなたに幸運を。……それと、大きなお世話ですが、人付き合いは今一度考えた方が良いかも知れませんね」


「ご忠告ありがとうございます。私もそう思います」


 二人してなんだ、まるで俺の悪口を言っている様に聞こえるぞ。

 いいんだいいんだ、どうせ俺なんかゴミを漁って明日の糧にして惨めに生きていればいいんだ。


 結局金はラランが持って行ってしまったけれど、まぁ金はラランが寝た隙に奪えばいいだろう。


 あの金さえあれば装備を整えて仲間を雇って、相当な戦力を蓄え勇者達を完膚無きまでに完封する事が出来るのだ。

 故に、あの金は有効活用しなければな。




 その後、ニスとその父親と別れた。


 日の明け方を回りに回って朝六時、日の光も殆ど出てきた良い天気。

 ラランの家は燃やされる事無く無事だったので、泊めてもらう事にした。


 今日は色々な事があって本当に疲れていたから助かる。


 勇者が来て、家を荒され、物を盗られ、眠らされ、家を燃やされ、ラランと会い、因縁つけられ、争い合い、潰し合い……。


 ……疲れた、もう寝よう。


 お客さんの俺にベッドを使わしてくれるなんて、気の利いた行動は別に期待していなかった。けれどまさか、床に転がされるとは思わなかった。


 とても冷たい床で俺は眠気に襲われ倒れるように寝転んだ。ラランは優雅にベッドへ沈む。




 そこから一時間経過。

 寝たふりを決め込んでいた俺は、ラランが寝るのを確認して封筒を手当たり次第に探した。


 が、全く見付からず。

 そしてその探す姿をラランに見られてしまっていて、この場をどうするかどうしようかと頭をフル回転させて考えていた所に、一言言われた。


「もうお金は無いわよ」。 金が無い? 


 俺は何故かと聞き返す。


「返済に当てたから」。 返済? 借金?


「昨日の酒場の代金」。 あれはゴロツキに払ってもらったじゃないか。


「逃げられたのよ」。 に、逃げられた……?


「さすがに面倒見切れねえ って。で滞納。そのお金」。 そうなったのもラランが食い過ぎたからだ、節度を持って行動しないから。


「いくらでも食べて良いと言われれば誰だってあぁなるわよ」。 この食いしん坊さんめ。で済む話なら良いけどな、で金はどうすんだ? 支払いに使いましたで済む訳無いだろ。


「それはそうとして、あなたは家を漁った事に対する罰を受けるべきね」。 何だとふざけるな、金を一人で使い込んだ事でその件は相殺だ。


「……あなたとのこれからの雲行きがが不安ね」。 全くの同意権だ、お前と仲良くなれる気がしない。


「本当にあなたふざけてるわね」 本当にこいつふざけてるな。


 空は晴天だと言うのに、俺の心情は雷雨よりも雷と雨が降り注いでいた。

 降り注ぎ、降り注ぎ、降り注ぎ過ぎた雲はやがていつか太陽を連れてくる、寝て起きた頃には雲も去っているだろう。


 その時までは険悪な雰囲気を、傘を差して止むのを待とう。

 こんな終わり方で良いのだろうか。


 いや、これで良いのだ。

 物事は終われば始まるものだから。


 寝る前に一つ詩が出来てしまった。

 もう朝七時だけれど、お休みなさい。


 起きたら何をしようかな。朝ごはんかな、いや時間的に昼ごはんかな?

 あ、そうだ。起きたら勇者を殺しに行きましょう。


 お弁当も準備して、武器も携えて、罠も考えないと。

 楽しみだな。

 明日も晴れると良いな。

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