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5話 尋問と記憶解錠

 朝食を食べ終えた2人は早速出掛ける準備をした。


 スライプは抜身の長槍を持ち、シャロラインはメイド風の衣装から着替え、コルセットを腰に巻き銀の胸当てがついた青いドレスに身を包んだ。


 このドレスはシャロラインの戦闘衣装である。

 彼女は、普段の格好がメイドっぽく見えるせいか「私は戦う妻であって、戦うメイドではない」という持論を持っており、仕事をする際は着替えるのだ。


「今日は戦う予定無いから着替えなくてもいいんじゃないか?」

「いや。やっぱり普段とは違うし……。服の感じに慣れとかないと」

 気の強そうな金眼を輝かせ、何やら気合いが入っているシャロライン。(相棒)に対する愛しさと頼もしさを感じながらスライプは微笑んだ。


 今日の目的は修理を受けている子供アンドロイドから話を聞く事。

 修理技師(テラバス)の見立てでは使用された魔薬での思考能力の消失や記憶破壊は無いらしいが、それは昨日の話でありもしかしたら状況が変わっているかもしれない。


「それじゃ行こう」

「おう、メモとペンは持ったぞ」


 こうして2日連続でテラバス宅へ行く事となった。



  ◇

「……オレ、ちょっとお前らの顔見んの飽きたんだけど……」

「奇遇だな、僕もだよ」

「悪いなテラバス。話聞いたらすぐ帰るから」


 再三訪れる幼馴染夫婦にげんなりしているテラバスは昨日の続き、アンドロイド修理を再開させていた。作業着に手袋とゴーグルをつけている。テラバスの傍らにある小さな台の上には、朝一で調達したと思われる機材一式が置かれていた。


 修理の進捗はというと顔部分はほぼ終わっていて、後は足と腰のより多くの回路を必要としている部分の修理だけという感じであった。


「そんで何の用だよ。オレは見ての通り忙しいんだ」

「用があるのはそっちの子供の方なんだ。話を聞く事は出来るかい?」

「まぁ反応するなら……。記憶関連は特に問題無いと思うし。……ちょっとは欠けてるかもだけど」


 勝手にやってくれ、とテラバスは再び作業に戻った。

 では早速。スライプは子供に近寄ると優しく語りかけた。


「こんにちは、調子はどうかな」

 いきなり本題には入らない。子供が警戒して何も話してくれなくなるのも困るし、無闇に怖がらせるとシャロラインに何か言われそうだ。


「ハイ、オジサンハ、ゴシュジンサマノ、ハナシヲキキニキタノデショウ」

「おっ……、おじさん!?」



 子供特有の衝撃発言。

 いきなりのおじさん呼ばわりに素っ頓狂な声を出してしまうスライプ。それより何よりショックを受けた。


 そのやりとりを聞いていたシャロラインとテラバスは思わず吹き出し声を出して笑った。


「おっ……おじさんだとよスライプあはははははは!」

「お前笑わせるな……っ。手元が狂うだろうが……!」

「僕まだ23のはずなんだけどな……」


 容赦なく笑う2人とは対照的に、動揺を隠しきれないスライプ23歳。


「ってうるさいな、いつまで笑ってんの!」

 だんだん腹が立ってきたのか、笑い続ける2人へ怒るスライプ。

「ごめ……。スライ……ッ。ふふっ……」

「オレでも言われなかったぞ。あーおもしろ」


 ふと、子供と視線が合う。おじさん発言をした子供はきょとんとしていて、何も分かっていない無垢な瞳をスライプに向けていた。

 ━━━━それが余計つらい。


「君からしたらおじさんに見えるかもしれないが、次からはお兄さんで頼む……」



 気を取り直して━━━━

「話が早そうで何よりだ。君の、持ち主事について聞かせてもらいたい。話せる範囲でいいから。持ち主は普段何をしている人だった?」


 スライプによる尋問が始まった。笑いがあった空間が一変し、テラバスが進める作業音だけが響いた。


「ゴシュジンサマハ、ホンヲ、カイテイマシタ。ヨメナイ、モジデ」

「うんうん。他は?」

「アンドロイド、イッパイ、イマシタ。……デモミンナ、ウゴイテイマセンデシタ。グッタリシテ……」


「うん、何でかなって思った?」

「ハイ。デモ、ジブンダケウゴケマシタ。オコッタゴシュジンサマハ、ジブンヲグチャグチャニシマシタ。ソシテ、ナオシマシタ。ズット、ズット、ソレヲクリカエシテイマシタ。」


 片言だが懸命に答えていく子供アンドロイド。

 その回答を記録しながら聞いていたシャロラインは不思議に思った。


「ほぼ全壊させといてわざわざ直すのか?」

「そうだな……。直す技術があるなら直した方が安く済むっていうのもあるし、アンドロイドを多く持ちすぎても怪しまれるからな」

 あまりに所持数が多いと警備兵が来たりするから、とテラバスが付け足した。


 アンドロイド所持数の上限は特に決められてはいないが、魔薬に始まる多くの犯罪に利用されているケースも少なくないので、多いとされた持ち主の元へ警備兵が様子を見たり話を聞きに来ている事があるのだ。


「へぇ、人間は勝手なんだな」

『う…………』

 シャロラインは何気なく言ったつもりだが、人間2人には少し刺さったようである。

 スライプは軽く咳払いをし、場の空気を戻した。


「さて、続きだ。持ち主は普段どこにいた? もしくは、どこか頻繁に出掛けたりしなかったかい?」

「ズットヘヤニイテ、アンドロイド、イジッテマシタ。デモ、タマニオオキナニモツト、アンドロイドガイッショニデカケテイキマシタ。カエッテキタトキハ、アンドロイドヲ、カカエテクルトキモアリマシタ」


 アンドロイドを抱える━━━━。自立歩行が出来なくなるほどの事が行われていたのか。


「そっか。……その場所は分かるかな?」

「イエ……。……キオクノイチブガロックサレテルミタイデス。コタエルコトガデキマセン」


 あわよくば失踪者の活動先を聞けるかと期待したが、簡単にはいかないらしい。

 誰にも悟られぬよう残念そうに息を吐くと、隣の青年が反応した。


「いやちょっと待て! 記憶の『ロック』だって!?」

 今まで集中して修理に取り掛かっていたテラバスが、大声を出し割り込んできた。


「何だよテラバス。大声出して」

 尋問の邪魔をされたスライプは少し眉をひそめた。だが、その反応を気にせずやや興奮気味にテラバスは続けた。


「いいか、ロックってのは記憶の消去ではなく封印。記憶を保持しつつ都合の悪い部分のみを無かった事に出来る方法だぞ。そんなの並の技術者じゃ出来ないぞ。……よっぽど腕の立つ野郎だなそいつは」


 テラバスは少し感心していた。

 彼は同じ技術者としてその技巧を褒めているのだろうが、相手は犯罪者かもしれないのだ。その事にスライプはさらに眉を曇らせた。


「そうなんだ。……つまり、そのロックを解くことが出来ればもしかしたら場所が分かるかもしれないって事だよな?」

 ちらりとテラバスを見た。その視線に気づいた青年は冗談じゃない! と声を少し荒げた。


「いやいやいや無理だからな! さすがに解錠なんて。ただの鍵だけならまだしもパスコード付きなら間違えたら爆発する可能性もあるんだぞ!」

 無闇な解錠は危険だと話すが、スライプは意地が悪い笑みを浮かべている。

「出来ないのか……?」

「…………出来ない事は、ない…………」


 テラバスは心底言いたくなさそうに、わざとらしくため息をついた。ゴーグルをかけ直し、首部の連結部分を外した。少しずつ引っ張っていくと、無数の導線が露わになる。この首部は神経、思考、運動回路やその他諸々が多く通っている重要な部位の1つである。この中に、ロックを解く鍵となるモノがあるはずなのだが……。



 スライプとシャロラインにはどれが何の導線なのか見当もつかないが、テラバスから見れば細かな違いが分かるのだろう、じっと首部の導線を見つめ続けた。その間、ブツブツと何か呟いている。


 ━━━━数分後、テラバスはニッパーを手に持った。


「これだな」

 確信を持った一言と共に、バツン! と1本の導線をニッパーで切り離した。

 その瞬間、子供アンドロイドが目を大きく開き苦しそうに唸り始めた。


「ウウウウウウウアアアアアアアウウウウウウアアアア!!」


 突然の発狂に戦慄しながら、その光景を見ていたスライプは思わずテラバスに確認した。


「これ、大丈夫なんだろうな……」

「ああ、急に記憶の復旧と改変が始まったから、この子自身もびっくりしてるんだろ。復旧と整理が終わればまた大人しくなるさ。……まさか最後まで切れずに残ってた一番ぶっとい線が鍵だったとはなぁ」


 平然と語り、案外単純だったと感想を述べるテラバス。

 今まで封じられていた記憶の一部。それがテラバスによって解放され元々あった記憶と合わさり、正しい記憶へと書き換えられていく。

 やがて、記憶の整理がついたのか、呻きが収まり大人しくなっていく。



「そろそろいいだろ。気分はどうだ? すっきりしたか?」

 収まった頃合いを見て、切断した回路はそのままに首部を再度繋げた。すると、子供はこくりと頷いた。


「ハイ、記憶ノ一部ガハッキリシマシタ。コレナラ、サッキノ質問ニモ答エラレマス」

 記憶の復旧の影響か、多少だが言葉を紡げるようになっていた。


「お、喋り方もはっきりしてきたな。ほれスライプ、聞きたきゃ聞け」

 そう言うとテラバスは引き続き修理に戻り、スライプとバトンタッチした。


 それじゃあ━━━━再び質問をした。

「君の持ち主は、アンドロイドと一緒にどこに行っていた?」


「ゴ主人様ハ2番街ノ元電子研究工房。……今ハ廃墟ニナッテイル工房ノ地下ニ、研究施設ヲ持ッテイマシタ」


 よりはっきりと、明確に答える。記憶の復活のせいか、饒舌になった子供は更に続けた。

「ゴ主人様ハ、薬ヲ作ッテイマシタ。アンドロイドヲ操ル薬デス。」


 それが魔薬だと、わざわざ言葉にしなくてもこの場にいる全員に伝わった。



 スライプとシャロラインの目付きが鋭利になる。

 1人は強者との戦いを期待し、1人は(きた)る戦いの時を感じていた。

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