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46話 ルーレンの正体


 ただでさえ土地勘が無い2番街。


 どの方向に向かっているか分からないので、スライプとシャロラインはルーレンの後ろをひたすらついていくだけである。


 歩き出して数分たつが、今のところルーレンから罠に嵌めようとする動きは見られない。しかし、案内とはいえ敵の誘導を受けているのでスライプは警戒を続けていた。


「そんなに警戒しなくても、今は何もするつもりは無いよ。ちゃんと連れていくってば」


 突き刺すような警戒を背中に浴び続けたルーレンは、我慢できずにスライプへ抗議する。

 クレームをつけられたスライプは、仕方なく殺気を緩めながら、ずっと気になっていた事を質問した。


「……君は随分、僕を知っている口振りをしているけど、どっかで会ったことあるか?」


 戦った際にも、ルーレンはスライプを「軍でも有名だった」と言っていた。軍関係者なのは確実なのだが、どこの誰さんなのか検討もついていなかった。


「………………君は、まだ気付いてくれないのかい?」


 自分の正体を微塵も勘づいてない様子を見ると、ルーレンは長い沈黙の果て少し残念そうに呟く。

 正体を明かそうにも、フードを取るための両腕はスライプに切断されてしまっているので、ルーレンは頭を大きく振りフードを取った。やや乱れた赤髪と、同色の瞳が2人の前に晒された。



 その姿に、スライプは覚えがあった。

 7年前、新人兵として共に第1部隊に配属され、テラバスが度々手を加えていた赤髪のアンドロイド……。


「シュリオン……」


 スライプは信じられない気持ちで、その名を呟いた。同じ部隊員として、戦ってきたかつての仲間だったから。

 そんなスライプの、感情が抜け落ち呆けたような顔を見たルーレンは吹き出し、やがて声を出して笑った。


「君もそんな顔するんだね。そ、正真正銘シュリオンだよ。……久し振りだねスライプ」


 懐かしい人を見るような、穏やかな眼差し。


「お前、軍を抜けたのか」

「抜けたというより、お役御免だね。戦争も終わったし、維持費節約のため退役という名目で廃棄された。廃棄処分を待つなかで、僕はメルザに拾われた」


 ルーレンは当時ついていくか悩んだが、留まっても破壊される体、あとは自由に生きてもいいのではないかと思いメルザの手を取ったのだ。


 それから、2人は目的を共有し行動を共にしていく。

 

 メルザの目的はテラバスを探し出す事。

 ルーレンはテラバスの所在を見聞きしているため、拾ってくれた礼として情報を提供した。


 準備を何年も重ね、いよいよ今日、実行に移したのだ。


「お前はどうしてあいつの加担をするんだ。……テラバスに、何か恨みを持っているのか?」


 ルーレンはまさか! と目を見開いた後に、表情を曇らせた。


「あの子がやっている事は、間違ってると思う。僕だってテラバスの事は傷つけたくない。……それでも、僕はあの子の味方をするよ」


 その顔は罪の意識からにも見え、理由は語られなかったが、ルーレンにも決意と覚悟があるのだと感じた。





「そんな事より、結婚してたんだね。あんな風に軍を離れてしまったから心配してたけど、どうやらやることはやってたみたいで」


 少し冷やかすように、にまにまと笑う。


「まぁ、そうだな。こっちが、僕の奥さんのシャロラインだよ」


 スライプは照れくさそうに頭をかくと、ルーレンに妻を紹介した。


 2人は互いに名前だけを名乗った。同じアンドロイド同士話も合うはずなのだが、敵同士という事で不要な馴れ合いを避けたのだ。


「それでルーレン。君達の拠点はどこにあるんだい?」

「まぁもう少しで着くよ。……それに、ここはもう2番街じゃないし」


 そう言うと、ルーレンは踵を使い地面に結界破りの紋をガリガリと描く。

 術が正常に発動し、空砲のような音が響くと周囲の景色が一気に変わった。

 3人の目の前には田舎の街並みではなく、木々が無数に生い茂る森が広がっていた。


「結界を応用してね、地点と地点を結び近道(ショートカット)出来るような魔法を習得したのさ!」


 ルーレンはえっへんと胸を張る。

 一見どこにでもある、何の変哲もない自然区域なのだが━━━━

 

「あ……」


 その光景に、スライプは懐かしさで目元が緩んだ。


 この森を覚えている。

 小さい頃家族と一緒に出かけ、森の中で迷子になり泣いていた自分と、その時に出会った黒髪の少年の記憶が(よみがえ)った。


「ルーレン、ここは?」


 呆けているスライプを尻目に、シャロラインはルーレンへ問う。


「ここは8番街の外れの森━━━━スライプの故郷であり、テラバスがいた孤児院のあった場所だ」





  ◇


 ここは魔力が少ないのか、視力は一向に回復しなかった。

 まばたきを繰り返し、ひとまず眼球が無事である事を確認する。体の痛みも無く、ナイフが(かす)った頬の傷すら無くなっていた。


 情報源は己の耳や鼻、肌からで、物音が響く空間であること、少しジメっとして湿度が高めであること。気になる匂いは特に無く、両手両足は自由だが、首に枷をつけられていることが分かった。


 スライプに刺されたはずの胸には刺し傷が一切無く、心臓はしっかり動いていた。女が何か言っていたような気がするが、内容は全く入ってきていない。

 

 目が覚めてからも、テラバスの不安定な精神状態は続いていた。


 首に嵌められた枷が、呼吸より心を苦しめる。


 あの女の嘲笑が怖い。

 暗黒しか見せてくれない視界(せかい)が怖い。



 たとえ幻でも、自分を刺し殺した幼馴染が怖い。


 今現れたら、と考えただけでも胃液を吐き出してしまいそうだった。



 それでもほんの、ほんの少しだけ冷静な自分がいて、その冷静な自分は幼馴染に助けを求めていた。


「━━━━……っ」


 声が出なかった。喉の奥が焼けつくように痛かった。言葉には出せないから、心で願う。


 スライプは自分にとって、色んな意味で初めての友人。(あわ)れみ無しで友となった、最初の人だった。


 弱った心で、友へすがる。


 また、あの時みたいに、オレを助けてくれよ……。


大変お待たせしております

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