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ゆるふわ系ウォーライカーとツンデレ鋼鉄の伴侶  作者: 鞘町
4章 それは、人か否か
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66話 王と『軍馬』


 

 隙間からもれる光の眩しさに一行は目を細めた。

 扉を開けた先。

 もう陽が落ちているというのに、やけに明るく、広く美しい空間━━━━


 スライプは息を飲んだ。

 (うめ)き声1つあげるのも躊躇(ためら)われる、ひりつくような神聖さを持つ(おごそ)かな空気。


 ここは、民が(こうべ)を垂れ、国王に直訴(じきそ)するための謁見(えっけん)場であった。

 マルナトは慣れた様子で、その中へ入っていく。それに習い、スライプ達も靴音を立てながら入る。


 つるつるした材質の、己の姿を鏡のように反射する白い床と壁。

 視線の先、数段ある階段の先に1つの椅子━━━━

 真紅と黄金の装飾が(まばゆ)い、頂点のために(しつら)えられた玉座である。




 その椅子の近くに、金砂の髪が美しい美貌の━━全裸の男がいた。体型は引き締まっていて、無駄がない。

 あろうことかパンツもはいてない……完全に一糸まとわぬ状態であり、周りには、男のものとおぼしき衣服が散乱していた。


 スライプ達は開いた口が塞がらない。全裸男も突然の来訪者に声が出ないのか、目をしばたたかせる。


 後ろを向いていたので大事な部分は見えないが、問題はそこではない。

 この空間には、圧倒的に不釣り合いな人物。

 フリーズすること数秒、スライプは声を絞り出した。


「ふ、不審者だー! マルナト! 警備兵を! すぐに警備兵を! …………いや、僕が殺った方が早いか!?」


 スライプは槍を構え、仲間を守るように前へ(おど)り出る。そんなスライプを、マルナトは慌てて止めた。


「落ち着いてくれ我が友! あの方は不審者では━━」


 背後から抱きつくように片手でスライプの腰を固定し、片手で槍を静止させる。

 対する全裸の男は、武器を構え暴れ出すスライプに驚いたのか、わたわたしている。


「いや、ちょ、待って! いまっ……今着るからー!」

「どうしました、我がお━━…………っ!」


 騒動を聞きつけたのか、玉座の奥扉から赤毛の男が現れる。


 燃えるような赤い髪に対し、可憐(かれん)な花のような紫色の双貌を持つ長身の男性。

 スライプと全裸男を交互に見遣り、散らばっている服を見ると、この神聖な謁見(えっけん)場で繰り広げられていた出来事を理解し、急いでその男のもとへ駆け寄った。


「だからぁー! ここで着替えるなっていつも言ってるじゃないですかー!」

「だって、ここの方が解放感があるからさ……」


 顔を引きつらせ怒鳴る赤髪の男の手を借りながら、金髪の不審男性はいそいそと着替えをはじめる。


 金砂の頭髪を手ぐしで整え、軍服のような詰め襟の黒服を崩すことなく着こなし、上には重そうな黒いマントを羽織(はお)った。

 腰には鞘付きの剣を装備し、膝下までのブーツを履く。


 表情も先ほどの情けなさは消え失せ、キリッとした精悍(せいかん)な顔つきとなっていく。

 あっという間に、全裸の不審者から王者の風格を漂わせる青年へ様変わりをした。


 着替えを終えた男は、意匠が見事な椅子にどっかり座ると足を組んだ。赤髪の男性はその隣に立つ。


「よく来たな! 我が愛する有象無象の国民達よ!」


 鎮座した金髪男が、大仰(おおぎょう)に言い放った。

 4人の視線を受けながら、ふんぞり返る。


「私はハウルス・ノーザ。この国の王である。……こっちは私の側近、アーフィール・シラルガンだ」


 王からの紹介を受け、隣に直立していたアーフィールが一行に向かい一礼した。

 国王━━ハウルス・ノーザは威厳を……必死に取り繕うが、それも後の祭、マルナト以外の3人から冷淡な目を向けられてしまう。


 やがて、3人の冷眼と沈黙に耐えきれなくなった側近が、頭を抱え苦い顔で言った。


「……王よ、あの醜態のあとに、それは無理です。王の御前だから(こうべ)を垂れなさい、とか言えません……」

「知ってる……。特に、そっちの槍持ちの奴からは、猜疑(さいぎ)と殺気がごちゃ混ぜになった雰囲気を感じる」


 豪奢な椅子に座する王も、肘掛けに置いた手で頬杖(ほおづえ)をつきながら、ため息混じりに呟いた。

 風格を見せつけ、さっきの出来事を無かったように仕向けたかったのだが、失敗に終わってしまう。

 そんな面目丸潰れな国王へ、マルナトはフォローを入れた。


「ハウルス様はとてもよい統治をされる方だ。……たまに……たまにご乱心されるのが、少し(きず)なだけなのだ」

 

 全裸で仁王立ちしてようと、無駄な見栄を張ろうと、才能は本物だ。

 国境平定戦争(前に起きた戦争)では、敗戦国を植民地化や凌辱・蹂躙、過剰な搾取(など)をせずに、引き続き1つの国としての統治を認めるという英断をした有能な王なのだ。

 ……出来る王のはずなのに、若いゆえ(わり)と馬鹿なのだ。


「そこは堂々と馬鹿と言っていいですよ、マルナト殿」

「あ、主を(かろ)んじる感じ……。アーフィール……お前、先祖代々そこは変わらないんだな」

 

 お前もフォローしてくれよ……と呟くハウルス王。どうやら王の威厳を、側近がぶち壊していくスタイルの主従関係らしい。


「今回は自業自得ですよ。……さ、王よ、この者達に何か用件があるのではないですか?」


 アーフィールに促され、ハウルスは思い出したように「あっ」と声をあげた。


「あるある。そのためにマルナトやらアンジェスタやらに協力してもらったんだからな!」


 ハウルスは背もたれから背を離し前のめりになると、その動きに合わせ、スライプ達も立ち姿勢を直す。

 そして体の前で指を組むと、神妙な面持ちで話を切り出した。

 

「実は、近々結婚しようと思ってるんだが」


「それは……」

「おめでとうございます……」


 スライプとテラバスから、かろうじて出てきたお祝いの言葉に、うんうんと満足そうに(うなず)いた。


「その婚約者に、離れの城をプレゼントしようと思ってな。……ただ、その城には魔法を使う魔人がいるらしいんだ。その討伐を君達にやってもらいたい」


 ふと、スライプの雰囲気が変わる。穏やかな視線は少し鋭利になり、変化を見たハウルスもニヤリと笑った。

 国王直々の討伐依頼。普通の人ならすぐに承諾し任に赴くのだが、スライプは違った。


「そんなの、他の人に頼めばいいのでは?」


 平然と、面倒くさそうに言い放った。

 国軍には、腕のたつ人物がごまんといる。わざわざ遠い所からスライプ達を呼ばなくても済んだ事なのだ。

 もっともな台詞に、ハウルスは頬を掻いた。


「そりゃ、ね。……前にサラスティバルから、何かあったらこいつに頼め、と君の名を言われてね。あの魔女にそこまで言わしめる君なら、その辺の軍人よりは信用出来るだろ?」


 スライプはつい舌打ちをしてしまった。ここでも、嫌いな魔女が関わっていたのだ。

 どこまでも、あの魔女の名がついてまわるストレスで歯軋(はぎし)りをする。


「具体的な場所はマルナトが知ってるはずだから、そいつに聞くといい。城に乗り込み、魔人を倒す事が出来たら任務成功だ」


 ちゃんと報酬も用意してあるぞ? とにやにやしながら迫るハウルス。


「もし、断ったらどうなるんだ?」

「お前達一国民(いちこくみん)に、拒否権があると思っているのか?」


 テラバスの疑問を鼻で笑い一蹴(いっしゅう)する。

 冷笑を浮かべ、受諾以外の選択肢を与えない。


 一方スライプは、わずかに嫌な汗をかきながら悩んでいた。

 今まで通り、気に入らない依頼は断ってしまえばいいのだが、依頼主は国王だ。……どんなにちゃらんぽらんな人だろうと、国王には変わりない。

 下手に断ると最悪、国民権を剥奪されここで暮らせなくなってしまう。それは自分だけでなく、妻や幼馴染にまで及んでしまうかもしれないと危惧(きぐ)していた。


 正直、やり方も依頼も気に食わないが、受けるほか無かった。


 スライプは片膝をつき槍を床に置くと、胸に手をあて、わずかに(うつむ)き目を閉じた。

 今さらながら、王へ(こうべ)を垂れる。長い沈黙ののち、答えを返した。


「…………その依頼、謹んでお受け致しましょう」



 こうして、急遽(きゅうきょ)発生した王からの任務のため、槍を振るう事となった。





「よろしく頼むよ。仕事は近いうちにしてくれればいい。どうせ王都に来たばっかりで、まだ遊んでないんだろ? 明日は休むなり遊ぶなりして、英気を養ってくれ」


 話が終わり、謁見場から次々退出する一行。

 最後にスライプが出ていく瞬間、ハウルスが声を張り上げた。


「待て。改めて、君の名を聞きたい」


 呼び止められたスライプは振り返り、王の金眼を見た。その瞳の奥に、名前以外に確認したい事があるような思惑を見る。しかし名前を言わないのも変なので、やや間を置いて口を開いた。


「スライプ・ハーテリア。……ただ、あの家とはもう関係ありませんよ。国王陛下」


 そう言って、スライプは1度お辞儀をすると、(きびす)を返し謁見場から出ていった。



 王と側近が残され、静かになった謁見場で、ハウルスは息を長く吐きながら天を見上げた。


「……なぁ、アーフィール」

「何ですか?」

「あれが、私の『軍馬』か?」


 側近へ問う声色はどこか残念そうである。

 主の心情を理解したのか、アーフィールもため息混じりに肯定した。


「そう、なりますね。ハーテリアと名乗っていましたし」

「なんの(しつけ)もされていない……意味だけ知らされたような暴れ馬がか?」

「知りつつ、それを拒絶しているように見受けられますね。……本来なら、主と共に戦場を駆け抜ける軍馬(スレイプニル)側近(わたし)とは違う役割を持つ、王の側にいるべき存在」


 ふとハウルスが、滔々(とうとう)と語るアーフィールを見遣ると、少し不機嫌なっているのが見えた。


「不出来な奴が()の近くにいるのは不満か?」

「いえ、どんな人材であれ、王に仕える人が増えるのに不満はありません。……かつて貴方の先祖が、不出来だった私の先祖を側に置いたように」


 先代から聞かされている昔話がある。

 当時の王政に反旗を翻したハウルスの先祖が、ある出来事がきっかけで処刑しようとしていたアーフィールの先祖を側近として仕えさせたという話。


 それから何代も何代も続き、王と側近という関係は今日(こんにち)まで続いてきたのだ。

 その信頼関係は、もはや並のものではない。


 その途中に現れたのが『軍馬』である。

 側近が政務官なら、『軍馬』は戦闘特化の戦争大臣。ハーテリア家は代々、数多の種族の血を組み換えた男子を『軍馬』として王家に献上してきた家系なのだ。

 ハーテリア家の男子であるスライプも、王に仕える『軍馬』に相応しい力を身につけたあと、ハウルス王に献上される予定であったが、色々あって結局献上されぬままになってしまったのである。


 しかしハウルスは、それでいいと思っていた。戦争大臣などいらない……今は戦争をする時代では無いのだ。

 かつて起きた戦争で、ハウルスが敗戦国を領地にせず手放した事がきっかけとなり、世界全体が平和へ動き出しているのだ。それを自ら壊すような事はしたくない。


 だが、いざ(おのれ)の『軍馬』を目の当たりにすると、ショックが隠しきれない。改めて献上されなくてよかったと安堵しながら、隣にいるアーフィールへ呟く。


「お前が『軍馬』ならよかったのになぁ」


 本気なのか冗談なのか……そんな王へ、側近はにこりと微笑む。


「それは無理です。先祖代々、平和主義ですので」



  ◇◇◇


 王城を出て、月が浮かぶ夜道を歩く4人。会話は特になく、みんな無言を貫いていた。


「スライプ、元気が無いようだが、大丈夫か?」


 シャロラインからの心配に、スライプはかろうじて笑顔を作る。


「大丈夫。ちょっと、色々思い出しちゃって……」


 最後に国王と交わした会話。それが、何となく心に引っ掛かっていた。

 忘れていた訳ではなかった。産まれた時から押しつけられていた王の『軍馬』の役目。似たような名前をつけられたせいで、否応なしに思い出されるのだ。


 従軍し家を出た事により、王に仕えることはなかった。が、あの王は仕えるはずだった自分を見てどう思ったのだろうか……。

 あの時王は気付いていながら、名前以上の追及をしなかったのである。


 もやもやと考えていると、マルナトが振り返った。


「もし泊まるところが無いのなら、是非うちに泊まっていくといい。部屋もだいぶ余っているし、目的の離れの城までそう遠くはないよ」


 マルナトの家というと、貴族の家……つまりは豪邸である。

 およそ一般人には届かないであろう贅沢な暮らしを想像し、少しだけ心が軽くなった。




 ここだよ、と言われ立ち止まった場所は、王都一等地、ドデカい門と屋敷が立派な、いかにも金持ちの家といった住居の前だった。

 部屋のあちこちには電気がつき、中にいる人物のシルエットが見える。


「今、妹が留学から帰って来ててさ、ちょっとバタバタしてるかもしれないけど、君達は遠慮なく(くつろ)いでくれ」

「おお、マイルナか。彼女も元気なのか」


 マイルナとは、マルナトの4歳下の妹である。1度写真で見ただけなのだが、兄と同じ薄茶色の髪のかわいい子である。

 写真で見せただけの妹を覚えていてくれた事が嬉しいのか、マルナトは笑顔で頷いた。


「ああ! テラバス達にも、我が妹を紹介するよ。お腹もすいただろうから、食事もすぐに用意させよう。……と、その前に……」


 マルナトは腰に()く軍刀を抜いた。切っ先がまっすぐ、スライプに向けられる。


「この家の(おさ)はオレだ。家に入るなら、オレと仕合ってもらおうか?」


 勝てたら滞在を許そう、という事らしい。負けても追い出すつもりは無いだろうが、久々にスライプと打ち合ってみたいというのもあるのだろう。

 好戦的に笑うマルナトに、スライプもまた口端を歪める。


「……僕、君のそういうとこ大好きだよ」


 誘われてしまうと、疲れも悩みも吹き飛んでしまう。

 石突で地面を2度叩き、その後槍をつま先で蹴り上げ夜空に放り投げる。落ちてくる槍を難なく受け止め、振り回し(くう)を切った。


「早々に寝られるのは困るから、手加減はしとこうか?」


 スライプの挑発に、マルナトは不敵に笑みを浮かべる。


「いらないよ。オレだって何十人も部下を抱えてるんだ。君に負けるようじゃ示しがつかない」


 マルナトにも、若くして中佐にまで昇進したプライドがある。元同期の……今や一般人の彼に負けるわけにはいかなかった。

 お互い遠距離(まほう)攻撃は持っていない。白兵戦のみで勝敗が決する。


 武器の切っ先を互いに向けあい、わずかな静寂(せいじゃく)が流れる。そしてマルナトが一歩踏み込んだ瞬間、勝負がはじまった。


 一合目は拮抗(きっこう)。射程ではスライプが有利だが、マルナトも負けていない。スライプの振りの速さに、完全に追い付いていた。

 お互い、刃が月光を反射するほんのわずかな光でリーチと速度を判断していく。

 マルナトの軍刀が頬を(かす)めると、スライプの銀槍が脇腹を捉える。それが引き金になったのか、スライプのテンションが上がり戦いの激しさが増す……2人は順調に夜闇に剣戟を重ねていった。


 その一方、シャロラインは剣戟を繰り広げる2人を静かに見つめ、テラバスは眠気に襲われボーッとしていた。





 最終的にはお互い武器を地に落とし、素手喧嘩(ステゴロ)になる直前で勇敢にも割り入ってきたシャロラインに止められてしまうのだが、無事に滞在を許された3人はしばらくの間、貴族の屋敷を堪能(たんのう)する事となった。




さて、残すところあと数話となりました!


また長くなってすみません!

書きたいこと色々詰めこみますので、これからも長くなってしまうかもしれないですが、よろしくお願いします!


ブクマや評価などもお待ちしてます!

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