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とつぜん、勇者がやってきてツボやタルをこわし出ていった  作者: おいしいカレー屋さん
お金クエスト
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曇天

 前回のあらすじ。子供に嫌われついでに女性陣に仲間外れにされゴミを漁り始める所から俺の宝探しは始まる。



 とりあえず落ちていた包帯で止血してからゴミを漁る事数分が経過した。

 中々の広さがあるゴミ捨て場なので、もしかするとお宝があるかと微塵ほどの期待をしていた。ただその期待は虚しく、当たり前な事にゴミ捨て場なのでゴミしかない。


 生ゴミ。可燃ゴミ。不燃ゴミ。粗大ゴミ。資源。金属。エトセトラ。これが店ならば、よりどりみどりで多種多様と言える程の様々な品揃えも、いかんせん質が悪すぎて誰も触れようとしない物ばかり。


 ここまで色んなゴミがごった煮になっているのも、魔法で一斉に処理するから分別する必要が無いと言う理由で、まぁいいかと色んな人がお構い無しに捨てている。


 そうとは言えど、これはさすがに酷過ぎる。生ゴミがイスにもたれかかり、錆びた刃物がさながらマジックショーの様に箱に突き刺さり、それらを土台とした地面までもが腐敗し、踏み込んだ足を飲み込もうとする。


 悪臭と虫がそこかしこに蔓延り、ここは異世界かとさえ思った程に別の空間が出来上がっていた。


 こんな所に人が住むには、もう一段階進化の必要がありそうなこの場所ではゴミ分ける必要は確かに無いのだが、ちゃんと統制の為のルールも存在している。

いつかの昔、全てのゴミをひとまとめにし過ぎたせいで有毒ガスが大量発生。数百人が犠牲になりその上数ヶ月間、その殺人ガスが一体を漂い続ける大災害も起きたりした。それらの災害の原因は、組み合わせで悪影響を及ぼす魔法補助薬品が、とてつもなく良いタイミングで同時に捨てられた事だったらしい。

 その結果、二度とこの過ちは起こすまいと、薬品は分別しようと議論し結論付けた。


 何故今このタイミングでこの話をするのかは、特にこれといった意味は無い。何も考えず、無心で山となったゴミを漁ってると何故だか乞食になった気がするのだ。ただそれだけの理由。

 こんなに頑張っても、食べれるものも使えるものも無いのだから、全く困ったものだ。もう少し貧乏人に優しい世の中であれと切に願う。


 結局時間一杯まで探して、三つしか目ぼしい物は無かった。


 くさったにく やさいのはしっこ われたかがみ をてにいれた!

 かわりに ぷらいどを うしなった!


「……何をやっているの……?」


「え? あ、終わった?」


 恥ずかしい所を見られてしまった、穴があったら入りたい。

 行動が既に穴だらけなのは気のせいだろうか。いや、気のせいだ。

 得たアイテムは袋に入れて話を聞く事にした。


 ……焼けば食べれるだろうか、この肉。ゴミ置き場に捨ててあるから勝手に腐っていると判断したけど、未調理の状態だし本当は腐っていないのではなかろうか。ハエがたかる程おいしい肉なのではなかろうか。匂いも程良く付いていて……。


 いや、売ろう。そうだ売ろう、売るんだ。冷静になれ俺。

 しかし……。でも……。


「……まさかそれ、食べるの……?」


「はは……おいおい、そんな訳無いだろ?」


「凄く頭にくる顔ね」


 良く考えたらこんなの売れる店が無かったじゃないか。

 じゃあ仕方ない、じっくり焼いて食べよう。


「……まぁいいわ。 さっきのモヒカン頭の男についてだけれど、この娘の親が重症を思わされたんですって。身に覚えの無い因縁付けられてね」


「へぇ、嫌な奴だな」

 

 嫌な奴なのは散々体で理解しているけど。


「で、あの男を懲らしめて欲しいんですって」


 なるほどそうかい、分かりやすい説明ありがとう。

 そしてこちらからも言いたい事が一つ二つ、いや三つはある。


「ララン、俺はあいつにボコボコニされたのを知ってるよな?」


「そうね、今さっきの出来事だものね」


「懲らしめるのは逆で、やられるのはこっち側の可能性が高い」


「かもしれないわね」

 

 かもしれない?

 事実ボッコボコにされたんだから、かもも糞もあるかよ。もう少し物事を考えて話せよ、さすがの俺も怒りを隠しきれないぞ。誰が誰のせいでこんな顔になったと思ってるんだ。


「それは、俺が行くの?」


「こんな小さい子供を見捨てるの?」


「おれにだって人権があるっつーの!! おれはおまえのどれいじゃないっつーの!!」


「あ、あの……わたしニスっいいます……どうか、よろしくおねがいします……」


 ニスと名乗った幼い女の子も、この言い争いに見るに耐えてか頭を下げてきた。

 こいつもこいつでなんでこんなボロボロの男に頼み事して来るんだ。もっとその辺に腕っ節の立ちそうな奴がゴロゴロいるだろう。


 俺にはろくに会話もしない癖して、ラランにだけ心を開きやがって。子供といえど節度とマナーを持った対応を心がけ、恥ずかしく無い言動をしていかないと大人になった時恥を書くのは自分なんだぞ。

 同姓だけに心を開き、異性は蚊帳の外。困った時だけ頼み込んできて、自分の都合のいい様に動かそうとする。

 

 何て奴だ。

 いじわるをしてやる。


「なぁんで男が怖いのに俺達に話し掛けて来たのかなぁ? お譲ちゃん? ん? 言ってみ? 恥ずかしがらずに言ってみ? ほら、恥ずかしがらずに。ほら」


「圧をかけない!」


 ラランに怒られた、女性に初めて怒られた気がする。

 別に悪い気はしないのは何故だろう。


「……お、男の人が……女の人と一緒だったから……」


 ニスが俯きながら、おどおどしながら言った。

 俺は思わず「それだけ?」、と言いそうになったのを留める。


 つまり都合の良い二人組みを見付けたから、丁度良いタイミングで声を掛けたと言う事か。男は怖いから信用できないので女に話し掛け要約した後、力仕事は男に押し付けましょうってそういう魂胆か。

 まぁ策士な事で。良く頭が回り最適解を出して来る子供だ。


 とても憎たらしい。

 それでも、最大の間違いは俺を選んでしまった事だな。理由を聞こうが、お願いを聞いて上げる義理は無い。

 分かればどうとでもなれだ。


「そうかい。……で、自分は何もするでもなく他人に押し付け、それで事が解決したら満足なのか?」


 説いてみて折れてくれればそれで良し、折れなければそれも良し。何もしなければいいだけだから。


「ち、ちがうの! ちゃんとひとにたのむまえにじぶんでこうどうしたよ! あのひとをこらしめるためにがんばったもん! でもだめだったんだもん! こどものわたしではなにも! どうすることも! できなかったんだもん!」


 挑発的な言葉に動かされたのか、いきなり饒舌に喋りだした。

 真正面から無理だなんだと言ってもどうせ聞かないのだろうから、別の切り口で説得してみる。


「戦争の起こる理由を知ってるか?」


「しらないよ! ろんてんをずらしてかってなはなしをはじめないで!」


 人の話を聞かないのは子供の証拠。すぐに答えを求めるのは幼い証拠。

 つまり子供らしい。


 変に大人ぶって難しい言葉を使うよりよっぽど可愛らしい。

 だから説得するんだ。


「戦争はやられたからとお返しに、やり返す者がいるから絶えず広がっていき、手を引く事の出来ない程に火を増して広がっていくんだ」


「それはどのしてんからはなしているの! わたしはあのおとこをこらしめて! あのおとこにあやまってほしいだけなの! なにがいいたいの!」


「これをやり返せば、またやり返されるって事だ」


「そんなことはわかっているの! それをりかいしても、それでもかわらないおもいがあるの! おねがいします!」


「じゃあ自分で行けばいい、それで全部解決じゃないか」


「できないからたのんでいるの! かてないあいてにいどむのはあたまのわるいしょうこでしょ!」


 ……さっきの会話を覚えていたのか、絶妙なタイミングで持ち出してきやがった。何だこいつ、大分頭良いぞ。全く子供らしく無く可愛くもない。

 言い返す言葉を失ってしまった。


 会話の着地点は見えていて「子供が復讐なんて考えてはいけない、それは大人のやる事」、それを言って終わりにしようとした。争いの話を持ち出したのもこの為で。

 だけどもどうしよう、ここまで言い寄られと本当に行く気が無くなって来た。


 自ら子供の力で出来ないと知って、大人に頼むのは賢いやり方かもしれないけれど、それが正しくても正解では無かったようだ。


「なら、俺も勝てないから行かない」


 他に言う事も無いし思った事を正直に言った。勝てないのも本当だし、結構な戦力差がある分もう一度挑んだところで結果は同じだろう。

 ほいほいやって上げる姿を見せても教育にも良くないし、もうこれは仕様が無い。

 これを教訓にしてたくましく生きていくんだな。


「……あなたはふざけてるの?」


 俺とニスとの会話ではずっとだんまりだったラランが、とうとう口を出してきた。

 ふざけているのはそこの子供だろう。


「真剣だ」


「そう。私はこの娘の頼み事を聞くわよ」


「それならそれでいい。俺は聞くつもりは毛頭無い」


 はぁ……っと少しため息を吐かれたのが雨の音に混じり聞こえた。


「それじゃあ私は行くわね、そこにソファが捨ててあったわよ。 ……ごめんなさい、待たせたわね。とりあえず雨が降っているし、屋根に入りに行きましょう」


「……う、うん……」


 外で寝ろって事か、ふざけるな。と言いたい所だけど金が無いからそうするしか無いんだよな。

 俺に背を向ける様に明後日の方向に二人で歩いていった。


 これでいい、俺は子供の願いを聞けるほど聞き分けの良い人間ではないのだから、これで問題無い

 空は暗く雨は止まないばかりだった。


 ……しかし、野菜の切れ端って本当に不味いな。

 なんかねっちょりしてて少し茶色くなってる。


 俺が食べた野菜はもっとシャキシャキ歯ごたえのあってもっと瑞々しい……。

 あ、もしかしてこれも腐ってるのか。

 捨ててある物はみんな腐ってるなんて、なんて夢の無い話なんだ。


「……外、寒いなぁ」

 

 これは、一人の男の心にも雨が降り出した寒い寒い夜の日の出来事。

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