68話 僕らを観光に連れてって!
今回は3000字くらいです
豪華……ではないが、およそシェフがよりをかけたであろう美味しい朝食をいただいたあと、数人のメイドさんに見送られながらマルナト同伴で外出をする。
今日の目的地は離れの城ではなく、電車も走る王都中央通り。国王からのお言葉に甘え、王都観光へくり出す予定であった。
とにかく人が多く、往来が激しい中央通り。その道の端の方で一行は1度立ち止まった。
私服だが腰にはしっかり軍刀を装備しているマルナトは、腕を組み3人の前に仁王立ちになる。
そして、軍人らしいハキハキした口調で訓示を述べた。
「今日は王都を観光するが、節度を持って行動すること! はぐれないこと! 喧嘩しないこと! それと、おやつは銅貨3枚以内だ!」
「はい! マルナト先生!」
教師然としたマルナトを見て、スライプは聞き分けのよい子供のように元気よく手をあげた。
「うむ、スライプ君は元気があってよろしい! ……と、冗談はさておき。いらないかもしれないけど、オレが王都を案内させてもらうよ」
「仕事はいいのか?」
「戦争があまりない今、訓練しかやること無いから部下達だけでも大丈夫だと思う。ので、休暇をもらってきた」
1日休みだぞ! と引率の先生は胸を張る。
「一応、国王からの預かり者だから、何かあっても困るし、何か起こしても困る。……まぁ、案内役兼お目付け役だな」
スライプ達は任務遂行前の大切な身であり、ここでの問題行動などご法度である。
よってトラブルの要因になりそうなスライプの武器は、屋敷に安置されていた。
「まあ、前みたいに誘拐されても困るしねー」
「……蒸し返すなよ」
記憶が一気に甦る。
幻覚でスライプに刺されたり、監禁され暴力に次ぐ暴力を受けたり。挙げ句の果てには奴隷として競りにかけられスライプにお買い上げされたり……なんとも散々な目に合ったのだ。
被害を受けたのもテラバスだけではない。今でこそ五体満足だが、スライプも1度片手片足を失っていた。
その時に、いろんな人の助力があったからこそ、2人は今も生きているのである。
「それじゃ、まずは王都初心者のシャロラインのために、メジャーどころを案内しますか!」
こうしてマルナトを筆頭に、ぶらり王都散策が始まった。
◇
3人はマルナトの案内で大きな教会の見事なステンドグラスを見たり、王都指定遺産にも定められている大庭園を観光したりと、充実した時を過ごしていく。
途中、休憩と腹ごしらえをしようと立ち寄った喫茶店で、シャロラインにとって意外な事が発覚する。
それは「同期の軍人」という3人の共通点の昔話から始まった。
4人が座るテーブルにコーヒー3つとオレンジジュースが置かれ、後れてサンドイッチが登場する。
マルナトは迷うことなくオレンジジュースを手に取り、美味しそうに飲み込んでいた。
それぞれが注文した料理とドリンクを口に運ぶなか、人間の付き合い程度にコーヒーを飲むシャロラインは、3人の会話に耳を傾けていると、ふと疑問が浮かんだ。
「あれ? テラバスはスライプに誘われて軍に入ったのではないのか?」
シャロラインからの疑問に、隣同士に座る2人は顔を合わせる。そしてテラバスは眉間に皺を寄せ、スライプは苦笑いを浮かべ頬を掻いた。
シャロラインが首を傾げていると、答えはすぐに明かされた。
「シャロライン、逆だ。逆」
「僕がテラバスを誘ったんじゃなくて、テラバスが従軍するから僕もついてった、って感じ」
意外だった? とスライプは、にこにこしながら向かいに座るシャロラインを見た。
テラバスは食べていたサンドイッチを飲み込んだあと、「オレの過去も少し絡むんだが」と話を続けた。
「オレがいた孤児院は、16歳になると強制的に追い出されてしまうから、家無しになる前に従軍する手続きを取ったんだ。その話をスライプにしたら、じゃあ一緒に、という事でこいつも手続きした、という事らしい」
戦闘は好きだが、軍人志望ではなかったスライプ。
彼は、幼馴染が生きていくためにとった行動に同行する形で、従軍したのだという。
驚くシャロラインの隣で、マルナトもへーそうなんだ、と目を丸くしていた。これは、マルナトにとっても意外だったらしい。
休息を十分に取り、空腹も収まり、残り少ない飲み物での長居がつらくなってきたところで、代金を払い店を出る。
とりあえず食事代はマルナトがもってくれるようで、スライプ達はありがたくご馳走になる事にした。
そのあとは、中央通りの道沿いに進んでいく。
途中、スライプの足が止まった。彼が目を奪われたのはアクセサリーを扱うお店で、銀の細工が美しいネックレスや髪止めが並べられている。
その中でも気になったのは、可憐に波打つリボンだった。
色の種類も多く大きさも充実している。愛するシャロラインがつけたらさぞ似合うだろう。
「シャロ、新しいリボンはどう?」
金髪縦ロールを束ねている、シャロライン愛用の黒のリボン。女の子なのだからもっと色んな種類を持っていてもいいのでは? と唐突に思いプレゼントを提案をするも……。
「間に合っているから、いらない」
それは遠慮なのか、本当にいらないのか……冷たく、あっさり言われてしまった。
しかしそんな事では負けないスライプは、不要だと言う妻を無視して、並べてある色とりどりのリボンを手に取る。
「ピンクは?」
「女の子らしい色は私の趣味じゃないな」
「白はどう?」
「汚れが目立つだろ」
「んーじゃあオレンジは?」
「私にこの色は派手だろう」
どうしてもデレ……納得してくれないシャロライン。どうしたものかと思い、スライプは幼馴染に知恵を求めようと後ろを振り返った。
すると、テラバスが何組かの女性に話しかけられているのが見えた。彼はツレがいるとでも言っているのか、こちらを指差したり首を振ったりして、一丁前に困っている。
なんとなく、その光景がちょっと腹立たしかった。
今はロングジャケットを羽織る、いい男感を醸し出すテラバスだが、もしこれが普段着だったらどうなっていただろうか……。
スライプは「ちょっと行ってくる」とシャロラインから離れ、割り入るようにお邪魔をしてテラバスを回収する。
そしてボソボソと低音で不平を鳴らした。
「お前……王都で女の子に話しかけられて嬉しそうにしてたってエリアにチクるぞ」
「んな表情してねーよ。……それにお前だって、隣に女性がいるからであって、1人でその辺1周すれば寄ってくると思うぞ」
仲睦まじく歩くスライプとシャロラインに入る隙は皆無なのに対し、1人で歩くテラバスは話しかけやすい格好の的。
よって、ナンパはテラバスに集中するのである。
「んじゃマルナトは?」
前方にはシャロラインをエスコートするマルナトの姿。そのせいか、周囲に現れる女性の影は特に無い。
「……あいつは……先生だから」
テラバスの答えに、スライプも頷いた。
本人がいないところで、2人の結論が出たのである。
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次回更新は未定とさせていただきますが、来週の更新を目指して製作中です




