47話 偽りの家族
ちょっと話が暗くなります
こちらに近付いてくる等間隔の物音に、テラバスはビクッと体を震わせた。無意識に荒い息を吐く。
目が見えないおかげで、聴覚が敏感になっているせいもあるのか……動いた拍子に首枷の鎖が揺れ、金属がぶつかる音も過剰に拾った。
縮こまっていると、自分の近くで足音が止まり、キィ……と鉄格子が開く音が響く。
どうやら檻か何かに入れられているらしい……と、テラバスはぼんやり思った。
おそらく自分の前に立つ、黙ったままでいる来訪者に、テラバスは声をかけた。
「……っ、誰だ……」
自分の声を久々に聞く。
絞り出した声は掠れていた。姿が見れないので声で判断するしかないのだが、それすら無いのでは特定が出来ない。
味方ではないのは確定なのだが。
「ああ、ごめんなさい。今、治すわね」
その声は女性のものだった。
突然、何かがテラバスの目を覆った。反射で少し顔を反らしてしまったが、じんわりとした温かさが不思議と落ち着き、テラバスはされるがままになっていた。
━━━━数分後、その温かなものが目から離れた。
「はい、これで見えるでしょ」
ハッと目を開けると、急に鮮明になった景色にテラバスは驚いた。
女性の言葉通り、目に光が戻ったのだ。テラバスは視力が回復した瞳で周囲を見渡す。
この時にようやく、自分が置かれている状態を把握する事が出来た。
明かりはついているが薄暗い、鉄の檻に囲われていた。首に嵌められている枷は、拘束具にしては長めの鎖で壁と繋がっている。体の痛みはなく、服も何かされた形跡は無く着崩れていなかった。首元のゴーグルもそのままであった。
そして目の前にいるのは、葵色の長髪を高く結わえ、ぱっちりした紫色の瞳でテラバスを見つめる女性。
長丈の白衣とインナー、膝上のスカートとロングブーツという出で立ちは、凛としつつ愛らしい彼女の顔立ちにとても合っていた。
「最低限の魔力だけ義眼に注入させてもらったわ。もって1日のね。理由は、貴方の魔眼使用を防ぐ事」
仁王立ちでそう語る女性を見ていたテラバスは、浅い呼吸を繰り返し、みるみる青ざめ瞠目していった。
自分が孤児院を出てから1度も再会していなかったから昔の姿しか覚えていないが、その面影が残っている。
テラバスの口元がメルザ、と動く。
名前を呟いた事により、過去の記憶が一気に甦る。
親がいない子供達を集めた孤児院で、いつも手を引いてくれた優しい少女。血の繋がりがなくとも姉と慕っていた人物だった。
優しい過去と、突きつけられている現在で、精神の均衡を失ったテラバスは顔を背け泣いた。
「いやだ……いやだよぅ……どうして……こんな……」
裏切られた気分だった。何故優しかったあの人がこんな仕打ちをするのか。
情けないとか、そんな感情はパニック状態の彼からは沸いてこない。
その声色も台詞も、幼い日に戻ったかのようだった。
声を震わせ頬を濡らす弟を見たメルザは、思わず膝を地面につけ、愛おしそうにテラバスを抱き締めた。
「大丈夫。これからはお姉ちゃんも一緒だよ……いや、他の家族とも会えるかもね」
そう言ってテラバスの頭を優しく撫でた。テラバスはメルザの抱擁を泣きながら受け入れている。
優しげな抱擁と手つきの裏で、歪みきった笑みを浮かべているメルザの狂気に、テラバスは気付かない。
次回から暗めの内容に入っていきます。
今回のはそれの予告という感じです。
苦手、抵抗のある方はご注意下さい。




