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28話 軍人回帰回想 2


「今思えば、相当スゴい奴らの集まりだったよ」


 長話ですっかり冷めてしまったコーヒーを飲みながら、テラバスは遠い目をした。


「メナトはともかく、レイガンなんて名門中の名門。何で当時知らなかったのか不思議なくらい有名な軍人一家だ。フローランカも何年も代を重ねてきた魔法使いだし。ほんと、スゴいのに囲まれて生きてたんだなって思ってるよ」


 昔の仲間の顔と名前を思い出しているのか、そう独りごちる。


「……テラバスは、何でその部隊に入ったんだ? スライプが問題児だったのは分かるが、お前もそうだったのか?」


「いいや、多分オレはスライプのお守りだ。どんなに優秀な暴れ馬でも手綱は必要だろ? ……と、話を戻すぞ」




  ◆◆◆


 それから部隊での活動が始まり、初めはいなかったもう1人の同期シュリオンも加わり、ようやく全員揃う事が出来た。




 時は移り、ある晴天の日。軍本部の広大な敷地内にある、実戦用の荒野に立つ5人の人影。


 問題児と名高い第1番部隊の隊員達である。

 そこにテラバスとシュリオンの姿は無く、集められているのはスライプをはじめ戦闘兵だけのようであった。


 この日は部隊内での実戦演習。

 チーム分けはサラスティバル VS テラバス、シュリオン以外の4人である。


 サラスティバルは木製の魔杖を手にし、1対4と数的不利にも関わらず、かかってこいといわんばかりに挑発してくる。もちろん、こんな見え透いた煽りには乗らない……各々、静かに武器を持ち上げる。スライプも銅製の短槍を構えた。



 数分後、ヴァッテリダが腰を落とし切り込みに行くのと同時に、戦闘が始まった。



 スライプの暴れっぷりは相変わらずだが、先輩軍人も負けてはいなかった。

 ヴァッテリダの大太刀は、彼の恵まれた体格も相まって相当のリーチと威力があるし、読書好きインドア派だと思われていたハイゼリカも、細身の剣で身軽さを生かした剣舞のような優雅さで切り込み、アンジェスタの水魔法の威力と速度はまるで銃の弾丸である。


 苛烈な剣戟と激しい魔力の流転。

 優秀ゆえ問題児という第1番部隊の火力と連携は、他の部隊と比べてもトップクラスであった。



 しかし、1番恐ろしかったのは教官(トップ)であるサラスティバル魔法院特級大将である。

 

 この4人を相手にしても全くダメージを受けていないのだ。


 鮮やかに呪文を紡ぎ、魔杖を振るう。

 本人はその場から動かず魔法を使っているだけなのだが、攻撃魔法、防御魔法、反射魔法、攻撃を逸らせる離反魔法を同時に使いこなす規格外の技術と魔力転換力を誇る恐ろしい実力を持った人物なのだ。


 それゆえ、国王から賜った階級が「魔法院特級大将」

 通常の階級では収まらないほどの力を持った、国が誇る稀代の魔法使いなのだ。



 さらに雷属性と氷属性が最も得意らしいサラスティバルは、雷撃と氷塊を駆使し遠距離から新人(スライプ)を徹底的にイジメ抜く。


 閃光が無数に走り、氷塊が落下した地面はたちまち凍りつく。直撃すればおそらく無事ではすまないだろう魔法を、スライプは直撃を避けるため、とにかく走って魔法の照準を定めさせないことに全力を注いだ。


 サラスティバルがスライプイジメに夢中になっている隙を突くために、ヴァッテリダとハイゼリカは一気に距離を詰める。

 しかし、サラスティバルはそれを狙っていたかのように、一方は防御魔法で弾き返し、もう一方は離反魔法で攻撃の軌道をずらし(ことごと)く反撃を撃墜させていた。


 遠距離攻撃はアンジェスタの水魔法なのだが、同じ魔法使いでは完全にサラスティバルに軍配が上がる。そのため水の弾丸も相殺され、あっという間にかき消されてしまう。


 決死の攻撃全てが無意味に終わると、皆一様に悔しそうに奥歯を噛んだ。どうやっても刃が、水弾があの魔女に届かないのだ。


 必死の疾走により何とか魔法を避けきったスライプは、攻撃の手がこちらに向いてない間に、呼吸を整えた。


『あんのクソババアめ……っ!』


 額から流れる汗を拭いながら、スライプはつい悪態をついてしまった。(自分の中では)ごく小声で喋ったので、サラスティバルの耳には届いていないはずだが、いつの間にか隣にいたヴァッテリダには聞こえたらしい。


『ムカつくが……(しび)れるだろう?』


 いくら演習とはいえ下手こけば死。反撃の糸口が見えない敗北濃厚な実戦なのに、ヴァッテリダは苦しそうに呼吸を繰り返すも楽しそうに笑っている。


 その言葉には、スライプも同感だった。


 つい、スライプは笑ってしまう。普段の、穏和で優しそうな彼からは想像もつかないであろう獰猛な微笑みである。

 体力は限界のはずなのに、殺意は炎のように(たぎ)る。握力を失いかけた手に再び力が宿った。


 歪んだ顔はそのままに、スライプはふと他の先輩軍人の顔を見る。その表情に、スライプは戦況も忘れ目を見張った。


 普段はクールで、感情の起伏があまりないハイゼリカは、氷弾により無数の傷を負いながら、口元を微笑みの形に歪ませている。

 アンジェスタは魔力の過剰消費もお構い無しに、届かないと分かった魔法の威力をさらに倍にして打ち出している。


 共通しているのは、楽しそうに笑っていること。

 爽やかな笑みではない。次で殺ってやろうという悪逆さが滲み出た笑みである。



 それを見て、スライプは理解した。

 自分がなぜこの部隊に配属されたのか。

 実力は十分なのに、なぜこの3人は問題児扱いされこの部隊に集められているのか。


 みんな、スライプと一緒なのだ。戦いを喜び、強者との競り合いを喜んでいる。


 同じ穴の狢。『好戦的』で『異常者』だったのだ。




  ◇◇◇


「スライプと……一緒……」


 シャロラインは少し呆けていた。戦闘狂(ウォーライカー)モードのスライプの恐ろしさを知っているから、それが複数集まった状態の危険さといったら……。あまり考えたくないものである。


「まぁまだ16歳だから。今みたいな力は無かった。はず」


「それで、どっちが勝ったんだ?」


「言うまでもなくサラスティバルだよ。最後は雷の特大魔法で4人仲良く寝かされたんだとよ」


「テラバスはその時何してたんだ?」


「え、オレの話する? 今はスライプの話してるんだが……」


「いいじゃないか、気になるし」


「……オレは、シュリオンと仲良くお茶してたな」


 そう言った途端、シャロラインはえ? という表情をした。何となく想像してた反応だったのでウソウソ冗談だよ、と笑ってみせた。


「サラスティバルの命令でな、シュリオンの機能拡張をしてたんだ」




   ◆◆◆


『よし、外すぞ。痛かったら言ってな』


 軍本部、機械人形(アンドロイド)修理作業室にて。

 黒髪の少年テラバスは、どこか緊張した面持ちで台の上に横たわっている少年の腕をゆっくり外していた。


 肩口から外され、関節稼働部と導線が剥き出しになっている。これから予定している作業のために、一旦完全に切り離さなければならないので、導線を1本ずつニッパーで切断していく。

 その慎重な作業っぷりに、赤髪の少年はつい吹き出してしまった。髪と同色の瞳をテラバスに向け、朗らかに笑っている。


『アンドロイドに痛覚は無いから、思い切りやっても大丈夫だよ』


 1枚布で作られたような、簡素な服を着せられたシュリオンは、作業台に寝かされ大人しくされるがままになっている。

 途中服が(めく)れあがり、細い胴体の腹部が露になった。C=58型。腹部にはそう記載されていた。


 シュリオンは第1番部隊に新人として配属されたアンドロイドであり、C型という当時最新の機体であった。



『でもさ、自分の腕取られるのって何か嫌じゃね?』


 気分的に、とつけ足しながらテラバスは今しがた取った腕をテーブルに置いた。


 胴体から離れた腕は当然動かない。鉄で作られているとは到底思えない、表面に特殊コーティングされているシュリオンの腕。

 見た目は人間と同じなのに、断面からこぼれているのは血液ではなく無数の導線だという違和感。


 テラバスに問われたシュリオンは、頭を少しあげ隻腕となった自分の体を見た。

 自分の体が欠けていくのを見るのは少し不思議で不快だが、痛いとか痒いとかは全くないので、それは本人の気持ちと視覚的な問題であった。


『それで技術師さん。僕はどのように生まれ変わるので?』


『上官の指示はお前の関節強化、と魔法もある程度使えるようにそれ用の回路を確保しろ、という事らしい』


 言い終えて、残っていた左腕の解体も無事終了した。

 次は足である。休む間もなく(もも)の付け根から工具を使い外していく。



 テラバスの任務は、シュリオンの魔改造。

 普通のアンドロイドとして完成されたシュリオンを戦闘用に作り替え、さらに魔法も使えるようにするという経験を積んだ技術師もびっくりの(たくら)みであった。


『へぇ、それを入りたての君が任されたのか。実は結構優秀なのかい?』


『……知らんけど。関節強化は部品変えればいいし、回路確保は、導線を1本増やしちまえばいいだろうから、作業自体はそこまでではないと思うぞ』


 テラバスは平然と言っているが、すでに完成されているアンドロイドの部品交換や回路の拡張など簡単に出来るものではない。失敗すれば正常な機能すら失われ、そのまま壊れてしまう可能性もあるのだ。


 軍人として部隊に配属されているアンドロイドは、莫大な金と時間をかけて開発された貴重な戦力だ。戦闘や訓練以外で破壊したとなると、待っている末路は始末書作成と減給、もしくは階級降格である。


『入ったばかりのオレに落ちる階級はねぇよ。おら、次は首だ首。鉄ノコで切られても平気なようにガッチガチに強化してやる』


 そういうとテラバスは、シュリオンの返事も待たずに胴体と首を分離させた。




   ◇◇◇


「その頃から、アンドロイド技師だったのか?」


「正式にアンドロイド技師を目指すようになったのはその後だな。まぁ機械いじりは好きだったし。工作とか……。そんなこんなでシュリオンを立派な魔法使いアンドロイドにした訳だが」


 テラバスはマグカップの、すでに2杯目が入れられた温かなコーヒーに口をつけた。


「……オレの話はもういいだろ。……さて、あとはサラスティバルに喧嘩ふっかけてやったりやられたりする軍人生活が続いてな。やがて1年がたち、オレ達が17歳になったあたりの頃、戦争が起きた。…………これが、のちに国境平定戦争と呼ばれた隣国との戦争だ」



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