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2話 戦闘狂と修理技師


 修理屋は同じ3番街、2人の家から歩いて15分程の場所にある。その一軒家にノックも呼び鈴もせずに入っていくと、その中にいる2人の顔を見て青ざめている黒髪黒眼の青年に「やぁ」と声をかけた。



  ◇

 修理屋の青年テラバスはその光景に愕然とした。何故ならつい一昨日直したはずの幼馴染のアンドロイドが、片腕破損状態でやってきたのだから━━━━





「お前は……っ! ホントにいい加減にしろよ。少しは自分の嫁大事にしろ!」


 事情を聞いたテラバスは怒り半分飽きれ半分で修理に取りかかる。ジャージから作業着に着替え、ゴーグルを装着し薄手の手袋をはめた。椅子に座ると、まず千切れた導線の具合を見た。素人目にも分かるくらい乱暴で粗雑な切れ方である。


「うん。シャロにも言われたよ」


 作業台に寝かされているシャロラインを心配そうに見つめるスライプ。

 シャロラインは『伴侶型戦闘アンドロイド』という婚姻と戦闘を目的に造られたアンドロイドである。


 つまり、スライプとシャロラインは夫婦なのだ。


「いつもすまないな。修理費ぼったくりしてもいいぞ」


 修理を受けているシャロラインが口を開く。


「ああ、是非そうしたいよ」


 テラバスは器用に口を動かしながら手も動かし、切断された導線を新しい導線と繋ぎ合わせていく。1本でもミスがあると正常に機能しないので、アンドロイドの修理は集中力がいる作業だ。


「うわぁ、それは困るな……」


 修理費の値上がり危機に嫌そうなスライプの声を聞き、今まで修理に集中していたテラバスは初めて手を止めた。


「あのなぁ! こいつの機体はA=4型! って事はこの国で4番目に造られたほぼ試作品に近い機体なんだぞ! 何でこれを一国民のお前が持っているのかも不思議なのに、それを修理するのも一苦労なんだぞ!」


 作業台をバンバン叩きながら熱弁するテラバス。ゴーグルのせいで見えないが、眉間には皺が刻まれているだろう。


 シャロラインはアンドロイド創成期に造られた機体であり、そのせいかとにかく修理が面倒くさい。戦闘アンドロイドはただでさえ回路が多いのに、初期型の機体は更に多い。それに今は省略されている部品が普通に使われていたりするので、部品調達も一苦労。それが完全に切れた状態で来るのだからため息も出る。


 現在アンドロイドはF=88型まで製造されている。ローマ字は造られたおおよその時期、数字は何体目かを示していて、A、B、C……と順に記号と番号を振られている。


 この国は魔法が存在すれば人造人間(アンドロイド)も広く普及している。目的も様々、小間使いとしての機体もいれば犯罪目的で扱われる機体もいる。そういう機体は、記憶が残らないように破壊されそこらの道に打ち棄てられるのが常であった。


「まぁお前は比較的正しい使い方をしているから……。出来る限りの事はしてやりたい。でもな、物事には限度というモノがあってだ……なッ!」


 力を入れ、最後のボルトを締める。


「おし……。どうだ、調子悪いとこあるか?」


 約1時間の修理が終わりシャロラインが上体を起こすと、腕を曲げたり伸ばしたりしている。


「うん、大丈夫そう。ありがとうテラバス」

「おうよ、腹も腰も特に問題無いし、特別に顔の傷も直しておいた。ほら修理終わったぞ、とっとと金出して帰れ」


 ゴーグルを外し黒く汚れた手袋を剥ぎ取ると、手の平を差し出し費用の催促をする。


「分かったよ。ほら、足りなかったらまた持ってくる」


 そう言うとスライプは小さな巾着袋を投げて寄越した。中を確認すると、いつも通りの額の金貨が入っていた。


「はい確かに。っと、これは提案なんだが、お前はどうせなら最新の機体に変えてみないか。最近は高性能で水に強くなっている。それに特殊コーティングで人間のような柔らか肌になっているようだし、修理も楽になる。もちろん金は取るが幼馴染価格で安くするし、まぁ記憶の引き継ぎとかもあるから数日預かる事になるが」


 初期型のシャロラインは水に少し弱い。全くダメという訳ではないが、長時間雨などに打たれているとどこかしら異常が起きてしまう。さらに見た目は人間と全く変わらないが、触って見ると鉄の硬さがもろに伝わってくる。が、全身に流れる電気のおかげで冷たさは無く、人間とほぼ同じ温度に保たれているが。


「いらないよ。高性能って言ってもよりヒトに近いたって事でしょ。今でもよく笑うし、よく怒るし、よく戦う。わざわざ切り替える必要なんて無いよ」

 スライプは少し不満そうにテラバスを睨んだ。


 嘘つけぇただ単に離れたくないだけだろ、と思ったけど口に出すのは止めた。

 スライプとは昔からの付き合いだしシャロラインはよく修理するから多少は分かっているつもりだが、スライプは妻としてシャロラインを愛しているし、シャロラインは夫としてスライプをよく支えている。


 正直ここまで上手くいっている夫婦は珍しい。


 アンドロイドは機械といってもほぼ人間だ。好き嫌いもあれば意志もあるし思考能力もある。性格は違うし、表情も豊かだし、何なら異性への興味や好みもある。触覚が薄いとか味覚が薄いとか細かな違いはあるものの、ザックリ言うと主成分が水とタンパク質なのか鉄なのかの違いなのだ。それは今も昔も変わらない。


 よって婚姻を約束されている伴侶型でも、相性が合わない事がある。その場合はアンドロイドが出ていくか、壊されるか、記憶を消されてリサイクルされるかのいずれかになる。

 2人の場合多少の問題はあるが相思相愛の仲であり、尊重し信頼しあっている。先程の不満顔も、自分の妻に対する否定的な言われようが引っ掛かったのだろう。

 その事は、アンドロイドを扱うテラバスにとっても喜ばしい事であった。


「そうかい、気が向いたらいつでも言ってくれ。……もう来るなよー。ホントに大変だから」


 朝から集中力を使い疲れたのか、背を向けながら力無く手を降ると奥の部屋へ引っ込んでいった。


 残されたスライプとシャロラインはテラバス宅を後にし帰路についた。来たとき同様、並んで歩いていく。デートとは違うが穏やかな時間が続いた。


「シャロ、調子はホントにいいのか?」

「ああ、壊される前と変わらないくらいにはな」


 シャロラインの返事に気詰まりしたのか口を閉じ俯いていると、シャロラインが何かに気づいた。

 前方に見えるガラクタのような塊、それから生える細長い棒状のものが見えた。シャロラインはその物体に向かって駆け出した。


 予感が当たっていれば、自分が辿っていたかもしれない……もし自分がスライプにとって好ましい機体でなければ、こうなる運命があったかもしれないものである。


「シャロ?」


 突然の妻の行動に疑問を感じながら後を追っていくと、スライプにもその姿が見えてきた。



 ━━━━アンドロイドだった。

 機体は小さいので恐らく子供型。四肢だけでなく首や腰も無惨に折られ、辛うじて導線数本で繋がっている状態である。美しい銀髪であろう髪はボサボサ、薄い生地を雑に縫っただけの簡素な服は土埃で汚れている。瞳には光が無く悲愴感を漂わせていた。


「おい! しっかりしろ。喋れるか、記憶はあるか、何があったんだ」


 シャロラインの急かすような問いにアンドロイドは口を動かそうとするが、破損が激しく上手く言葉にならない。


「おい、聞こえてるなら━━━━」

「シャロ」


 一方的に捲し立てるシャロラインの肩を優しくポンと叩いた。


「落ち着いて、この子の事情は後。まずは保護しよう。持ち主がやって来るかもしれないけど、修理が先だよ」


 穏やかなスライプの口調にハッとしたのか、シャロラインは胸に手を当て気を落ち着かせた。


「そうだな……。すまないスライプ」

「大丈夫。テラバスが直してくれる。きっと直るから」


 スライプはやんわりした笑顔を向けた。きっと同じアンドロイドだから、壊されたこの子を無視出来ないのだろうと理解しながらシャロラインを励ました。

 

 専門家のもとへ運ぶため、スライプはアンドロイドを担いだ。出来るだけこれ以上のダメージが出ないように配慮したつもりだが、何せ手足が宙ぶらりんの状態なので運んでいる最中に取れてしまう可能性は大きい。

 その時はその時。仕方がないと思いながら、再びテラバスの家を目指した。

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