53.5話 ルーレンの独白
メルザはこの日も、テラバスに食事を運ぶため通路を歩いていた。
昨日は恋バナなんかして時間を無駄にしてしまったが、本来の自分は奴隷の調教師なのだ。そろそろ本腰を入れてテラバスを立派な奴隷に仕上げなければならない。
出来るだけ高く売って、お金持ちの飼い主のもとで暮らさせる。……それが、施設を出され1人ぼっちにしてしまったテラバスへの罪滅ぼしなのだと。
そろそろ暴力にも慣れてきただろうから、今日明日にでも次の段階に入ろうかと思いながら歩を進めるメルザの目の前に、ルーレンが現れた。
急に現れた相方に、メルザは少し表情を固くする。
「……何だか久し振りに見るような感じだわ」
「そんな事無いよ。昨日も会ったし……。順調そうだね、メルザ」
「ええ。もう邪魔は入らない。私のものになるわ」
「……ねぇ、ほんとにこれでいいの? テラバスを奴隷に堕として、君は幸せになるの?」
「……文句があるなら出ていっていいわ。元々あんたは拾い物だし」
メルザは冷たく言い放ち、ルーレンの横を通り抜けた。
足音が遠くなったところで、メルザが向かった方向に振り返る。ルーレンは薄暗い道の先を睨んだ。
━━━━メルザはおそらく、人間としての感性はもう持っていない。愛憎と執着を残った家族に向け、自分がされた方法でしか失ったものを取り返せないと思っている。
そしてそれを、自分がされた形で手放そうとしているのだ。
メルザの行動は矛盾していた。どんな手を使ってでも得ようとするくせに、最低なやり方で放棄しようとしている。
それほどまでに歪んでしまったメルザの心は、もう誰にも救えない。
テラバスに会えば何か変わると思ったが、期待虚しくメルザの暴走は止まらず、楽しそうにテラバスを痛めつける結果となった。
ルーレンは奥歯をぐっと強く噛んだ。
「スライプ……早く、早く……」
こちらの状態はサラスティバルに伝えているので、自然とスライプ達にも情報は入ってるだろう。
メルザがまだ奴隷育成に夢中になっているならまだいいが、もしかすると近々魔薬が使われる可能性がある。
そうなると本当にマズい。
魔薬精製所でもある「ここ」は濃度も効果も自由自在である。魔薬研究者でもあるメルザなら、好きな効果で……まるでおもちゃで遊ぶようにテラバスを魔薬漬けにするだろう。
━━━━もうこれ以上、テラバスを魔薬で苦しめないでくれ……。
そうメルザに言いたくても、出来なかった。
言ってしまえばここを追い出され、サラスティバルの言い付けを守れなくなってしまう。あくまで味方として、メルザに付き添い、監視をしなければならないのだ。
しばらくはあまり動けないが、サラスティバルがいてくれるならまだ打開策はあるはずだ。
心配な事といえばあの2人の仲の悪さだが、テラバスの命がかかってるのだ。きちんと折り合いをつけてくれるだろう。
「だから、頼んだぞ……」
軍人時代の記憶しか無いけれど、あの強さならやってくれると信じてる。
何とか出来るのは、もう君達しかいないんだ……。




