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とつぜん、勇者がやってきてツボやタルをこわし出ていった  作者: おいしいカレー屋さん
勇者スタート
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突然の訪問

 日が照らしてくれる昼時、祭典をしているのを横目に一人で料理をしていた。その最中、ドアがコンコンと音を立てるのを聞いた。


 普段なら居留守をしている所だが、作っているスープが余りにも傑作で、ついつい出てしまった。

 ドアを嬉々として開けると、なんとそこには人が立っていたのだ。


 驚いた。

 本当に驚いた。まるでお化けでも見たかと思う程に、心底恐れ入った。


 立っていたのはただの村人の俺とは別種の存在である、勇者だったのだから。


「ゆ、勇者……様? 何故、こんな所に……?」


 町の端っこで薄汚い暗がり。いつモンスターが出たっておかしくない偏狭。


 樹根は伸び狂い、草は規則を不規則に生い茂り、毒々しいキノコは生え放題。


 食と職を失った人間でも足を運ぶまいこんな所に、まして勇者が来るはずもない。


 来るはずも無い人間がこうして訪れたのだから、そこらへんに生え放題だった毒々しいキノコをふんだんに使ったキノコスープを溢してしまっても、これは仕方が無い。


「ど、どうなされました勇者様? ここはお店でも何でも無い、ただの民家店……ですよ……?」


「…………」


 何も喋らない勇者に対して震えた声で言葉を投げるも、受け取られなかった。


 中々に怖気づくのも、勇者は権力があり逆らうと何されるかわかったものじゃないからだ。

 勇者からもそうだが、それとは別に国が許さない。


 世界の脅威である魔王を倒しに行ってくれる存在を無下にする訳にもいかず、勇者に無礼を働こうものなら罰せられる。


 結局こんな一市民である俺の問い掛けは聞こえないかのように無視し、お構い無しと家に入って来た。


 勇者にはお仲間もいるらしく、勇者本人とローブを纏った計二人がズカズカと。


「あ、あの……」


 再度呼びかけるも、無視。

 そのまま俺の横を進んで行き、部屋に置いてあった壷の前で止まった。


 そして一体何をトチ狂ったのか、勇者はそれを持ち上げ、下へと叩き付けた。

 勿論壷は割れて、中に入れていた雑貨が四方八方に飛び散る。


 残念な事に、床に叩き付けても割れないほど頑丈な壷は持ち合わせてはいなかった。


 飛び散った雑貨を一瞥した後、割れた破片をどうしたという事も無く次の壷へ、もくもくと破壊していく。


 一つ目を壊し二つ目。


 二つ目を破壊し三つ目。


 三つ目を粉々にし四つ目。


 現在家にあった四つの壷を全て割られた所、そこでやっと破壊衝動を止めに入るという考えが思い浮かぶほどに、思考が止まる出来事だった。


「い、いきなり何するんですか!?」


 壷を割り切った後は次にタンスを漁る勢いで、タンスの取っ手に手を置いた所でたまらず叫んだ。


 叫ぶ声も空しく宙を舞い、勇者達の耳を通過する事無く、タンスを漁る手は止まらない。むしろ加速すらしている気がした。


「止めてくださいって! 何なんですか勇者様!? いきなり入って来て! 壊して!」


 タンスの中身を荒らし始め、その中に入れていた金を懐に仕舞いだしたのだから、溜まったものでは無い。


「止めてくださいって! 止めっ……止めろ!! おい! 聞いているのか!」


 こんなのに一々敬語なんて使っていられない。何だ、ただの泥棒じゃないか。


 この所業に耐え切れず、勇者の肩を掴んで突き飛ばす。

 ――突き飛ばそうとした。


 しかし、出来なかった。

 人は、目の前に凶器があれば傷付けられる事を恐れ、自然と怯み、警戒する。自己防衛、野生の本能と言える。


刃こぼれしたペーパーナイフを向けられても足竦むと言うのに、向けられたのは生物を殺す事に特化した刃物。

 剣だった。


 俺は、勇者と言うにはおこがましい盗人を突き飛ばすために近づいた、その瞬間に腰から抜かれたのだ。


 目の前に剣があれば窃盗を止めされるのを留まっても仕方が無い、腑抜けていたって仕様が無い。

 殺される危険性が出てきたのだから。


「ただの一般人に、剣を向けるのか? ……勇者ともあろうものが……」


 ただ家の物が壊され、盗まれようとしたから止めただけなのに。同じことをされたら誰だってする当たり前の行動なのに。なのにこの仕打ちだ。


「こ、これ以上近づこうなら……こ、これを……俺に……?」


 という事なのだろう。頷きもしやしないが、顔の前で一寸も動かない切っ先がそう言っているの感じた。


 警告はした。と言わんばかりに剣を収め、仲間と共に再び我が家を物色し始めた。


 壷を割る。


 樽を壊す。


 タンスの中を漁る。


 掛け袋を破る。


 勇者達はありとあらゆる施しをしてくれたのだった。

 アイテム、装備、金目になりそうなものを手当たり次第に盗って行き、物色に邪魔な物は破壊して漁る。


 この窃盗を止める事は許されない。

 俺は盗まれていくのをただ見守るしか出来なかった。

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