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ゆるふわ系ウォーライカーとツンデレ鋼鉄の伴侶  作者: 鞘町
4章 それは、人か否か
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77話 番外編 技師と令嬢、逢引譚 ~後編~


最終話の続きであり、前編の続きです




『いい加減、待たせ過ぎだ』


 シャロラインに言われた言葉が、心にのしかかる。

 本当にその通りだと、テラバスは思った。



 ずっと避けていた感情が、彼を(はや)らせる。

 ペアネックレスの片方という告白をされたのだから、エリアの気持ちは知っていた。ただ……いつかもっと、彼女にふさわしい人が現れるかもしれないと思い、出来るだけ心は寄せないようにしていたのだ。


 昔みたいに不要な人だと捨てられないように……と思っていたのだが、答えが決まれば恐れはない。

 あとは、自分が「これ」を渡すだけだった。



 やがて、彼女のいるアルネス衣料店へ辿り着く。

 店内に顔を出すと店番担当のラーナが気付き、驚きで目を丸くしてから嬉しそうに顔を輝かせた。


「おかえり! いつ帰って来たの?」

「ただいまラーナ。エリアは奥か?」

「そ! 今呼ぶね。おねぇーちゃーん! テラバス兄ちゃんっ、帰って来たよー!」


 ラーナが店奥へ叫んだ途端、ガンッ! と何かにぶつかったような音をたて、エリアが飛び出してきた。

 肘を押さえながら安堵したような表情を浮かべる。


「おかえり、なさい」

「ああ━━ただいま」


 同じ言葉なのに、今しがたラーナに言った時とは違う重さを感じる。これが彼女への好意(こいごころ)なのだと、テラバスは改めて実感した。


「エリア、急で悪いんだけど今から出れないか?」

「えっ、でも……」


 エリアは悩んだ。

 急に店を閉めるわけにはいかないし、かといって妹1人に店番を任せるのも不安であった。しかし、ラーナの方を見ると唇を引き結び無言で親指を立てているのが見えた。


 早く行けと言わんばかりの力強さに、テラバスも感謝の意を込めて親指を立てる。そして、改めて彼女へ問いかけた。


「一緒に、来てくれるか?」

「……はい」


 穏やかな彼の微笑みに、エリアは少し緊張が(にじ)み出た笑顔で返した。



  ◇


 テラバスはエリアの前を歩く……なんとなく恥ずかしいので、彼女の手はまだ繋いでいない。

 以前のような生命の危機は無いので、自分達のペースでゆっくり歩いていた。


「今日も4番街?」

「いや、そんな遠くに行かないよ。ちょっと景色のいいとこ」

 

 テラバスは具体的な行き先を言わず、黙ってついてこいと言わんばかりに先導する。そうしてエリアを連れてきた場所は、桜並木のある小高い丘だった。


 等間隔に植えられている桜の木となだらかな傾斜の芝生(しばふ)

 前に、スライプに教えてもらったところであり、いつかみんなでお花見しよーね! と提案されていた場所なのだが、花の寿命が他のと比べて短いのか、葉っぱだらけになっていた。


「ありゃ、ほとんど散ってるな」


 テラバスは1本の桜の木を見上げ残念そうに呟くと、木の根元に腰を下ろす。


「ん」


 横に座れ、とぽんぽんと芝生を叩く。隣を(さそ)われたエリアは彼の(かたわ)らへ、少し緊張気味に膝を抱え座った。

 日陰にて受ける風は涼しくて気持ちがよく、自然と落ち着いてくる。今からしようとしている事を考えると、絶好の実行日和であった。


 テラバスは、エリアにバレないよう静かに深呼吸をしてから、奮い立たせている勇気が消えないうちに隠し持っていた小箱をエリアへ差し出した。


「お前に、これを……」


 照れ臭そうな表情と共に贈る、赤いリボンが巻かれた白い小さな箱。


「遅くなってすまなかった」


 その一言に、エリアは思わず口を覆った。約1年前、エリアが勇気を出して伝えた想いの返事が、今返ってきたのである。

 テラバスがこの告白法を知らなかったという線も考えていたのでもう返ってこないものと思っていたのだが、彼はこうして(へんじ)を持ってきてくれた。

 それだけで、エリアは嬉しくて涙が出そうだった。


「開けてもいい?」


 テラバスは頷く。エリアはリボンをほどき、箱をゆっくり開けた。

 中身はピンクゴールドの女性用ネックレス。小さなプレート部分にはテラバスのと同じく十字架と文字が彫られていた。


 テラバスが持っているネックレスの片割れ。プレートを合わせれば繋がる2つで1つのネックレス……エリアはプレートを合わせてみたくなって、彼にお願いした。


「ねぇ、テラバスが持ってるやつ、ちょっと貸してくれない?」

「え……あ、うん……」


 エリアからのお願いに、テラバスはしぶしぶ……といった様子でネックレスを首から外し渡した。

 黒いプレートとピンクゴールドのプレートを合わせる。

 2つが繋がり、1つの形に……なるのだが……。



 何だか微妙に違う……合わないのだ。

 刻まれている文字の字体が違くズレていて、繋げても恐らく意味は合っていない。どういうことかとテラバスの顔を見ると、彼は少し顔を赤くして口を覆っていた。


「実はその……やっぱりちょっと気恥ずかしくて……行けなくて……。外国に行ってた時に合うように作ってもらったやつなんだ……」


 このネックレスを用いた告白の返事は、受けた側(テラバス)が同じ店で対となるものを用意しなくてはならない。

 テラバスもそれにならい何度か店前に行ったのだが、恥ずかしさが勝り行けずじまい……結局、外国で作られたものを贈ったのである。


「そうなんだ……」


 事実を聞かされ、心なしかしょんぼりしているように見えるエリア。

 そんな彼女を見て、テラバスは心が痛んだ。自分が不甲斐ないせいで、エリアがしてくれた告白法で返す事は出来なかった。

 ならば、きちんと言葉で……男として、決めるしかない。


「エリア……っ!」


 少し(うつむ)きがちで彼女の名を呼ぶ。緊張で思わず語気が強まってしまった。


「その……オレと━━」


 顔をあげた先に、少し紅潮したエリアの顔があった。

 ここで、ピタリと止まる。


 翡翠色の瞳に見つめられる……唇が震え、沈黙と共に額から汗が出てきた。


 続きが……続きが言えない!


 シャロラインには結婚するか? なんて普通に言えるのに、本当に言いたい人には言えないとは……。


 ……あれ? 結婚なんて考えてるが、そもそも付き合ってすらいないじゃないか!


 あまり意識しないようにしておきながら、真っ先に結婚(プロポーズ)を考えている。テラバスはいつの間にか抱えていた矛盾にプチパニックを起こした。


 額に手をあて、照れと焦りの色を見せるテラバス。

 そんな彼の一面に新鮮さを覚えながら、エリアはネックレスを優しく握りしめた。


「これ、つけてもいい?」

「……っ、それでいいのか?」


 エリアは頷くとチェーンの金具を外し、首につける。陽光を反射しキラキラと輝いた。

 これには、彼が自分を想った「時間」が詰まっていて……。エリアにとっては何物にも代え(がた)い宝物となった。


「ありがとう。大切にするね」

「ああ。オレも……大切にする」


 ずっと抱えていた気持ちが形になる。

 2人は笑顔で、互いの想いを受け止めた。


 それからは、外国に行っていた時の思い出話をして時を過ごす。やがて日が落ちはじめ、周りがだんだん薄暗くなっていった。


「そろそろ帰るか。送るよ」


 先にテラバスが立ち上がり、手を差し出す。エリアはその手を取り、立ち上がった。


 そのまま離さなければよかったものの、無意識で手を離してしまう。気付いた時にはもう遅く、なんとなく恥ずかしいので、再び手を繋ぐ事は出来なかった。



 そのまま衣料店まで戻り、店先で別れる。

 名残惜しいのかエリアは眉尻を下げていたが、まさか初日から家に連れ込む訳にはいかないので、テラバスは気付かないふりをして背中を向けた。


 彼が遠退(とおの)いていくのを見届けたあと、エリアは店内を通り自宅へ入っていく。妹がいるので電気やテレビがついているのは当然なのだが、やけに楽しそうな声が2人分聞こえてきた。

 不思議に思い居間にひょっこり顔を出すと、ラーナの他に金髪の美女がそこにいた。


「あれ、シャロさん。どうしてうちに?」


 何故かシャロラインが、ラーナと座談している。シャロラインは首を傾げるエリアへ「おかえり」と気さくに片手をあげた。

 そして姉の疑問を置き去りに、隣にいたラーナは大声をあげた。


「あれ!? 何で帰って来たの!?」



  ◇



「あれ!? 何で1人なの!?」

「……聞きたいのはこっちなんだけど……」


 その台詞も気になるが、今は何故スライプがここにいるかの方が問題である。呆れたようなテラバスの態度に、スライプは少しむくれながら反論した。


「なんでって、この荷物持ってきたんだよ! 1人だと大変だからシャロにも手伝ってもらってさ」


 スライプが指差す先にはテラバスが置いていったトランクと段ボール箱が置いてある。

 いそいそとデートに行ってしまった幼馴染のために、気をきかせて妻と共に運んできたのである。


「そのあと、シャロをアルネス家の夜間護衛として向かわせていたんだけど……あーあ、意味は無さそうだ」


 何より家族(いもうと)を大切にするエリアなので、一晩だけとはいえ彼女を1人にさせるのは不安だろうと、同じ女性であるシャロラインを派遣したのだが無意味になってしまった。


「……悪かったな」

「ホントだよ。『さすが! 手が早いねヒューヒュー!』ぐらい言おうとスタンバイしてたのに……」


 スライプは異常なほどお持ち帰りを期待していたようで、ブーブーと不満をもらしている。


「あのなぁ……」


 下世話な幼馴染に、呆れてものも言えない。


 何故スライプがこんなにも期待しているのかという理由は分かるが、それは数年前……軍人時代の話である。平たくいえば若気の至りなのだから、心身共に成長した今となってはそのような軽率な行動はしない。

 スライプだって分かっているはずなのに、未だにそんな扱いをされるのは心外であった。


「そんで、うまくいったの?」


 これが本題、といった様子のスライプからの問いに、テラバスはニッと笑った。


「うまくいかない訳がないだろ?」

「お、言うねぇ~」


 スライプには言わないが、結局言葉には出来ていない。けれども、思いはもう通じあっている。

 自分の事だから改めて口に出すのは時間がかかるだろうが、それでもエリアはきっと待ってくれるはず……少しだけ彼女の我慢強さに甘えさせてもらうにした。


 その後も、やたらテンションの高いスライプの冷やかしは止まらない。


「んで、どこで? 何を? どのように言ったのかなテラバス君~?」

「うわっ、うぜぇ。てかもう帰れよ頼むから」


 今のスライプは、いつも以上にウザいし邪魔くさい。荷物を運んでくれたのはありがたいが、これ以上(いじ)られても困るので、しつこい幼馴染には早々にお帰り願う事にした。




                 〔逢引譚・完〕




お読みいただきありがとうございます

後日談は8月10日0時に更新します

それで、この物語は完全完結を迎えます

よろしければ一読お願いします!

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