49話 探知と確答の魔眼
暴力、流血表現含みます
ご注意下さい
「お前、オレの魔眼を知っているのか」
襲撃してきた時もそうだが、メルザは平然と魔眼、魔眼と発言している。
「当然でしょ。『探知と確答の魔眼』……特に、この状況は貴方の魔眼と相性がいい。だから視力として消費される魔力しか、貴方に与えていないわ」
テラバスは奥歯を噛み締めた。そこまで知られているとは思っていなかった。
メルザの口から飛び出した魔眼の名称。
━━━━探知と確答の魔眼。
正確には探知する青と確答する赤━━━━青瞳と赤眼とも称される代物である。
能力は「異常や弱点を探知する」「それを解決する確答を得る」という2種類であり、使用すると瞳の色が前者が青、後者が赤に変わる。
武術があれば弱点をつき確実に倒す事が出来るし、医術の心得があれば原因不明の病気でも解明し治療法を得る事が出来るのだ。
テラバスが2番街でメルザに襲撃された際、瞳が赤く変化したのは確答する赤━━━━結界を脱出するための確答を視るためであった。
しかし、何事にも利点と欠点があるように、テラバスの魔眼にも例外無く欠点が存在する。
その欠点すら、メルザは把握していた。
「貴方自身に解決力が無ければ視えても意味が無い。魔眼そのものには殺傷能力が無いから武力としての脅威も皆無。ただ異常を見つけ解決の糸口を視るだけの支援の魔眼」
この魔眼の欠点は「視る」事しか出来ないという点。脱出の方法を視たとしても、自分自身もしくは解決出来る他者がいなければ、その答えに意味は無いのだ。
それに加え、魔眼の使用後は激痛が襲うため、連続使用は基本的に不可能だった。それは、視るだけで魔法の連続行使を可能にさせる魔眼の利点を殺した、魔眼としては致命的な欠陥であった。
……テラバスの場合人工的に移植されたものなので、正確には「魔眼」ではなく「魔義眼」なのだが。
よって、テラバスはこの能力を本業であるアンドロイド修理に使っている。
半分幻の一品扱いのA=4型を修理したり、カルスに施されていた記憶の封印を解除出来たのも、魔眼の能力を使っていたからであった。
修理屋としては天恵ともいえる能力なのだが、こうなった経緯が経緯なだけに、手放しでは喜べる代物では無かった。
修理時ゴーグルをつけているのも、目を保護するという点の他に、魔眼使用時に変化する眼球の色を隠す目的もあった。
「その眼球の亀裂も、能力の使い過ぎからなんでしょう? もっと亀裂が進んで割れてしまえば魔眼そのものを失ってしまう」
テラバスの右目に走る亀裂を見たメルザは、手を伸ばし右頬を撫でた。
「かわいそうに……サラスティバル様のせいでこんなにも痛々しい姿になってしまったのね」
眉尻を下げ心配そうに顔を覗き込んでくる。テラバスはふいに出てきた名前に、カッと目を開いた。
「サラスティバル……!? メルザ! 何でお前の口からそいつの名前が出るんだ!」
サラスティバルとメルザは知り合いなのか、と顔色を変えた。まさか、詳しすぎる魔眼の情報源はサラスティバルからなのだろうか。
「さぁ……。どうしてかしら」
くすくす笑い、焦燥を見せるテラバスをせせら笑っていると、カツンカツンと足音が聞こえてきた。複数、バラバラに響いてくるのでおそらく2人。
メルザは訝った。ここに来れるのは自分と、ルーレンくらいである。それ以外の人物は、許可された者でない限り入り口すら見つけられない。
少しずつ近付いてくる物音に、メルザは警戒し動きを止めた。
そして現れる2人組。
片や長槍を携える青年。片や鮮やかな青いドレスを纏う金髪の美女。
スライプは纏わりつくような湿気に顔をしかめたが、メルザを見るやいなや好戦的に微笑む。左右異色の目付きは猛禽の類いである。
「━━━━よっ、来たぜ。誘拐犯」
あんまりな呼ばれ様に、メルザは不快感を露にした。
……そうだ、テラバスのお友達を招待しようとルーレンに頼んで案内させていた事をすっかり忘れていた。
「酷い言い草ね。ルーレンはどうしたの?」
「知らね。あいつならやる事があるからってここを案内した後どっか行ったぞ」
肝心な時にいない相方にメルザはため息をつく。
その間、スライプはちらりとテラバスを見遣った。首枷が気になったが見た感じ大きな怪我も無いので、丁重に幽閉されていたらしい。幼馴染の無事にひとまず胸を撫で下ろし、左手に持つ槍の石突きで床を2度叩く。
「さっさとテラバスを返してもらおうか。ここはあいつの家じゃない」
テラバスの帰るべき場所は3番街だ、とスライプは告げる。
「嫌よ。私はあの子の姉で、家族なの。ここで暮らすべきなの」
やや子供じみた口調で家族を主張し、いやいやと首を横に振る。
「そっか。だったら力ずくで」
女の拒絶を受け、スライプが殺気を放つ。ここは槍を振り回すには少々狭いが、女1人戦闘不能にさせるくらいなら暴れられるだろう。
シャロラインもまた、気を引き締める。
静かに戦闘態勢に入る彼らに対し、メルザは「そう」と、一言呟いた。
「遊びに来たのなら歓迎だけど、連れ戻しに来ているなら……もうここに来れないように、その腕……潰しておくわ」
メルザは表情を憎悪に染め上げると、その場で1度手を広げ……握る動作をした。
━━━━━━━━グジュッ
酷く耳障りな異音が、スライプのすぐ横から聞こえてきた。濡れた雑巾を握ったような音から、バキバキと何かが砕ける音に変わる。
頬に当たる生温かい何かを感じながら、スライプは信じがたい思いで右腕の惨状を見た。
右腕がプレスされたように、ぐちゃぐちゃ音をたてながらひしゃげていたのだ。
撒き散らされる血液が、容赦なく彼や周囲を赤く染めていく。人体の一部が、あっという間に血だらけの肉塊に変えられてしまった。
あまりに一瞬過ぎる出来事に、スライプは悲鳴すら忘れていた。
「スライプッ!!」
代わりにシャロラインが金切り声をあげた。
「次は足━━━━!!」
叫びと共に、メルザは右手をスライプの足へ向け握る動作をする。
刹那、スライプの左足に、万力ともいえる圧がかかった。そのまま足が押し潰され、骨を容赦なく粉々に砕き、裂けた皮膚から血が溢れ出た。
メルザの凶行は、1秒もかかっていない。
「ぐ━━━━!」
スライプは続けざまに起こる人体破壊の激痛に呻いた。眉間に皺を寄せ、歪める表情は苦痛以外の何物でもない。
瞬く間に、血まみれの塊が2つになった。
片腕と片足を一瞬で破壊されたスライプはバランスを崩し体を傾けていく。床に倒れる寸前でシャロラインが彼の体を抱き止めた。
「おいっ! しっかりしろ!」
必死に声をかけるも、声は届かず。スライプは焦点が合わない目を見開き、歯を食いしばって痛みに悶絶していた。
「あっはははははははははは!! 今回は私の方が早かったみたいね!!」
惨劇の犯人は心底楽しそうに笑った。そして、赤く染まりうずくまる2人へ数歩歩み寄る。
敵の接近に警戒し、金眼を鋭利にするシャロラインは、血がドレスに染み込んでいくのもいとわずに腕の力を強め引き寄せた。
庇うように彼の体を抱き締めるシャロラインを、メルザは鼻を鳴らして見下す。
「内臓を潰さなかっただけありがたいと思いなさい。貴方には何もしないわ。その代わり、今すぐここを出ていって。そして2度と来ないで」
冷たく言い放ち、出口を指差す。
シャロラインは言い返す事も、夫の仇を取る事もなく、無言でスライプを抱え立ち去った。
失った血の量は多いが、急げばまだ命は助かるかもしれない……シャロラインは仕切り直しを選んだのだ。
点々と赤い跡を残しながら遠ざかる足音。
壁には赤い点々、床には赤いインクのような━━━━孤児院は再びメルザとテラバスの2人だけとなる。
「やっと帰ってくれたわね。テラバスも、友達作るなら少しは選ばないと!」
子供を叱るような説教口調で、メルザはテラバスへ向き直った。
「メルザ……なんで……」
あんな事を……。
幼馴染が破壊されていく始終を見て絶句し、唇を震わせ呟くテラバスに近付きしゃがみこむと、その頬に付着していたスライプの血を指で拭いながら。
「大丈夫! 君にあんな事はしないよ。大事な商品なんだから!」
そう言って、優しく笑いかけた。
彼女の笑顔は、さっきの凶行を行った人物と同一と思えないほどの愛らしさを持っていた。
「は……?」
そのギャップにさらに混乱した。そのせいで、先ほど口走っていた台詞がよく聞こえなかった。
頬を撫でる手は温かい。微笑みも、記憶の中の優しい姉と遜色ない。それゆえ、女の狂気が際立った。
メルザの歪みが剥き出しになっていく。
目の前の女は、一体何なのだろう。
この時にようやく、テラバスは彼女の異常さに気がついた。
続きは明日になります




