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58話 因果を断ち切る銀槍 2


 数日後、テラバス宅の庭にて、メルザとテラバスの「縁」が切られた。


 といっても、切ったのは執着という名の悪縁。

 奴隷として監禁した記憶はそのままでも、元々は家族思いの姉とそれを慕う弟。今後はよい関係を築いていけるだろう。


 その証拠に、メルザは憑き物が落ちたような清々しい表情をしていた。微笑みに以前のような(いびつ)さは無く、無事に回復したテラバスと顔を合わせていた。



 そして悪縁切りが上手くいき、1番安堵していたのはスライプだった。


 スライプは2人を見ながら、少し疲労の色を見せている目を(こす)る。

 ここ数日、スライプ自身も練習を重ねていた。わずかな感情の揺れも命取りになる魔法を行使するのは、これが初めてである。

 今まで繊細な魔法操作などしてこなかった彼にとって、何よりも至難の技。折れそうな心をシャロラインに何度も励ましてもらい、ようやく完成した努力の結晶であった。


「お疲れ様」


 練習中の心の支えだったシャロラインから肩を優しく叩かれ、労いの言葉をかけられる。(いま)だ表情が晴れない夫に、シャロラインは問いかける。


「まだ、納得してないか?」

「……なんというか、もういいやって感じ。本人達は幸せそうだし」


 そう言って、淡く微笑む。

 スライプは諦める事にした。自分だけ憎しみに振り回されている訳にはいかないし、今は彼らを見習って前を向こうと決めた。







 しばらくして、子連れの女性が現れた。


「こんにちは。カルスくん、連れてきたよ」


 エリアがカルスを連れてテラバスの家へやって来た。

 どうやら、シャロラインはカルスをエリアのところに預けていたらしい。


「悪いなエリア。大して理由も話さず預けてしまって」

「大丈夫! いい子だったし。それより、みんなちゃんと帰って来てよかった」


 急にカルスを預けられ、長い間帰ってこないので心配していたのだろう。美しい相貌には安堵の色が(にじ)み出ていた。


「僕達なんかより、あっちに行きたいでしょ?」


 スライプはにこにこしながらテラバスとメルザのいる方を指差した。


「さっさと行って話しておいで。おーい、テラバス。エリアが来たぞー」


 スライプの言葉により、エリアの存在に気付いたテラバスは「おう」と軽く手をあげた。

 エリアはテラバスのもとへ歩み寄り、テラバスもまた数歩前に出て彼女に向き直った。


「おかえり……なさい」

「ん……ただいま」


 ほわんと頬を赤く染める女性と、照れくさそうだが柔らかく見つめる青年。




 そして、その近くで少し置いてけぼり状態のメルザ。




『あぁ……そっか……』


 メルザは一目で分かった。この無垢で清楚な美しい女性が、テラバスと相愛の仲である人物だと。


 どう考えてもつけ入る隙は無い。

 しかし、テラバスは交際していないと言っていた。……確かに言っていた! 

 ならばこちらにもチャンスはあるはずである。




「そこの貴女!」


 メルザは葵色の長髪をわざと大きく揺らし存在をアピールすると、今自分が出来る1番いい笑顔で、エリアを見た。


「……私はメルザ。悪いけどテラバスの体にある黒子(ほくろ)の数すら知らないような子に、負ける気は無いから」


 執着が消えたメルザにあるのは、持ち前の負けん気とテラバスへのちゃんとした恋心だ。

 これは同じ人を好きになった乙女から乙女への、れっきとした宣戦布告であった。それに気付かないほど、エリアは鈍感ではない。

 口をぱくぱくさせながらさらに頬を染め、負けじと声をあげた。


「わ、私だって、これから数えるんだから━━━━!」


 可憐な女性から繰り出される強気な宣言。

 そんなエリアの応戦を、メルザは余裕を見せつける嫣然(えんぜん)とした微笑みで受け止めた。




 乙女達の戦いを計らずも聞いてしまったスライプとシャロラインは思わず手で口元を覆った。


「おっとこれは……」

「これからどんどんこじれてくるよ~」


 大変だ~、と、にこにこしながら心にも思っていない一言を発するスライプ。


 一難去ってまた一難。

 知らない間に、自身を取り巻く戦いが再び始まってしまったため、しばらくの間テラバスの苦労は続くだろう。


「モテるのも大変だなぁ。両手に花だ。君はどっちにするんだい?」


 エリアもメルザも、間違いなく美女の類いである。

 これから羨ましい悩みが訪れるであろう幼馴染に近付き、肘で小突きながら冷やかすスライプ。


 ……自分にはシャロラインという最も愛する妻がいるから全然……全っ然悔しくないが、昔からテラバスばっかりズルい! のでイジれる時に目一杯イジッておく。


 スライプからの無粋な問いかけに、テラバスは眉間に皺を寄せた。それは不愉快というより、不可解といった表情であった。


「は? 何の話だ」

「えっ、嘘でしょ。聞いてなかった?」


 さすがにもうエリアの気持ちには気付いているはず。……そのエリアに、メルザがライバル宣言をしたのだ。



 決定的な瞬間を聞いていなかっただと? 目の前にいながら? こういう天然かましてる奴がいるから傷ついてしまう女の子がいるのだ! と、スライプは急に怒りが沸き、テラバスに詰め寄った。


「何なのそれは。知らないふり? 気付かないふり? ええぃ僕は(だま)されないぞ。ここで決着をつけろテラバス━━━━!」

「あーもう! 何なんだよお前はよー」


 まとわりつくスライプを迷惑そうに追い払うテラバスだが、その口元は少し笑っているようにも見える。



 ━━━━果たして。


 本当にメルザの挑発とエリアの言葉が聞こえなかったのか……はたまた聞こえなかったふりをしているのか……。もしくは知らないふりをしているのか……。


 それは本人のみぞ知る事であった。




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