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21話 今は仕事の方が大事だ 3

  ◇

 一仕事終え、帰路につく。

 傾きつつある西日が、今日も1日が終わると告げている。

 今から帰れば斡旋所の営業時間には間に合いそうで、何とか今日のノルマは達成出来そうであった。


 出血は収まったが、ズキズキ痛む腹を押さえながら歩いていると、前方から歩いてくる人影が見えた。

 やがて距離が近くなり、顔を見合わせた2人はあっ、と目を見開いた。


「リリエッダさん!」


 夫のダルシュと共に青果店を営むリリエッダ・ヴァリューエナ。畑仕事をしていたのか、土で汚れた作業道具を持っていた。


「おや、スライプじゃないか。ここで会うのは珍しいね。……って! 怪我してるじゃない! あんたがやられるなんて珍しいね、誰にやられたの!」


 スライプの怪我に気付いたリリエッダが、大声をあげた。

 ズカズカ近付き傷の具合を見ようとするリリエッダの勢いに押され気味になったスライプは苦笑いを浮かべた。


「ちょっと仕事で……」

「仕事ぉ? ……シャロちゃんに酷いことしておいて仕事に行ってるのかい」


 その瞬間、スライプの目の色が変わった。

 リリエッダの口から妻の名前が出ると思いもしなかったスライプは、腹の傷も忘れリリエッダの肩を掴んだ。


「リリエッダさん! シャロの事、何か知ってるんですか!?」


 すがるように表情を歪ませる青年に対し、リリエッダはしまった、という表情をした。夫の裏切りを受け悲しんでいるシャロラインを匿っている張本人なのだ。


 まだスライプのもとに返すつもりはないリリエッダ。もちろんシャロライン本人の意志を最優先させるつもりだが、1度首を突っ込んだからには、最後まで面倒を見る義務があるとリリエッダは感じているのだ。


「い……居場所は知らないけど、シャロちゃんが悲しんでるのは知ってるよ」


 精一杯突っぱねてみせるリリエッダだが、声は震え不自然な挙動になっている。さすがにバレたか……と思い、横目でちらりとスライプを見てみると。


「そう……ですか……」


 分かりやすく肩を落とすスライプ。リリエッダの不審さに気付いていないようであった。

 普段なら少しの違和感でも目敏(めざと)く気付いてつけこんでくるのに、今は色々注意力が抜けているらしい。続けても問題ないと思ったリリエッダは更に踏み込んだ。


「……それで、何があったの。まさか本当に……」


 わざと言い淀み、訝しげな視線を向ける。


「ちっ違う! 誤解なんです! 僕は決してシャロを裏切ったりしてません!」


 柔和な相貌の眉を下げたスライプ。頼りなさげに見える瞳の、その奥に意思の光を放つ両眼を目の当たりにしたリリエッダは、微笑を浮かべながら嘆息した。


 まるで、まいった、と降参したような仕草である。


「ま、あんたは不貞を働くような奴じゃないって思ってるから……帰ってきたら目一杯抱き締めてやりなさい」


 そう言い残し、颯爽と立ち去っていくリリエッダの背中を佇み見送る。スライプはそれを色んな含みを持った言葉にも思えたが、(ひらめ)きには至らなかった。


 帰ってからやることがある。斡旋所と傷の手当て。

 彼はまず斡旋所に向かうため、地平へ沈んでいく太陽で照らされた道を歩み始めた。

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