【後日談】 結婚式での「ちょっと待った!」は違法らしいから気を付けろ!
最終話から2年後の話……。
タイトルは勢いでつけましたので、内容とは特に関係ないです。
シャロラインが復活し、テラバスも外国から帰って来た。
その後カルスも無事修理され、日常が戻り季節は2周する。
20代も折り返しとなり、スライプは体の変化を少しずつ感じつつも、妻と共に平和な日々を過ごしていた。
◇
さて、道を歩くスライプが向かう先はテラバス一家が住むところ。
庭先で洗濯物を干しているエリアに手を振りながら、開けっ放しになっている玄関から乗り込んでいくと、背中を丸めた作業着姿の青年がいた。
仕事に勤しんでいる幼馴染へ「よっ」と声をかけると、テラバスは作業の手を止めゴーグルをぐいっとあげ、迷惑そうに皺を寄せた。
「何しに来た」
「えー。せっかくお前らの顔見に来たのに……。それとも、リンカちゃんパパって呼んだ方がいい?」
口元を隠し、冷やかすように笑うスライプ。
「……そういうのホントやめろ」
対するテラバスは、至極不快そうに顔を歪めた。
━━そう、テラバスは父親になったのだ。
テラバスが覚悟を決めたら一気に進む……とは思っていたが、本当に早かった。交際もそこそこに2人は結婚し、あれよあれよという間に子供までもうけてしまったのだ。
妊娠したと聞いた時、スライプはやっぱりなーと思っていたし、出産の時はエリア以上にテラバスが不安で死にそうな顔をしていたりとてんやわんやあったが、母子ともに健康でありテラバスも新たな命の誕生に喜んだ。
「それで、どうだ? 結婚生活は?」
彼らはいわば新婚さんである。スライプは、さぞ楽しい生活をしているだろうという期待を込めて聞く。
テラバスの答えは、そんな期待を裏切らないものであった。
「ああ、とても充実している。それに……1人の時より、ずっと稼ぎがいがあるな」
今や妻と娘を養わなければならない身、ただただ働くより張り合いがあるのだろう。守るべき者を見つけた逞しい表情が、スライプには眩しくてつい目を細めた。
そのまま話しこんでいると、噂の1人娘がちょこちょことやって来た。テラバスの足元まで来て、彼のズボンにしがみつく。
リンカ・ステイレン。
金色の髪と翡翠色の瞳が綺麗な、テラバスとエリアの間に誕生した女の子である。
母親と同じ色彩の無垢な双眸に見つめられ、スライプはこんにちは、と声をかけながら屈んだ。
「あれ? 何歳になった?」
「もうじき……1歳になるな」
スライプはリンカの脇に手を入れ、よいしょ、と抱えあげる。泣かれるかと思っていたが、存外に大人しかった。
「リンカは……エリアに似てるね」
スライプに顔を覗きこまれ、リンカはきょとんとして翡翠色の瞳をぱちぱちさせている。将来はお母さんに似て、とびきりの美人になることだろう。
「ああ……。本当に、よかった」
ため息混じりに、心底安堵したように呟くテラバスに、スライプはどうして? と首を捻った。
長い沈黙の果て、口を開く。
「……オレは、父親に似てるという理由で捨てられた。……そんな奴の顔に……出来るだけ似ない方がいい」
自嘲するような冷笑を浮かべるテラバス。
彼が孤児となった理由は、不貞を働いた父親に顔が似ていたからであり、それを疎んだ母親からは育児放棄を受けしまいには孤児院の前に置き去りにされた過去がある。
……少なくとも、実の親からは決して愛されなかった顔だ。不要と断じられた忌むべき自分とは何1つ似てほしくないと、テラバスは密かに思っていた。
幼馴染の言葉に、スライプは悲しくなった。
「お前……この先子供が生まれるたび、そんな事願い続ける気か?」
テラバスは暗い表情のまま答えない。否定もしないからきっとそうなのだろう。
もう昔の話、自分を認めてもいいだろうに……。テラバスは変なところで傷付きやすく繊細なのだ。
しかし、エリアと一緒ならそんな暗い記憶も塗り替えていけるかもしれない……そうなってほしいとスライプは切に願った。
「別に、自分に似てるからって子育てやめる訳じゃないんでしょ?」
「当たり前だろ」
男の子でも女の子でも、エリア似でも自分似でも可愛い子供には変わらない。
見事に即答したテラバスに、スライプは安心してにっこり笑った。
「なら、大丈夫じゃん。そんな事思うだけ無駄だよ?」
「そりゃそうかもしれないけど……」
「それより、もっと心配する事はたくさんあるよ。その内パパきらーいとか、パパくさーいとか、パパのパンツと一緒に洗濯しないで! とか言われるんだから」
「……うわ……考えたくねぇ」
テラバスは、スライプに抱っこされているリンカを見て低く唸り、頭を抱える。
リンカも年頃になれば、父親を避けようとするだろう。愛娘から受ける残酷な運命は成長過程の1つでもあるので、仕方ないと理解はしているが……。
この愛らしい天使の口から、そんな事を言われる日が来るのかと、テラバスは想像しただけで気絶しそうだった。
やがて、洗濯から戻ってきたエリアにリンカを渡したスライプは、少し神妙な面持ちになってテラバスを見る。
彼に、聞きたい事があった。
「テラバスは……今、幸せ?」
幼馴染として、友人として問う、現在の幸福。
今まで、本当に色んな事があった。幼少期の不幸から始まり、魔薬に侵され両目の視力は奪われ半強制的に魔眼にされ、慕っていた義姉からは奴隷へと陥れられた。
監禁されていた時の暴力の傷痕は、未だ彼の体に残っているだろう。
心身共に傷を負い、苦悩し続けた末に得た未来。それをテラバスはどのように受け止めているのか、苦痛を精算出来るほどの幸せを享受できているのだろうか……。
スライプは少し眉尻を下げた、心配そうな表情で返事を待つ。しかし、テラバスからの返答は心配を吹き飛ばすものだった。
「何を言う、充分過ぎるほどだ」
彼の過去を感じさせない輝くような笑顔。それに嘘や意地は皆無で、心の底から出た喜びの表情だった。
清々しいその答えに、スライプはあっ、と目を見開く。自分の心配こそ不要で無駄だったと、その顔を見て思った。
「ん……そっか!」
力強い返事が聞けて、スライプは満足気な表情を浮かべる。すると、テラバスもお返しと言わんばかりに聞き返してきた。
「そういうお前こそ、結局シャロラインはアンドロイドのままでいいのか?」
最愛の妻の人間化。機械の体を捨てる代わりに有限の命となるが、テラバス達のように子供を持てるようになる。
「それは友達として聞いてる? それとも、技師として聞いてる?」
「無論、前者だ」
テラバスは彼女の修理技師としてではなく、夫婦の友人として今後の方針を聞いた。
食事はいらず、疲労も知らない……睡眠を取る必要も無いが、味覚と触覚が無い便利で不自由な機械人形。
スライプと生きていくのに、それでは悲しいと語った妻を目の当たりにし心は揺らいだが、スライプの答えは変わらなかった。
「おう、今のままでいいや!」
色々あったけど、やっぱり今の彼女と一緒がいいのだ。
確かな返答に、テラバスも嬉しそうに頷いた。
しばらく穏やかな空気と共に談笑し、区切りがいいところでスライプは「それじゃ、僕はこれで」と踵を返した。
「帰るのか?」
「うん。今日は休みにするつもりだったけど、お前を見習って一稼ぎしてこようと思って。これから修理費も高くなりそうだし。あ、それとこれをお前に」
そう言い終えて、スライプは再度テラバスに向き直ると、ビニール袋に下げていたものを放り投げた。
「……は? カップ麺?」
スライプが投げて寄越したのは、カップ麺シーフード味。どういうつもりだと幼馴染を見ると、いたずらっぽい微笑みで視線を返していた。
「それで、今夜の飲みに合いそうなつまみを頼むよ」
「……こんな安上がりな」
カップ麺をどうアレンジしろと……?
どうせなら前みたいにお酒を買ってきてくれればいいのに……、と肩を落とすも、出来るだろ? といわんばかりの好戦的な瞳に負けた。
「分かった。夜までに考えておこう」
「んじゃ決まりだな。エリアー、今日の夜はリンカ連れて実家に逃げとけよー。こいつ酔うとさらにブレーキ無くなるからー」
スライプの言葉に、エリアは少し顔を赤くして、怯えたように一瞬体を振るわせた。
これが何を意味しているのか……。
それは当事者2人と、彼の実態を把握しているスライプのみが知る事であった。
「……おい……!」
「なんだよホントの事だろ。それじゃ、また来るから。よろしくねー!」
バイバーイとリンカにも手を振り、スライプは幸せ一家を後にする。そのまま斡旋所に行き仕事を取りつけ、張り切って終わらせたのであった。
その夜再びテラバスの家を訪れ、ただのカップ麺があんかけ焼きそばに生まれ変わったところで、2人の晩酌は始まる。
旨い酒と気心の知れた幼馴染。今宵を過ごすにはこれで充分であった。
◇
さて、飲んだ後は凄惨になる呑兵衛2人……。
爽やかな涼しい朝なのに、スライプとテラバスは口を半開きにしてボーッとしていた。
瓶や缶のゴミが散乱。極めてだらしない状況なのだが、大抵どちらかは床に寝転がっているので、2人とも椅子に座れているだけマシである。
そんな中、スライプは怠そうに口を開く。
「……なぁ、昨日の会話、なんだったか覚えてる?」
「あ~……。半分くらい下ネタだったからな……。思い出したくもないな……」
飲みの最中、スライプがノリで聞いた「魔眼でエリアのイイトコは視れるのか」という問いに対し、「めちゃめちゃ本気出せば視れる」という嫁には聞かせられない答えを出せてしまう酔いの勢いというのは恐ろしいもので。
この会話を皮切りにどんどん話が進み、シャロライン豊胸の事実もこの時明かされたのであった。
「オレ達……人の嫁で最低だな」
「そうだな……」
しゃべってる最中は大いに盛り上がったのだが、落ち着くと罪悪感が沸いて出る。
スライプは毎度の二日酔いで苦しみ、基本二日酔い知らずのテラバスも、今回は少し具合が悪いのかぐったりしていた。
その周りでは、2人の介護要員であるカルスが甲斐甲斐しく世話を焼いている。
元々カルスは愛玩機体。しかし、備わっている機能を越えた主人の世話役が、数年で板についてきたようである。
ゴミを集めたり、食器を片付けたり、冷えた水を用意したりと代わりに働いてくれるカルスに甘えていると、玄関の方から物音が聞こえてきた。
騒がしくこちらに近づいてくる足音になんだなんだと顔を向けていると、シャロラインとリンカを抱いたエリアが帰宅を果たしていた。
「あっ、シャロ~。お迎えに来てくれたの?」
「おかえりエリア」
最愛の妻の登場に嬉しそうに手を振るスライプだが、シャロラインは表情はとても険しかった。
酒をかっくらい体調不良でだらしない夫達と、その周りで動き回るカルス。
この光景を目の当たりにして優しくするほど、妻はそんなに甘くない。シャロラインはぎゅっと拳を作ると、眼光をギン! と鋭く光らせスライプを睨んだ。
「スライプお前……。いい年して……っ! 飲んだくれてカルスに世話させて……っ。自分が恥ずかしくないのかぁー!!」
怒号の勢いそのままに、シャロラインは続ける。
「今日こそ灸を据えてやる! スライプッ! そこに直れぇ!」
「テラバスもッ!」
シャロラインに同調したエリアも大声をあげたので、抱っこされているリンカは一瞬体を震わせびっくりしていた。
怒られショックを受けるスライプだが、エリアが声を荒らげるところを初めて見たテラバスも言葉を失った。
「ア……ハイ……」
「ごめんなさい……」
体調不良も忘れ、何とか絞り出す。
今の状況で、この剣幕には勝てそうもなく……2人はすぐさま白旗をあげた。
昔……誰が言ったかは覚えていないが、嫁は子供を産むと50倍強くなると聞いた事がある。
元々気が強いシャロラインと、出産を経て逞しくなったエリア。
どう足掻いても自分達は妻には勝てないのだと、この時改めて痛感することとなり、いずれ尻に敷かれる未来を見たのであった。
〔後日談・完〕
これにて大団円、完全完結を迎えました。
これまで、このキャラ達を幸せにしたいという思いで続けてまいりました。
そして、ブクマや評価をくださる方にも支えられ、25万字を越え書ききる事が出来ました。深くお礼申し上げます。
ブックマーク、評価や感想などは毎日受け付けております。
また、新たな作品を始めた際には応援をよろしくお願いします!
~ここからは余談~
作中で出したカップ麺あんかけ焼きそばですが、これはネットで見たもので、自分でも作ってみました。
結構おいしかったです。手際にもよりますが、大体15~20分くらいで出来ます。




