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ゆるふわ系ウォーライカーとツンデレ鋼鉄の伴侶  作者: 鞘町
4章 それは、人か否か
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最終話 されど彼らは最愛を選ぶ


スライプ達は24歳になりました!





 帰国の手紙から3日後、テラバスより先に段ボールが帰国してきた。

 向こうでの生活用品が詰まった荷物らしく、本人が帰って来るまではひとまず放置となり……。



 その翌日、テラバスが3番街へ帰って来た。


 先に送っていた荷物を引き取りにやって来たテラバスは、赤黒いロングジャケットを羽織(はお)り、手にはトランクを提げていた。


「おかえりなさーい!」


 1年ぶりに再会した幼馴染を、スライプは元気いっぱいに出迎える。テラバスは少しはにかむと、おう、と片手をあげた。


「悪いな、荷物の受け取り頼んじまって」


 玄関の横にある、1つの段ボール箱。

 自宅に送っても受け取る人がおらず、外に置いてもらうのも無用心なので帰国の挨拶がてら引き取れるようにと、スライプに受け取りを頼んでいたのだ。



「元気そうだな。おかえり、テラバス」


 しばらくして何か家事を終えてきたのか、シャロラインがタオルで手を拭きながら顔を出してきた。黒と真紅のメイド風なロングスカートの裾を、優雅に揺らしている。


「ああ。……お前も無事なようだな」


 テラバスは、シャロラインの全身をまじまじと見た。

 見受けられる傷や故障は無かったので、ちゃんと言いつけ通りシャロラインを壊さず過ごしたのだろうと、スライプの妙な殊勝さに心の中で感心をした。


 元気そうな2人を見て、1年じゃそこらじゃ何も変わらないか……と、テラバスがしみじみ思っていると、スライプは何かをねだるように両手の平を差し出した。


「ところでテラバス……お・み・や・げ・は?」


 どんな理由であれ外国に行ってきたのなら、期待するのは当然お土産だ。

 目を輝かせるスライプに、テラバスはため息をついた。


「遊びに行ったわけじゃないんだぞ……。ほれ、アスカレシア名物プリントクッキー」


 わずかに開けたトランクの中から器用に取り出されたもの。

 押しつけるように手渡した箱は、枚数がいっぱい入った、近所へのばらまきに最適そうなクッキーであった。


 箱を見たスライプはガックリ肩を落とした。


「お前なぁ……こんな地方の土産物じゃなくて……その国の名産品買ってこいよ……」


 もっと魅力的な、国外旅行者向けの土産品があっただろうに。

 それを無視して、どこでも買えそうなプリントクッキーを買ってくるあたり、彼のセンスがますます分からなくなる。


 きっと、そんな事も忘れるほど現地で飲み食いを楽しみ、充実した生活を送ってきたのだろう。

 1年前には痛々しく巻かれていた右目の包帯も今は取れ、魔眼の性能そのままに治療されているようであった。


 その後も、いつまでも(とど)まるテラバスに、シャロラインは腕組みをした。


「私達なんかより、もっと他に行くとこあるだろ。……いい加減、待たせ過ぎだ」


 テラバスにはスライプ達と同じぐらい……それ以上に帰りを待っている人がいる。

 その指摘に、テラバスは口をへの字に曲げた。


「うるさいな。分かってるよ。……じゃ、そういう事で荷物、もう少し預かっておいてくれ!」


 ドン! とトランクを置くと、テラバスは手に収まるサイズの小さな箱を持ち、颯爽と出て行ってしまった。


 この騒々しさすら懐かしくて、つい笑ってしまう。

 スライプは、ようやく自分の意思で動き出した幼馴染に安堵しながら、その背中を見送った。



  ◇



 さて、天気もいいし自分達も出掛けてこようと準備を進めていると、この日はもう一組、来訪者が現れた。


 スライプが出迎えると、入り口には金髪の美丈夫が立っていた。隣には、赤い髪の青年も佇んでいる。


「よっ、息災かな? 息災だな」


 気さくに手をあげるハウルス・ノーザと仏頂面のアーフィール・シラルガン。

 この国のトップ2人である。


 1年前、国王(ハウルス)直々の依頼で城に居着く魔人の討伐に出向いたのだが、崩壊により依頼は失敗。しかしその後壊れたものは仕方ないと、お(とが)め無しとされていた。


「……一体、何をしに来たので? 国王陛下」


 今さらこんな田舎にまで来て、何かの処分でもくだしにきたのだろうか……。

 スライプが(いぶか)っていると、ハウルスは違う違うと手を振り、持っていたものをスライプへ見せた。



 それは、陽光を鋭く反射する銀の槍だった。

 スライプが持つ白銅色の槍とはまた違う輝きを持ち、武器としての存在感を放っている。


「それは?」

「これはな、お前が私の配下に加わった時に授けるはずだった槍だ。……お前が軍馬(スレイプニル)なら、私は神王オーディン。そしてこれは必ず手元に帰る槍(グングニル)といったところか」


 そんな例え話をしながら、ハウルスは続ける。


「お前が、剣でも斧でも弓でも杖でもなく……槍に傾倒したのは、いずれこれ(・・)を受け取るからなのだろうな」


 ハウルス曰く、歴代の「軍馬」が受け継いできた、由緒正しき武器だという。

 「受け継いできた」というのなら何百年もたっているはずなのに、劣化を感じさせない武器としての圧力。


 スライプはそれをひしひしと感じながら、差し出された槍を受け取ろうと手を伸ばす。


 瞬間、頭上高く槍を取り上げられてしまった。


 槍を追うように天を仰ぎ、突然の事に少し呆けていると、ハウルスはフンっと鼻を鳴らした。



「言っただろ。授けるはず(・・)だったと。お前は私の軍馬ではない。お前なんてこの先いらないし、これはただ見せにきただけ。暴れ馬は暴れ馬らしく、その辺の()(ぱら)でも走り回ってるのがお似合いだ!」


 そう吐き捨てると、ハウルスは踵を返し立ち去っていく。アーフィールは2人を睨みつけ、王の背後へついた。


 来訪者が去り、静かになったスライプ宅。


「……なんだったんだ……」


 (あき)れ気味なシャロラインに対し、スライプは口元を押さえ笑いを堪えていた。


「国王は、もう僕を軍馬にする気は無いんだって」


 もう気にするな、好きに生きろ……わざわざそれを言うために、あの人は来たのだ。


 どこか満足気なスライプを見て、シャロラインは小さく「そっか」とだけ口にして、出掛けの準備を再開する。

 そして準備を終えると、2人仲良く家を出た。



  ◇



 3番街の森を抜けたところにある、知る人ぞ知る隠れたデートスポット。


 森を抜け、目の前に飛び込んできたのは、自然(あふ)れ果てしなく広がる花畑。ここが、2人の目的地だ。


 期間限定の美しい花のさざ波に(いざな)われ、2人はレジャーシートを敷き持参したお弁当を広げる。


 天気もいいので、今日はピクニックに来たのだ。


 スライプはサンドイッチを手に取り、口に運ぶ。シャロラインは水筒のお茶をコップに注ぎ、彼の(かたわ)らに置いた。


「……あいつら、大丈夫だろうか?」


 ふと、シャロラインが呟く。あいつらとはテラバスとエリアの事だろう。スライプはその問いに、朗らかに答えた。


「大丈夫でしょ。元々好き同士、遠慮が無くなれば一気に進むよ。きっと」


 2人とも、基本的に優しい。お互い思いやって、仲良く暮らしていけるだろう。

 それにはシャロラインも同意し、お茶を口に入れた。


「そうだな。少なくとも、エリアを泣かせるような奴ではないか」


 その何気ない言葉に、スライプは何故か驚いたように目を見開くと、シャロラインを凝視した。


「シャロって、テラバスの事、人畜無害な奴だと思ってる?」

「…………いや、別に……」


 シャロラインは首を縦に振れなかった。

 優しい奴ではあるが、無断で豊胸なんてやるような奴でもある。脅威では無いが、無害かと問われると答えに詰まってしまった。


「テラバスの相手は一苦労だよ。僕は昼に暴れ回る人だけど、テラバスは夜に暴れ倒す人だからね」


 スライプは昼間「シャロ~」とベタベタくっつくのに、夜はわりとすぐ寝てしまう。スライプ曰く、テラバスはその逆だという。


 シャロラインは興味無いのか、それとも察したのか、「……そっか」と短くそっけなく答える。

 そういう意味なのだから、わざわざ聞き返すような事はしなかった。


「たとえ泣いたって()めてくれないよ? まぁ、エリアにはそんな酷い事しないだろうけど~」


 これから大変だ~、とのほほんとした口調のスライプ。

 お茶を(すす)りながら平和を噛み締めている彼だったが、唐突に大声を出した。



「そうだ、シャロ。手ぇ出して、手!」


 こんな風に! と、スライプは左手の甲を相手に見せるように差し出し手本を見せる。

 シャロラインは首を傾げながらも、大人しく言われるがまま手の甲を上にして差し出した。



 スライプは、隠し持っていた小さな箱をパカッと開けると、その内の1つを取り出し━━━━


 シャロラインの左手を下から支えるようにやんわり持つと、その薬指にゆっくり、細く小さな銀色の円環を()めた。


 やがてスライプの手も離れ、シャロラインの指に残ったのは日差しに反射し、小さく輝く指輪だった。


「……これは?」


 シャロラインが指輪の意味を問うと、スライプは嬉しそうに答えた。


「結婚指輪といってね。テラバスがいたところだと、結婚してる男女はその証として、お互いの左手薬指に指輪をつけるんだって! その話を聞いて、銀細工(ぎんざいく)屋に頼んで作ってもらったんだ!」


 僕のもあるんだよ~と、スライプは自分で指輪をつけた。

 お互いの指に()まる、銀色の小さな輪。



「サイズ、よく分かったな」

「そりゃ毎日触ってる手だからね」


 機体が変わっているといっても、テラバスの事だから細かいところも完璧に調整しているだろうと思い作ってみたら、本当にぴったりサイズだったのだから、改めて彼の細やかさに仰天したというのは余談である。



 シャロラインは指輪をまじまじと見つめ、反射の眩しさに瞳を少し細めた。


「……綺麗だな」

「気に入ってもらえた?」


 スライプの問いかけに、頷いて答える。

 

 ふいに、スライプはシャロラインの左手を掴み、両手でぎゅっと握りしめた。


「これで、君は僕のものだ。嫌いになっても、出ていきたくなっても、どんなに頼まれたって離すもんか」


 まっすぐに妻を見つめるスライプ。


 夫婦となる誓い、夫婦となった証。

 何があっても絶対に離さない……スライプは最愛の人の指に、小さな小さな枷をつけたのだ。


「何だ、そんな事……」


 珍しく真面目な表情をする夫に、シャロラインは、ふっと微笑した。


 ━━とっくの昔に、私はお前のものだろう……?


 そんな事を口走ってしまえば、この男は調子に乗るだろうから、心の中に留めておいた。


 言葉を飲み込んだ後に残るのは、シャロラインの微笑みだけ。美しい妻の、夢見るような表情に、スライプは驚喜で顔を輝かせながら詰め寄った。


「え、何? 何考えてるの?」

「別に、なーんにも」

「嘘だっ! 言って! 言ってよ~!」



 2人の笑い合う声が、蒼天に舞い上がった。




 些細(ささい)な不安で喧嘩になって。

 どうしようもない事で悩んだりした時もあった。


 けれども、微笑みは互いのためだけにあり。

 手には確かな愛の証が残された。



 周囲に邪魔者はいない。完全に2人だけの世界。

 この陽気すら愛おしく思えるような、これ以上ない幸せだった。




                    〔本編・完〕





 最終回……本編、これにて終了でございます。


 結局この物語はなんだったのか、と言われますと窮するほど脱線しまくった内容となり、これは反省点として留めておく所存でごさいます。


 不定期更新で迷惑かけましたが、お付き合いくださいました読者の皆さま、本当にありがとうございました。


 残り2話分、番外編と後日談を書いて完全終了となります。

興味がある方はもう少し待っててください。



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