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36話 過去の日々を想うような

3章へ入ります。よろしくお願いします!



 ぼんやり、見える。

 もやに囲まれ(かす)んで見える、白い光の中。


 前を走る、自分よりもほんの少し背の高い女の子。手を引き、顔だけこちらに向けながら口を動いているが、音は出ておらず何と喋っているのか分からない。


 幼い自分はついていくのが精一杯といった感じで、足元が覚束なくなりながらも少女の後を追っている。


 そして、淡い光の中で待っている大勢の子供達と、数人の大人の姿━━━━



 ━━━━━━━━━━━━




 ━━━━━━━━━━




 ━━━━━━






「…………んぁ…………」


 強烈な眩しさを感じ、テラバスはゆっくり目を開けた。

 窓から差し込んでくる強烈な西日が、顔をじりじり照らしていたようで顔が少し熱い。

 目の前には、修理途中のカルスが仰向けで寝そべっている。首と胴体が外され、導線と関節部が露になっている状態で放置されていたカルスは、テラバスの起床に微笑んだ。


「よく、眠れましたか?」

「……悪いな。ほったらかしにして。……懐かしい夢を見てたよ」


 どうやら作業途中で、午睡(ごすい)してしまったらしい。


 テラバスは背を伸ばし欠伸(あくび)をした。爆睡続きだった最近にしては珍しい……久々に見た夢は、遠い過去の、自分の記憶だった。





 テラバスは国軍に入るまで、森の中の孤児院で育っていた。


 3歳の時、父親の浮気が原因で別れ、テラバスは母親に引き取られたのが、父親に似ている面影に嫌気が差したらしく、数日経たずに施設の前に捨てたらしい。


 覚えているのは自分の名前と、かろうじて誕生日くらい。両親の顔と名前など、全くと言っていいほど覚えていない。

 記憶が無くとも不都合は無かったし、両親に会いたいとも思っていない。正直、生死すらどうでもよく思っていた。


 同じような事情を抱えた子供達と、両親とは違い優しい大人達に囲まれ施設で過ごしてきた日々は、とても大切で充実したものだったから。


「さてと」


 テラバスは、意識を過去から現在へ戻した。

 カルスの機体は過去に魔薬を使われた影響なのか、動作不良を起こすようになっていた。その修理が今しがた終わり、導線が首からはみ出さないように繋げると、カルスは調子を確かめるように首を動かした。


「異常が起きてた場所は直したし、よくなるとは思うけど。後なんか気になるところはあるか?」


 テラバスからの問いかけに、カルスは調子のよさを見せつけるように大きく首を横に降った。


「大丈夫です。それより、目は大丈夫なんですか?」


 カルスはテラバスの瞳を覗きこんだ。

 彼が愛飲しているコーヒーのように、真っ黒な瞳。その右目の眼球に横一線、亀裂が見えた。


「……うん。視界に異常は無いし。まぁでも、連続使用はダメだな」


 カルスの心配に、テラバスは笑って髪を撫でた。


 それが合図かのように、カルスは起き上がりひょいと作業台から飛び降りる。

 元気になった小さな背中を見ていると、両目の奥がじんと痛み始め、テラバスは顔をしかめた。まるで針が突き進んでくるように、痛みが強くなっていく。テラバスはつらそうに眉間に皺を寄せ、目の痛みを耐えながら冷蔵庫を目指した。


 こうなった時用に、冷蔵庫には冷やした濡れタオルを常備してある。痛みが和らぐ訳でも無いが、この方が気が紛れるのだ。

 テラバスは押し当てるように、タオルで目を覆った。


「はぁ……つっ……」


 何度経験しても、慣れないものはある。テラバスはため息をついた。


 この目は、その手の類いとしては欠陥品である、とテラバスは思っていた。能力は今の自分にはありがたいものだが、使う(たび)に激痛が走るようでは不良品である。


 しばらくタオルの冷感に身を委ねていると、再び過去を思い出す。

 子供達の中でも1番仲が良かった、年上の女の子。実の弟のように可愛がってくれた、優しい人だった。自分自身もつらい目にあっていたはずなのに、過去の暗さを微塵も見せずみんなに優しくみんなに慕われる存在だった。


 テラバスもその内の1人であった。


(確か……)


 スライプと知り合ったのも、その頃である。

 孤児院をこっそり抜け出していた自分と、森で迷子になり半泣きになっていたスライプが出会い遊ぶようになる。これがきっかけとなり腐れ縁が続いていく関係となったのだ。


 スライプの事も思い出していると、ついでに済ませるべき用事も思い出す。


「斡旋所が閉まる前に……行ってくるか」


 痛みが引いたのか、テラバスはタオルを放り投げると、引き出しから封筒を取り出した。真っ白な封筒は、少し膨らんでいる。

 この中には、正式な依頼として斡旋所へ届けを出す書類が入っているのだ。


 通常、斡旋所に届けられた依頼は難易度(ランク)ごとに分けられ、誰でも受けられるように公開される。しかし、テラバスは名指しで依頼を出すことを決めていた。

 名指しで依頼を出す利点は、実績のある人に依頼すれば高確率での依頼成功を見込める点と、依頼内容が周囲に非公開に出来る点である。

 一方欠点は、名指しされた請負人が断ってしまえば、その依頼は斡旋所から消滅される点である。その斡旋所ではもう受理されないものになってしまうので、他の地方の斡旋所へ届け出るしかなく、確実性を求めるならよりいい報酬を用意する必要があるのだ。



 そして今回依頼する相手は、テラバスがよく知り、よく信頼している幼馴染。

 一応、報酬はそれなりの物を用意したつもりだが、受けるかどうかは本人次第である。

 当然お断りされる可能性があるので、幼馴染といえど返事が来るまで気は抜けないのだ。それに、彼は報酬より依頼内容で選ぶ節があるので尚更である。






 ━━━━オレの幼馴染は、オレの願いを……聞き届けてくれるのだろうか。



 テラバスは、したためた依頼書を手に外へ出た。


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