70話 友情にヒビが入る時
今回は2500字ほど。
ゆっくり読んでくだされ。
王都の繁華街から離れた森の中。スライプ達の目の前には古びたお城がそびえ立っていた。
かつて栄華を誇ったであろう国の象徴も過ぎ去る年月には勝てないのか、茶色にくすんだボロボロの外壁にはこれでもかと蔦が張り付き入り口を塞いでいた。
ちなみにマルナトはいない。
どうやら連休は取れなかったようで、3人の道案内をしたあと「ご武運を」と言い残しすぐに帰ってしまったのだ。
そんな廃墟な城の入り口を、スライプはザクザクと蔦を切り落としながら発掘している。
はじめはシャロラインとテラバスも手伝おうとしたのだが、何故かスライプはそれを断り、1人で作業を始めたのだ。
無言、無心で作業を続けるスライプの背中を眺めながら、2人は声を落とした。
「昨日、何かあったか?」
いくら気乗りしない仕事とはいえ、もうちょっとおしゃべりでもよさそうなもの……。
原因に心当たりはないかと聞くと、シャロラインはうーんと唸り、昨日の出来事を思い返す。
「あった事といえば、スライプから人間になりたいかって聞かれたくらいだが……」
ああ、それだ……と確信したテラバスは内心嘆息した。
スライプの頭を悩ませていた問題━━サラスティバルから提案された「アンドロイドの人間化」
機械の体から有限の命へ作り替えるという、秘密裏に進行、製造されていた計画である。
スライプの中では現状維持という答えを出していたが、アンドロイド本人……シャロラインに聞いたのだろう。
そして覇気が無いあたり、その決意が揺らいだか。
彼の幼馴染として彼女の修理技師として、改めて答えを聞きたいところだが、繊細な問題ゆえ聞き方をある程度考慮しなくてはならない。
どうしたものかと考えていると、スライプがパッとこちらを振り返った。
「道は出来たよ。ほら、さっさと行こう」
邪魔な蔦を切り終え、入り口を確保したスライプは返事も待たず先に入っていってしまった。
声音はいつも通りなのに、表情は少し抜け落ちている。
これからどんな戦いがあるか分からないのに、どこか上の空な夫の体たらくを叱咤しようとするシャロラインに、テラバスは肩に手を置きそれを止める。
制止されたシャロラインが見上げた先に、ひとまず落ち着けと言わんばかりに苦笑しているテラバスの顔があった。
そして、明らかに引きずっている様子を見せるスライプを見守るように、テラバスとシャロラインは後ろから静かについていった。
◇
蔦が鬱蒼と生い茂る外壁とは対称的に、踏み入れた内部は凍った世界だった。
透き通る薄氷が壁や床を覆い尽くしていて、隅には霜が張りついていた。その光景は、美しさすら感じさせる。
「うわ、さむっ…………くは無いな……」
まるで巨大な冷凍室に入ったような光景に、反射的に腕を抱えぶるりと体を震わせたが、実際はそこまで寒くなくむしろ快適な気温だった。
しかし、見た目の冷ややかさに対し、触れるとまるで火に手を突っ込んだように熱かった。
相反する力が、互いの能力の殺さないように共存していたのだ。
これが棲まうという魔人の手によるものなら、2つの魔法で広い城を覆う事が出来るほどの力を持った、相当な使い手だと予想される。
━━一応、最悪を考えておく必要があった。
「そうだ。敵と遭遇する前に伝えないと」
スライプは足を止め、背後にいる2人へ向き直った。
「もしも全滅しそうになった場合、僕が食い止めるから、テラバスは全力で逃げて、シャロはテラバスの手助けをする事。いいね?」
少しだけいつもの調子に戻ってきた幼馴染に安堵しながらも、テラバスは首を傾げた。
「オレは逃げてもいいのか?」
その言葉に、スライプの眼光が変わった。
疑問を不快に思っているような鋭く、冷酷なものに。
「……逆に、お前がいると邪魔なんだよ。僕とシャロなら隙を見て逃げれるし」
回復魔法も使えない非戦闘員などいても意味無いし、万が一人質にでもされたら、さらに面倒だ。
ここに来て急に邪魔者扱いされ、気を悪くしたテラバスは眉間に皺を作る。
「……んだよ。だったら、オレはお留守番でもよかったって事か?」
「極端に言えばそうだけど……まぁシャロの具合でも見てて」
スライプの言い草に、テラバスはさらに顔を歪めた。
結構怒ってる感じで言ったはずなのに、淡々と返されてしまう。
普段は緊張感に欠ける男なのに、戦闘となると割と辛辣になる幼馴染に、その妻はフォローを入れ宥めようとする。
「すまないな。一応、あいつなりの命の預り方なんだ」
「わーってる。……伊達に、十何年も腐れ縁してねぇよ」
テラバスはぶっきらぼうに答える。
2人は知り合ってから同じような道を歩いてきたが、生きてきた環境が違った。
一方は殺し殺される……命のやり取りの果てそれを破壊するような生き方で、一方は壊れた意志持つ機械人形を直し生存させる。
後方で戦力支援していた人と、前線で生き抜いてきた人との差は歴然であると、理解はしている。
王の臣下として戦うために生まれ、戦闘のプロのスライプからすれば素人同然だろうが、一方的な役立たず扱いは心外だった。
睨むテラバスにスライプは一瞥を投げると、再び氷の回廊を歩きだす。
「……分かっているけど、やっぱりムカつくな」
ぼそっと、隣のシャロラインにも聞こえないように呟く。
ここで舌打ちすれば、響いてスライプの耳にも入るだろう。
仲違いするのは最大の悪手だと分かってはいるが、こちらも人間。腹立つものは腹立つ。
しかし1人だけ引き返すのも癪なので、歩みはスライプの方へ進ませる。完全に意地であった。
━━2人の空気がピリピリしだすのを感じる。亀裂が、溝が生まれていくのを感じる。
━━しかしシャロラインは、2人へかけるべき言葉を見つける事が出来なかった。
完結させる予定だった70話を迎え、まだ終わる気配のない物語ですが、ようやく佳境を迎えました。
おそらく、今月は最後の更新となるでしょう。
出来れば1年たつ前に終わらせたいものです。
引き続き、評価ご感想お待ちしています。




