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45話 愛妻合流

2月24日 改稿しました。1500字→2500字


 エルジーナの提案は「シャロラインをこちらへ連れてくる」という作戦であった。

 まず、エルジーナが魔法を使いシャロラインのもとへ出向き、共に戻ってくる。というものである。


 転移の魔法は汎用性が高く移動手段、退避手段としてかなり便利なものだが、範囲が「自分自身のみ」と極めて狭い。一応、他者と一緒に転移する事は可能だが、魔法の効きが悪いと精度はかなり落ちる。

 対象物に魔力が十分に行き渡らなければ、最悪の場合四肢切断すらあるのだ。


 自分や、他者の腕や足を置いてけぼりにして転移……という事例があるくらい危険と難度は高くなる。



 よって、魔法使い達は転移魔法が使えても他者を含めての転移は提案しない。されても、絶対やらない。


 しかし、エルジーナは自ら提案してきた。

 よほどの自信があるのか……さすが最強の魔女の孫である。



 危険は伴うが、これなら時間をかけずにシャロラインと合流が出来るので、スライプも賛成した。


 方法が決まり、魔法の準備にとりかかる。



「では、ちょっと失礼します」


 一言声をかけ、エルジーナはスライプの額へ右手を当てた。


 転移の魔法を実行するためには、まずスライプの自宅の場所を知る必要がある。それには口頭で情報を得るより、脳の記憶から直接仕入れた方がより確実で効率がいい。


 脳に近い額から、手を介し情報を得る。


 やがてスライプの額から手が離れた。移動するのに十分な情報を得たエルジーナは、口を小さく動かした。それは呪文だったようで、短い詠唱の(のち)、風が吹き始める。


 はじめは頬を撫でる程度の風力だったのだが、だんだん荒々しいものへ変わっていき、風がエルジーナを囲い込んでいく。

 空中の魔力を風として可視化させ、自身を転移させるほどの魔力を得たエルジーナは、力強く頷いた。


「では、行ってきます!」


 エルジーナは目を瞑ると、吹きすさぶ風で身を隠すように一瞬で姿を消した。






 ━━━━数分後、スライプの目の前に竜巻のような風の束が吹き込んだ。一瞬の暴風の(のち)、エルジーナに抱きつかれる形で、シャロラインは2番街の街中に降り立った。


 金色の髪と瞳、着替えてきたであろう鉄の胸当てがついた青の戦闘ドレス。どちらも風に(あお)られ、優雅になびいている。


 ややつり目で気の強そうな瞳がふい、と夫を捉えた。

 陽に当たり輝く美しい容貌に、スライプは思わず震えた。



「シャ、シャロ~~~~!」



 愛妻を久し振りに見たスライプは感動のあまり抱きつこうとしたが、ツンデレな妻にビンタされてしまい、愛の抱擁(ほうよう)をおあずけにされてしまう。


 脳が激しく揺さぶられ、体が大きく傾く。そのまま地面に転がるのを、足を踏ん張りどうにか(こら)えた。


 ━━━━鉄の塊で殴られたので、正直……もの凄く痛い。

 手の形に赤くなるなんて可愛いものではない、手の形に黒い痣が出来ていそうな痛みであった。


 打撃は強力だが血の味がしてこないので、口の中は切っておらず歯も折れていないらしい。ダメージを最大にしつつ不必要な怪我をさせないあたり、さすが「戦闘アンドロイド」というべきか……。


 頬を押さえ苦笑いを浮かべ━━━━心の中で悶絶しながら、スライプは殴ってきた妻を見た。


 ただでさえ気の強そうな顔を、さらに険しくさせこちらを見ていた。美しく輝いていた瞳が、今は凶暴さを感じさせる鋭い眼光に変わっている。


「そんな事で呼んだ訳じゃないだろ! エルジーナから少し聞いた。テラバスがお姫様のように誘拐されたと!」


 本人は、極めて真面目。

 凄い剣幕で、シャロラインは言い放った。




 ……エルジーナ、何て言ったんだろう?




 とても気になるが、シャロラインが言う通りそんな事をしている場合ではない。もしかしたら、成人向け好色本みたいに乱暴されているかもしれない。


「そうなんだ。ちょっと緊急事態だから、依頼の最中(さいちゅう)だけどエルジーナに頼んでシャロを呼び寄せてもらったんだ」


 痛みと笑いを(こら)えながら、一通り事情を話し、情報を共有する。


「そうか。それじゃ敵の拠点に行く必要があるのか……。場所の検討はつかないのか」

「うん。逃げられてしまったからね。怪しいところをしらみ潰しに探していくしかない」


 助けに行こうにも場所が全く分からない。検討すらつかないので、拠点となりそうな廃墟やら地下室やらをとにかく潰して歩くしかない。


 気が遠くなるような果てのない作業だが、テラバス救出のためにやるしかない。



 そう覚悟を決めた瞬間。








「その必要は無いよ」


 聞き覚えのある声に反応したスライプは振り返る。見たことのある重々しい服装の、赤髪の少年。

 かろうじて見える口元をへの字に曲げ、いかにも不機嫌という表情で立っていた。


「ルーレン! どうしてここに」


 テラバスを連れ去った、敵の1人だ。

 結界を破壊した時、術の反動で気絶し仲間と共に離脱したはずなのだが、今のルーレンにダメージが残存している様子は見られない。


「メルザが言ってたでしょ。お友達なら歓迎するって。僕はその案内役だよ。ほら、さっさとついてきて」


 初めて会ったときのような明るい気さくな様子は無いが、敵意や殺意も無いようで、背を向けてただついてくるように促す。


 大人しく先を歩くルーレンを見たスライプは、敵の罠かもしれないと(いぶか)った。この場でルーレンを破壊し殺す事も考えた。

 彼はアンドロイドだ。人間相手にするような殺し方では死なないが、記憶を壊し“死”を与える事は可能である。


 感情のままに振り回された長槍が、陽光に(きら)めく。









 ━━━━しかし、ルーレンを殺せば本当に救出が難しくなってしまう。


 なりふり構ってはいられない。

 敵が潜んでいるなら殺すし、罠なら喜んで飛び込んでやろうとさえ思った。


 スライプはシャロラインと顔を見合わせ、少年に追従していく意思を互いに確認した。


「エルジーナ、僕達は行くけれど君は先に帰っていてくれないか」


 ここから先は恐らく危険地帯である。魔法が使えるとはいえ戦闘経験が無い少女を連れていけない。最悪、ただの足手まといになる。

 それは本人も重々感じているのか、少し悲しそうな表情を見せたが、すぐにその色を消した。


「……分かりました。どうか、無事で帰ってきてください」


 (たたず)む少女に見送られながら、スライプとシャロラインは先を歩くルーレンの後を追った。


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