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ゆるふわ系ウォーライカーとツンデレ鋼鉄の伴侶  作者: 鞘町
4章 それは、人か否か
73/85

72話 闘争か逃走か


6000字から削って4000字になりました。

今回もよろしくお願いします!



「ぐ……はぁ……っ!」


 繰り返す荒い呼吸が、自らの耳朶(じだ)に触れる。


 魔力を宿した槍の穂先が剣の腹に衝突し、涼やかな音を立てて砕けていく。

 破壊するたびに飛ぶ氷剣の飛沫が、頬を掠めるたびに薄い切り傷を刻んでいき、共に戦うシャロラインも、スライプの動きに合わせつつ攻撃を上手く(さば)いていた。


 軽い目配せと呼吸で成り立つ……己の役割を理解し、相手の癖を理解している関係。ずっと相棒として戦ってきているので、今回も問題無く連携を発揮出来ている。


 ━━しかし、攻めきれない嫌な違和感が拭えなかった。





 ■■■本目の氷剣を破壊し終えたところで、スライプは大きく後方へ飛んだ。


 対峙する古代王の魔法は実に多彩だった。武器の造形はもちろんトラップなど何でもござれ……炎と氷しか扱わないのに、対処の面倒くささはあの嫌いな魔女にも匹敵する。


 正直、ここまでの強敵は嬉しい誤算……スライプは何だか苦痛も快感になってきていた。


 驚喜(きょうき)で笑いたいところだが、状況は笑えない。スライプは足元の氷……敵の剣だったものを踏み潰した。


「クソッ……何本目だ……ッ」


 大きな破片が、小さな欠片となって散らばっていく。


 (はがね)の剣と変わらぬ殺傷能力を持つが、魔法であるなら自前の結界破りの魔法で破壊が可能である。しかし、こうも何回も回復されると、いい加減食い破り続けるのも一苦労になってきた。





 性格上、スライプが使う結界破りの魔法は乱発するような代物では無い。

 本人がもう少し力のコントロールが出来るようになればいいのだが、(テンション)が上がりやすく、「感情」が欠点であるスライプに、繊細な使い方はほぼ不可能なのである。


 よって、スライプはこの魔法を「何も考えず全力を込める必殺技」として使用する事で、欠点を乗り越え折り合いをつけていたのである。


 とにかく燃費が悪い……毎回全力の魔法を何発も続ければ、当然、威力も精度も落ちる。結果……困った事に、剣の破壊に2撃必要(・・・・)となってしまったのだ。

 

 呼吸を整えている間にも、古代王の手には氷剣が握られる。恐らく、さっきよりもより硬質に作られているだろう。


「スライプ、大丈夫か?」


 すぐ隣に、シャロラインが軽やかに着地してくる。髪やドレスを(ひるがえ)し、金眼で王を見据えながら拳を構えた。

 その瞬間、スライプは違和感の正体に気付いた。


「シャロライン……もしかして、動きづらいのか(・・・・・・・)?」


 シャロラインは一瞬体を震わせ、唇を噛んだ。


 違和感の元凶……シャロラインの異常は、この寒さが原因であった。


 自らが持ちうる少しの熱と、とにかく動き回ることで関節の氷結を防いでいるが、そんな事では間に合わない強すぎる魔法の冷気が鉄の体を(むしば)んでいた。

 アンドロイドは暑さや寒さの制約をあまり受けないのだが、この王から放たれる魔法の威力には、少々苦戦を強いられているようであった。


 シャロラインは、いつも通りに動いているはずだったのに見透かされてしまったと、つい苦笑いをする。


「……少しな。でも問題無い。技師の制止(テラバスストップ)も無いから、きっと大丈夫」


 そう言われ、スライプは横目でテラバスを見た。


 戦闘の邪魔にならないよう(はじ)にいる彼も、シャロラインの変化には気付いているだろうが、何も言わず口をつぐんでいた。



  ◇


「……頑張るな。お前も女も」


 対峙する古代王は余裕綽々(よゆうしゃくしゃく)といった様子で、スライプを見遣る。


「かつて戦った王族共でも、こんなにしぶとくなかったぞ」

「そりゃ、どーも……ッ!」


 一合━━スライプ渾身(こんしん)の振りが放たれた。


 ガキンッッ、と激しく衝突する音をたて、力を込めた一撃が防がれる。魔力が込められていない素の槍では、剣の破壊にまでは至らなかった。

 しばらくそのまま拮抗し、ギリギリと音をたてる武器をつまらなそうに見ていた王は、これまた、つまらなそうに言い放った。


「ただ━━少し飽きてきたな」


 古代王は緩慢な動きで、つま先を床に軽く打ちつける。





 ━━突如、周囲の温度がぐんと下がった。


 一瞬で空気が冷え、スライプの呼吸がヒュッ、と止まる。

 襲いかかる異常はそれだけに(とど)まらず、足元が瞬く間に凍結し、床に縫いつけられた。


 氷が膝下まで覆い、動きを妨害する。

 呼吸が止まったスライプは呻き声すら出せず、眼前の剣を高く掲げる王を見た。



 ━━恐らく、この1撃は重い。

 防ぐ事が出来ても、2撃目は無理だ……。

 いや、下手したら1撃目で槍ごと両断されてしまうかもしれない……。


 回避も、足元が氷結しているせいでままならず、結界破りの魔法を使っても、確実に1撃で壊せるかどうかは分からない。


 ━━それでもやるしかなかった。





 振り下ろされるより早く、右足の氷を破壊。

 左足は間に合わないので、体を(ねじ)り剣の軌道から逃れる━━━━

 遮二無二(しゃにむに)床に転がると同時に、すぐ横で粉砕された床の瓦礫が跳ねた。


 2撃目に備え、左足もすぐさま破壊し体勢を整える。必死にやって、ようやく逃れる事が出来た。


「……っは……、は……っ」


 瞬間的な寒さが少し(ゆる)み呼吸が戻ると、必死に酸素を肺に入れる。目を見開き、胸を鷲掴(わしづか)みにするように押さえた。



 スライプの決死の行動に、古代王は思わず感嘆の声をもらした。


「おお……! やるなぁ若者。……そのガッツに免じて、ここを最期の舞台(・・・・・)にしてやろう」


 そう言うと、古代王は軽快に指を鳴らす━━刹那、ズン……ッという地鳴りが響いた。

 激しい振動が3人を襲う。スライプはよろけながら古代王を睨んだ。


「……っ、何をした!?」

最期の舞台(・・・・・)と言っただろ? ここは間もなく崩壊し、お前達は1人残らず死ぬ。お前達の選択肢はオレに殺されるか、崩壊した城に潰されて死ぬかだ」


 古代王は楽しそうに笑っている。残りわずかな人間の命を、(もてあそ)ぶように眺めていた。


 スライプは歯噛みした。

 逃げようにも、背を向ければあっという間に斬り殺されるだろう。どうするべきか決めあぐねている間にも、崩壊は進んでいく……。




 戦いの舞台は崩壊する古城。目の前には、自分達を逃がす気の無い強敵。


 スライプは最終手段の選択を迫られ、ゆっくり息を吐いた。




「シャロライン、テラバス……俺が言った事、覚えているな?」


 ここに来た初めの頃、スライプが2人に言った言葉。自分が食い止めている間に逃げろという緊急時の指示……。エリアのもとへ帰すためテラバスを最優先に、シャロラインにも逃げてもらい、自分はどうにか生還する。


 死ぬ確率は高いが、戦うための体であるならすぐにはくたばらないだろうと、自らの生命力()に賭ける事にしたのだ。

 状況は最悪、揺れるせいで足場はすこぶる悪いが、自分達が逃げられるくらいの時間稼ぎをするだけ……ここが正念場だとスライプは槍を握りしめた。









 しかし、そんなスライプの自己犠牲を、幼馴染が止めた。


「いや、お前は(とど)まるな」


 テラバスは2人の近くにまで歩み寄り、冷たく言い放った。




「シャロライン、お前があいつの足止めをしろ」

「な……ッ!」


 スライプは狼狽した。さっきと話が違う……ここに留まるのは自分であるはずだ。なぜテラバスがそんな事を言い出すのか、意味が分からなかった。


 シャロラインも、言った通りにするべきだ。すぐに……すぐに逃げてほしいと願う。

 しかしその願いに反し、シャロラインは力強く頷いた。


「……分かった」


 スライプは絶望に染まった。

 怒りと混乱で、自然と呼吸が荒くなる。


「……ッ、お前ら! 俺の言う事聞けッ!」


 ダンッッッッ!! と石突で床を叩く。

 テラバスは今、最愛の妻(シャロライン)を殺そうとしている……その現実に、憎悪にも似た眼光を向けた。

 


「いいや。聞くのはお前だスライプ」


 スライプの怒号を、テラバスは泰然(たいぜん)とした表情で受け止める。

 2人のやり取りを見たシャロラインは、神妙な面持ちでテラバスへ問うた。


「……任せても、いいんだな?」

「ああ。信じてくれ」


 確かな答えに、シャロラインは満足そうに微笑んだ。そして、ゆっくりスライプの横を通り過ぎ、古代王の前で立ち止まった。


「じゃあなスライプ……。どうか無事に、ここを脱出してくれ……」

「…………っ」


 スライプは歯を噛みしめ眉間に皺を刻み、怒りのような、悲しみのような複雑な表情を浮かべた。ここは自分が残るべき……それを1番分かっている人達のはずなのに、どうしてもさせてくれない。


 疑問ばかり浮かんで、何も考えられなかった。




 ぼうっとするスライプの目の前に瓦礫が落ちてくる。

 これ以上留まっては、逃げ道すら無くなってしまう……テラバスは強引にスライプの腕を引いた。


「もう崩れる! 行くぞ!」


 一瞬、ガクンと力無く膝が折れる。スライプはその衝撃で我に返り、だんだんシャロラインとの距離が開いていくのが分かった。


「待て! 待てよ! ……待ってったら……!」


 声音が怒りのものから、悲しみのものへと変わる。

 テラバスを制止させ(とど)まろうと踏ん張るも、引きずられるように離され、スライプはもがいた。


「シャロ……! シャロォ……!」


 スライプは、妻の背中へ手を伸ばす。

 しかしシャロラインは、夫の必死な叫びにチラリとも振り向かなかった。


「あ…………あぁ…………っ」


 目から溢れるもので、視界が歪む。


 テラバスに無理矢理連れていかれ、天から瓦礫(がれき)が降り注ぐなか、古代王へ立ち向かう後ろ姿が、スライプが見た妻の最後の姿だった。






今話もお読みいただきありがとうございます!


勘のいい方なら今後の展開が読めていると思いますが、それは心の中に留めておいてください!


次回更新は未定とさせていただきます。

見捨てずに、これからもお付き合いください!



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