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ゆるふわ系ウォーライカーとツンデレ鋼鉄の伴侶  作者: 鞘町
4章 それは、人か否か
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61話 プロローグ





 ◇  ◇  ◇


『お前に()れられても、何も感じない……。それが、今は(たま)らなく悔しくて、悲しい……』

 ━━■■は悲嘆に、声を震わせ。



『ああ……オレの魔眼(ちから)は、この時のためにあったんだ』

 ━━■■は好戦的に笑い、赤い瞳を爛々(らんらん)と輝かせる。



 そして。


『さよなら……シャロ……』

 ━━■■は2度と戻らぬ妻へ、静かに別れを告げた。










  ◇◇◇


「テラバスのそれは、いつ見ても不思議だな」


 作業台に座るシャロラインに声をかけられ、青年はそうか? と顔を上げた。その目は黒━━ではなく、鮮やかな青に輝いていて、シャロラインをまっすぐ捉えていた。


 異常を発見するための探知の眼。探知する青(ディテクトサックス)と呼ばれる人工魔眼である。


 使用後は欠点である『創傷』のせいで激痛に襲われるので、あまり使いたがらない彼だが、今はシャロラインの異常を視つけるために、探知の魔眼を行使している最中であった。


 シャロラインはというと、機械仕掛けの首輪のようなものをつけられ、それを操作するテラバスにされるがままになっていた。しばらくして首輪が外されると、テラバスは機械の調子を視る。

 そのあと紺碧(こんぺき)の瞳をシャロラインへ移し凝視した。


「オレが視た感じ異常は無いが、気になるところはあるか?」


 青年の問いに、シャロラインは首をさすりながら(かぶり)を振った。


「いや。お前がそう言うなら大丈夫だろう。……それじゃ、またよろしく頼むよ」


 シャロラインは作業台から立ち上がると、ひらひらと手を振った。


「はいよ。次は1週間後……まぁ気が向いた時でもいいけど、あまり期間はあけてくれるなよ。作業がちょっと手間になる」


 彼女の背中に声をかけると、適当な返事をされてしまう。

 遠ざかっていくシャロラインの背中を見ながら、テラバスは黒瞳に戻した目の調子を整えるため、まばたきを繰り返した。


 ジンジンと、徐々に痛みはじめる眼球に顔をしかめながら、シャロラインの首を(くく)っていた機械首輪を丁寧にケースへ収納した。



  ◇◇◇


 それから数日と数時間後、シャロラインの旦那がやって来た。

 スライプは入ってきて早々、ドライバーを使って機械いじりをしているテラバスに向かい、不機嫌そうに目を細めた。


「……なんか最近シャロが1人でここに来てるみたいだけど、何してるの?」


 少し怒っているようなスライプの口調に、テラバスは面倒くさそうに息を吐いた。

 何年も付き合いのある腐れ縁だ。このつっかかり方はどう答えても厄介事になるものだとすぐに分かる。


 まさかこの期に及んで不貞を疑っている訳ではあるまい……。だが、相手はスライプだ。可能性は十分にあった。


 それに、何をしているかについてはシャロラインから口外無用と言われているので、旦那とはいえスライプに話す訳にはいかない。気を鎮めるか、別話題に誘導するしかない。


 コツは堂々と……とにかく動揺しない事。

 一瞬でも気が揺らぐと目ざとく反応し、攻撃してくるからである。テラバスは余裕と潔白を見せつけるために、わざとふんぞり返った。


「……何だ。オレに嫉妬しても無駄だぞ。それに来てるといっても週1のペースだ。怒るほどのものじゃないだろ」

「別に、嫉妬とかじゃなくてね。お前に嫉妬なんか絶対しないけどね。あと怒ってる訳でもないけどね」


 一息にしゃべると、ふん! とそっぽを向くスライプ。


 ……よしよし。上手く逸らす事が出来たようだ。

 言い訳がましいのは少々鼻につくが、怒っていないというのは本当だろう。口調こそ怒気がこもっているが、本当にキレた時は槍持参で強襲してくるはずだからである。


 それにテラバスもスライプの疑問は分からなくはなかった。彼はシャロラインの修理をするときは絶対同伴するし、彼女に不具合があれば先に事情を聞いているからである。


 今回少し気が立っているのは、自分に黙って修理屋に通う妻が心配になったのだけなのだと、テラバスは確信を持っていた。

 その証拠に、スライプはおずおずと口を開く。


「どっか、直らない箇所がある……とかじゃないよな?」

「あーそれはない。正直、何があっても完璧に直す自信はあるぞ」


 魔眼の能力もあり、アンドロイド修理に関してなら、テラバスに直せないものはほぼ無い。

 ━━完全に“死”んでしまったものには、手をつけられないが。


 テラバスの断言に、スライプはほっと息を吐いた。どうやら安堵してくれたようであった。

 分かりやすい幼馴染に、まぁ座れ、と作業場の(はじ)に寄せてある椅子を勧める。


 少し手が放せない作業をしていたので、来客にコーヒーは出さない。その雰囲気を察したスライプは、ネジを締めたり緩めたりと、(せわ)しなく作業するテラバスの手をじっと観察していた。


 2人とも無言で、カチャカチャと作業音だけが響く中、テラバスは熱心に手元を見てくるスライプに話しかけた。


「……そういえば、どうするんだ。この間のサラスティバルの話」


 途端、スライプの表情が曇った。

 その問いは、最近のスライプを深く悩ませている種でもある。テラバスは作業の手こそ止めないが、幼馴染の表情の変化は横目で捉えていた。




「シャロを……人間にするかどうか(・・・・・・・・・)っていう話?」


 声色を低く落とす幼馴染に、テラバスはそうだ、と頷いた。


「それが、魔薬が作られた本当の目的……だったな。国全体を脅かしている、意思を奪う効果というのはそれの副産物だと」



 以前サラスティバルとメルザが訪れた際、話されたのは人工魔眼計画にてテラバスを狙った理由と、魔薬の目的。


 その目的は「アンドロイド」を「人間」にするというものであった。


 テラバスは対談した当時を思い出し、ため息をついた。


「生身の人間に義手や義足をつける事はあるけれど、その逆をやろうとしているとは……。魔法使いとは恐ろしい奴らだ」


 サラスティバル曰く、魔薬とは麻酔のようなもので、機械の体から徐々に生身の人間にしていく際にかかる負担を麻痺させるものだという。

 人間になる工程で、()()ぎだらけになる肉や筋肉、内臓を最後に魔法できっちり繋ぎ合わせるための(のり)でもある、という事も告げられた。



 その事実と同時に、サラスティバルはアンドロイドであるシャロラインを人間にしないかと、スライプに提案してきたのだ。


 その時は答えを出していないが、スライプは今ももやもやと悩み続けていた。


「なぁ、アンドロイドが人間になる利点って何だ?」


 スライプの問いかけに、テラバスは作業の手を止め腕組みをした。そのまま考え込んだのち、言いにくそうに口元を曲げた。


「まぁ……人様の、お家事情に口を挟むのも……野暮というか何というか……」

「何だよ」


 いまいち歯切れが悪いテラバスを視線で急かす。スライプの目付きに観念したテラバスは、軽く咳払いをしてから切り出した。


「お前……シャロラインとの子供が欲しいと思った事は無いのか?」

「えっ……あっ、そういう……?」


 スライプは想定外の返事に驚くも、やがて合点がいったのか、そのまま黙りこんだ。



 アンドロイドに、子供を産むという機能は無い。

 というより不可能だった。機械の体には、妊娠や出産に必要な機能(臓器)はつけられないのだ。


「利点という利点は、それじゃないか? お前のように好みのアンドロイドと結婚し、過ごしているうちに相手との子を望むようになる。夫婦から家族に……という事では?」


 知らんけど━━そうつけ足しながら、作業に戻った。

 

 それに、みんながみんな理想のアンドロイドと結婚してしまうと、国全体の出生率が下がってしまい、人口減少により国が成り立たなくなってしまう可能性もある。

 アンドロイドがよく栄える中でも、人口の多さは国の強さになる。魔薬は、出生率を保ち国を強くさせる意味でも開発されたものであった。


 

 テラバスから返ってきた答えに、スライプは思案顔で顎に手を添え首を(ひね)った。


「うーん……僕は子供とか、シャロとどうこうしようと思った事は……」


 その言葉に、テラバスは意外そうに目を見開いた。


「何だお前は。仙人か? 枯れたんか?」

「馬鹿な事を! 僕はまだまだ現役で━━」

「あーはいはい。別に聞きたかねぇよ」


 スライプも健康的な成人男性であり、三大欲求は人並みに持っている。

 ただ、今が十分に幸せであり、これ以上望むものが無かったから、子供や家族など考えてこなかっただけである。


「それに……人間って死ぬでしょ? ……僕はまだ、心のどこかで誰かを喪うのを恐れているから」


 (いま)だスライプの心に(とど)まり続けているトラウマ。

 アンドロイドを妻にしたのは一目惚れという事もあるが、人間とは違い簡単には死なないからという理由も少しはあった。

 胸部(しんぞう)を刺されても死なず、人間よりはるかに頑丈なので“死”というものは早々訪れない……それゆえ、スライプは安心して寄り添い、愛していけるのだ。


「それじゃ、今のところ人間にはしないって事か?」

「うん」


 そうなるね、とスライプは静かに答えた。


「まぁ、するしないで話してるが結局は現状維持って事だし、それならそれでいいと思うぞ。それに……オレに家族うんぬんは分からんし」

「そだね。僕も、かな……」


 1人は両親の顔すらうろ覚えの孤児であり、もう1人は家族の関わりを捨てた混血である。

 家族愛というものに縁遠く生きてきた2人。ましてや、自分達が子を育て家庭を持つなど、想像もつかなかった。



「家族って、なんだろね」

「さぁな」


 2人にとって、それはなかなか理解出来ない謎であった。

 この一言を最後に、沈黙が2人を包む。

 そして再び、テラバスの作業音が響きはじめた。


 ふと、スライプはテラバスが熱心にいじっている機械が気になった。

 首輪のような機械で、輪の大きさを調整しているのか、ネジを緩めると違うネジを差し込みそれを締める。(ゆる)める()める緩める締める……眠くなるような単純で細かい作業を延々と続けていた。


「それ、何に使うの?」

「うーん……。いつか役に立つもの、かな」


 これはシャロラインがらみのものなので詳しく言えず、ざっくりした説明になってしまう。

 それを知らないスライプは、ふーんと興味無さそうな反応を見せた。




「ところで、家族といえば……お前エリアとは━━」

「帰れ」


 急に、どんっとスライプの体にかかる圧。


 いつの間にか立ち上がっていたテラバスが、座っていたスライプの体を押していた。

 あれよあれよという間に外まで押し出され、目の前でバタンと玄関の戸を閉められてしまった。

 

 冷たい一言と共に強制退去させられたスライプは、色々と悩める青年の照れ隠しだと自分で自分を納得させ、愛妻の待つ自宅へ帰る事にした。




当作品は不定期更新でございます


この章で最終となります

時間はかなりかかりますが、最後まで書ききりますので、よろしくお願いします





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