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16話 3番街の仲間達

「なぁ、この奥には行ってみるか? もう1つ目的があったろ?」


 スライプの体力回復を待ちながらシャロラインは奥の闇を指差した。

 2人のもう1つの目的【廃人計画】を計画する魔薬組織の情報を掴む事……受注した本来の依頼とは関係ないが、繋がる何かがあるとみてこの依頼を受けたのだ。


 このまま進めば何かあるかもしれない。しかしスライプは。


「いいや、今回は帰ろう。それは僕達の都合だし、最優先はあの首吊り体の正体を知る事だ。それ次第で終了(せいこう)続行(しっぱい)か分かれるし……。何より疲れた」


 【廃人計画】の調査はあくまで興味本位であり、依頼はなるべく早く結果を出さないと、と青年は欠伸(あくび)をしながらダンダンと石突で床を2回叩いた。


「ずっと気になってたんだが、お前のそれ(・・)なんだ?」


 シャロラインが指摘したのはスライプの、石突を床に叩きつけ音を出す行為についてだった。今まで受けてきた仕事の中でも何回か見た事はあるが、問いただすのはこれが初めてであった。

 今回の魔獣との戦いでもたびたび行われていた行動である。


「んー? 元気が出るおまじないー? みたいな?」


 本人曰く脳や気分を切り替えるためにやっているらしく、彼の癖の1つになっているようだった。

 本当に疲れているのか、いつも以上に適当に答えたスライプは槍を肩に担ぎ歩き出した。


「もう行こう。ぶっちゃけ今が昼だか夜だか分かんないし。警備兵に検死も頼まなきゃ」


 確実に夜だろうが、この格好で昼間に歩くのは目立ってしょうがない。かえって夜の方が好都合である。

 2人は帰るため魔獣の死体を踏み越え、階段をのぼり、埃まみれの研究室を歩き外に出た。



「わあ……」


 外に出たシャロラインは思わず目を奪われた。

 見上げる闇の空。それは細かいガラスの粒を振り撒いたように煌めく満点の星空だった。名も分からぬ星座がいくつも夜空に浮かび、ほんのり地上を照らしている。


「田舎ならではの風景だな。王都じゃこんな綺麗に見えない」


 スライプもシャロラインの隣に立ち、一緒に夜空を眺めた。心地よい夜風が、2人の全身に吹き抜けた。

 空気が澄んでいるからこそ現れる美しい自然の一面。人類が誕生するはるか前から存在した神秘ともとれる情景であった。


「シャロ」


 一言、愛おしそうに妻の名前を呼ぶ。その口調にシャロラインは、どこかくすぐったそうにはにかみながら青年を見つめ返した。


「帰ろう。一緒に」


 にこりと微笑みながら左手を差し出すスライプ。それに対しシャロラインはその手を不思議そうに見つめた。


「何?」

「何って、デートだよデート。せっかくロマンチックな感じなんだ、それに3、4時間は歩くんだしさ」


 静けさが漂う、2人だけの世界のような黒の檻。まさにデートにはもってこいのシチュエーションなのだが、シャロラインは。


「ロマンチックぅ? これがか?」


 不満そうな言葉と共にずい(・・)、と右手をスライプの顔に向ける。…………確かにこれではロマンチック度は激減である。

 妻の言わんとしている事が理解出来たスライプだが、引き下がる理由にはならない。


「なんだよ、だからどうしたよ。んなもん繋いでしまえば関係無いよ」


 青年は負けじと左手を差し出し、催促に負けた女性も右手をその上に重ねた。

 彼の左手は血(まみ)れで、彼女の右手もまたべったりと血で汚れていた。



  ◇

 数日後、スライプは3番街仕事斡旋所を訪れた。

 警備兵に頼んでいた首吊り体の検死結果が出たと連絡を受け、依頼の成否の確認と報酬の受け取りに来たのだ。


 押し戸を開けベルの音を響かせながら室内に入る。中は相変わらず閑散としていて、カウンターに座る所長は暇そうにコーヒーを啜りながら新聞を読んでいた。

 スライプは真っ直ぐカウンターに向かい、近付いてくる気配に気付いた所長はふと顔をあげる。


「おお、やっと来たか。待ってたぞ」


 禿頭(とくとう)の中年男性は読んでいた新聞を雑に折りたたみ、カウンター下の棚から薄いファイルを取り出した。




「結論から言うと、依頼は成功だ」


 おめでとう、と(ねぎら)う所長に、スライプはそうか、とだけ呟いた。

 いつも(かも)し出している柔和で穏やかな雰囲気は消え、どんよりした暗い表情で佇んでいた。


「なんだ、随分浮かない顔だな」


 依頼は無事に成功したのに、スライプはあまり嬉しそうな表情をしていない。所長が疑問に思っていると、その理由はすぐに語られた。


「まあね、今回は割りと苦戦してしまった。……ほんとは楽な相手だったはずなのに……」

「いや、報告書も目を通したが……。あれで無傷で帰ってきてんだから十分凄いと思うぞ」


 翌日警備兵が現地に赴き作成した状況報告と、スライプがしたためた報告書を読んだ所長は、はじめ開いた口が塞がらなかったほど驚嘆したらしい。

 一方でスライプが気落ちしている理由は“苦戦”。高い戦闘力を持ち実力があるが故に、矜持が事実を許さなかった。


「やっぱり、あれはランク詐欺だったのか? 他の奴らに渡さなくて良かったぜ」


 低いランクだからって他の請負人に渡していたら、間違いなく死んでいただろう。


「いいや、人探しだけならランクは妥当だよ。……いや、結界が張ってあったからな。微妙だな。……それに僕が不甲斐ないせいで、シャロがあんなに傷付いてしまった」


 スライプ自身は無傷で生還出来たが、相棒たるシャロラインは大いに破損してしまった。大切な人を守れなかった責任を感じていたのだ。

 結構本気で落ち込んでいる青年に、所長は居心地悪そうに禿頭を掻いた。


「ま、反省は後にしてくれ。仕事の後のお楽しみだ。確か金貨3枚銀貨10枚だったよな」


 人的被害がどうであれ成功は成功。しかるべき報酬は発生する。いそいそと準備をする所長を見て、スライプは思い出したように大声をあげた。


「あ! あとレイ! お前2番街の所長に何喋ったんだよ! 変な事言ってないだろうな!?」


 カウンターを両手で叩き、(まなじり)を吊り上げながら問い詰める。

 2番街の斡旋所に寄った際、出会った所長エルジーナ。彼女はスライプの事を知っていたらしく、その原因がこの所長である。


「おお、エルジーナの嬢ちゃんに会ったのか。別に、オレはなーんも言ってないぞ」


 日頃のお返しと言わんばかりのにやにやした顔に思わず掴みかかりそうになるスライプだが、目の前に出された報酬金の入った巾着袋を見せられ押し黙る。


「……それで、あの死体の死因は何だったのさ」

「んあ? そこまでは知らねぇぞ。オレが知っているのはあの死体が失踪者(ジューク)なのか違うのかだけだ。ほれ、受け取ったならサイン寄越せ。こことここな」


 スライプはいまいち腑に落ちない表情をしながら、ファイルから取り出された依頼成功証明書と、報酬受領証明書に名前を書くと、ドアを引き斡旋所を後にした。





  ◇

 報酬金を受け取ったその足で、スライプはテラバスの家へ向かった。

 いつも通り呼び鈴もノックもせず入っていくと、作業台に寝かされているシャロラインが目についた。


 帰ってきてから数日間、修理のためテラバスに預けていたが、腰の修理がまだらしく腹部の鉄板がぐるりと剥がされ、無数の回路と中の接合部が剥き出しのまま横たわっている。


「シャロ、具合はどう?」

「ああ、腕はこの通り直ったし、あとは腰だけなんだがテラバスが発注している板金がまだ届いてないみたいでな、完全に直るのはまだ先らしい」


 直った左腕を掲げて見せる。特殊な皮膚コーティングのお陰で人間と変わりない見た目で、鉄で造られているなんて想像もつかないほど精巧に修理されていた。

 他の部分も見てみると、赤く染まっていた髪は元通りの美しい金髪に戻っているし、全身にこびりついていた血も錆び付く前に綺麗に磨かれていた。


「おお、斡旋所から帰ってきてたか。いやいや、無傷で帰って来るとは恐れ入ったぞ」


 会話する声に気付いたのか、紺の作業着にゴーグルを額にあげたテラバスがやってきた。彼の足元には銀髪の子供がしがみついていて、体型に合っていないブカブカの黒いジャージを着ている。


 テラバスの言葉を「シャロラインはこんなに傷付いているのに……」という意味で取ったのか、スライプは少しムッとした。


「なんだそれは、皮肉のつもりか」

「違う違う。気ぃ悪くすんな。血だらけで帰って来た時は『こいつ死ぬな』と思ったが、全部返り血って聞いたときは色んな意味でドン引きしたし、どんな戦いだったかは知らないが掠り傷1つしてこないとは……。お前、ほんとに人間か?」


 何気に失礼な事を言いコーヒーを飲みながら、傍らにいる男とも女ともとれる中性的な顔立ちの子供を撫でた。


「何だ、その子は……」


 スライプはこちらを見ている子供に歩み寄るが、ビクッと肩を一瞬震わせて更に身を隠してしまった。

 怯えるような反応を見たテラバスは苦笑しながら、子供を無理矢理前に立たせる。


「分からないか? まぁ最初来た時はいなかったし、見違えるくらい綺麗になったしな。……ほら、お前も恥ずかしがってないで、おじさ……じゃなくてお兄さんに挨拶してきなさい」

「てめえ殴るぞ」

「うわ、待った待った。もう気付いたろ。お前達が連れてきたあのアンドロイドだよ。見ろ、今じゃこんなに元気だ」


 スライプはああ、と思い出したような表情をした。すると子供アンドロイドはテラバスの足元から離れ、作業台に寝転がっているシャロラインのもとに駆け寄った。シャロラインが笑いかけながら頭を撫でてやると、嬉しそうにはにかんだ。

 まるで親子のような仲睦まじく、微笑ましい様子を見ていた人間2人。


「随分懐いているようだな」

「やっぱり同じアンドロイドだから安心するんじゃないか? その分お前は警戒されまくってるみたいだけどな。……んで、どうだった。こいつの持ち主は見つかったか?」


 和やかな空気が一変し、互いに険しい顔つきとなる。


「ああ、見つかった。が、残念ながら生きてはいなかった。首吊りの死体で発見してな、死因は分からない。所長にも聞いてみたけど、分からないだと。まぁ捜査もあるだろうし、警備兵がわざわざ一般人に言う事はまず無いだろうな」


 この子供の持ち主は、スライプが受けた依頼の対象者でもある。機体を“死”1歩手前まで破壊した理由をこの子の前につき出して吐かせるつもりであったが、死んでしまってはそんな事は出来ない。結局、憶測だけが残ってしまった。




 問題はこの後である。


「テラバス、この場合この子はどうなるんだ」

「うーん。記憶を消して新たな持ち主を探すか、そのままスクラップ工場行きだな」


 持ち主を失ったアンドロイドは一旦回収され記憶を消去し、再び市場へ出される。しかし、1度誰かが使用したアンドロイドは人気が薄く、そのまま廃棄されてしまうのが常であった。それに、この機体は異常が無いとはいえ1度魔薬を使われた機体。廃棄に回されるのは時間の問題であろう。


 淡々と語られる話を聞いたスライプはふとシャロラインの方を見た。視線に気付いた彼女もまた目を合わせこくりと頷く。

 きっと同じ事を考えていたのだろう……、スライプはおもわず笑ってしまった。そして、その様子を不思議そうに見ていたテラバスに向き直ると口を開いた。


「それなんだけど、お前が面倒見ればいいんじゃないか?」


 幼馴染からの提案に、テラバスは目を剥いた。

 それはテラバスがアンドロイドを引き取るという意味だった。


「はああ!? 何でオレが!?」

「よく考えてみろ、アンドロイド技師が1体もアンドロイドを持ってないなんておかしいだろ。だからこれを機に一緒に暮らしてはどうだ?」

「いや、全く意味分からん」


 眉間に皺を寄せ提案をはねつける。確かにアンドロイドを生かす職業でもあるが、それとこれとは話は別である。


「じゃあお前はせっかく直して元気になったアンドロイドを廃棄する(ころす)のか!?」

「うぐ……」


 テラバスは言葉に窮した。

 自分が懸命に直し、走り回れるくらい回復して元気になった姿を見ているからこそ、廃棄する(ころす)という判断は許しがたかった。


「なら、お前がやるしかないだろう!」


 熱心に語り、揺れはじめているテラバスの心に更に追い打ちをかける。やがて、彼の両の手に拳が作られた。


「お前は……お前はどうなんだ」


 テラバスは子供に問う。テラバスがよくても、子供が嫌だと言えばそれまでだ。

 あくまでアンドロイドの意思を尊重する。アンドロイドに携わる技師としてのテラバスの決め事だ。

 子供は一瞬きょとんとしたが━━━━


「はい! 一緒に、いたいです!」


 満点な笑顔で、子供らしい素直な返事をしてみせた。さすがに、これにはテラバスも決心がついたらしい。答えを言い出す前に、決意を固めるように小さく嘆息する。


「分かったよ。うちで面倒見てやる。ただし条件だ。お前は助手としてオレの仕事の手助けをする事。分かったか」


 照れくさそうにそっぽを向いた後、子供の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。前の主からは与えられなかった愛情を感じているのか、子供は雑な撫で方でも嬉しそうに笑った。


 テラバスの誘導成功に、スライプ夫婦はアイコンタクトで喜びを共有した後、ある大切な事を思い出す。

 この子供には、名前が無いのだ。


「せっかくだ。テラバス、お前が名付けろ」


 機体に名前をつける。おそらく一生物になるであろうものに、ほんの少しだがプレッシャーを感じ腕組みをしながら考えた。


「んんー、…………カルスだ」


 しばらく熟考した(のち)、出てきた名前は可愛げのない、この国ではよくあるような普通の名前であった。


「えーもっと可愛い名前つけろよー」

「いいんだよ。このくらい普通で━━━━と、やっと届いたようだな」


 野次を飛ばす最中、ふいに鳴り響く呼び鈴の音……注文していたものが届いたらしい。テラバスは外にいる配達員に聞こえるように返事をした後、荷物を受け取りに玄関の戸を開ける。宛先の確認やサインのやり取りをした青年は一抱えある大きさの段ボールを配達員から受け取った。


「なんだ? 何か頼んでたのか」

「うん。いつまでもカルスにブカブカのものを着せる訳にはいかないからな……。カルスの新しい服だ!」


 段ボールの上を切り、広げたものは子供サイズの黒いジャージだった。しかも5着。

 予想外の服の選択(センス)にスライプとシャロラインは度肝を抜かれた。


「ジャージ!? よりによってジャージ!? 何だお前センス無いんか! ノーセンスなんか! しかも黒! 他にも色あったろ!? よりによって黒! しかも全部!」


 スライプの猛ツッコミにテラバスも大声をあげて反論する。


「うるさいな! こいつは無性なんだ。だから持ち主によって男にするか女にするか分かれるし、オレは少女趣味も少年趣味も無い! よって男でも女でも関係なく着れるジャージ! 色も黒!」


 一部の特殊嗜好者向きに造られた無性アンドロイドは、持ち主の趣味によって性別が変わる。顔立ちもそれに相応しく中性的に整えられている。

(一応)その趣味が無いテラバスは色々考えてジャージを選んだらしいが、全く同じ物が5着とは……これから始まる生活も考えると、シャロラインはカルスが少し不憫に思えた。


「いいんだ、着れればそれでよし。カルス、ちょいと着てみ」


 5着のうち1着を袋から出すと、カルスに渡し着替えさせる。ブカブカだったズボンを履き替え、上着のチャックをあげた。サイズはぴったりである。


「どうだ、着てみて」

「はい! とても動きやすいです!」

(そりゃ運動用だから……)


 嬉しそうにはしゃぐカルスを見ながら、まぁいっかと顔を合わせるスライプとシャロライン。

 何より本人達がとても楽しそうなので、センスうんぬんはもう気にしない事にした。




「ああ、それともう1つ。お前、サラスティバルって覚えてるか?」


 瞬間、朗らかに笑っていたテラバスの表情が凍りついた。引きつった顔をそのままに、ゆっくりスライプの方へ首を回す。


「……げ、お前あいつに会ったのか? てかまだ生きてんのか、あの婆さん」


「正確に言うと、あいつの孫に会った。ほら、たまに写真見せつけてきただろ。茶色い髪の女の子のさ……。あの婆さん、今は退役して2番街の斡旋所の所長をしているみたいだが、腰を悪くして代わりに孫を所長にしてるんだと。だからまだ生きてるぞ。しぶといよな」


 スライプは、テラバスが心底嫌そうな表情をする気持ちが痛いほどよく分かる。そのくらい、サラスティバルの名を持つ老婆は2人にとって脅威なのだ。


「なぁ、そのサラスティバルって一体誰なんだ?」


 話に追いつけないシャロラインが割って入ってきた。

 2人の間で、当然のように散々な言われようをされているサラスティバルという老婆だが、シャロラインはそのサラスティバルを知らない。

 依頼の道中でも聞いたが、スライプは自分がお世話になった人、とだけ答えそれ以上の事は教えてくれなかった。テラバスもいる今なら、教えてくれるかもしれない。


「知らないのか……まぁ、スライプと会う前の話だから知らないか。サラスティバルってのはな、国軍にいた魔法使いの婆さんだ。そして、オレ達の所属した軍の教官でもあった。魔法がとにっかく凶悪でな、半分()めかかってたとはいえ、戦闘モードのスライプを追い詰めた事もある恐ろしいババアなんだ」


「追い詰めたって……15回のうち2回だけじゃん。だって魔法は武具より強いなんて言うもんだからさ、頭にきて試しに殺気(けんか)ふっかけたら……なんかああなった」


「あの時はどっちか勝つかって周りの奴らが金賭けを始めたもんなぁ。おかげで上官に死ぬほど怒られたけどな。……まぁ他にも色々あるんだが、主にそのせいでスライプとは仲が悪いし、オレはあまりいい思い出が無いって感じだな」


 数年前を思い出し笑いあうスライプとテラバス。過去にどれほどの出来事があったとしても、過ぎてしまえば笑える話なのだ。




「さて、オレからも大事なお話だ。ほい、請・求・書!」


 テラバスは人差し指と中指で挟んだ1枚の紙をスライプに見せた。

 ひらひらと掲げる紙は修理したシャロラインの明細書、及び総額の請求書である。


 請求書をふんだくったスライプはまじまじと眺め、目線が紙の下に移った瞬間絶叫した。


「はああああああ!? 何だこの金額は! ぼったくりか!? ぼったくる気なのか!? 何だ金貨55枚って! いつもの5倍じゃないか!」


 紙に記されていた金額は金貨55枚。シャロライン片腕の約5倍の値段であった。

 過剰請求だ! と騒ぐスライプの言い草が頭にきたのか、テラバスも負けじとがなり立てた。


「はあ!? 妥当だし何ならちょっとまけてるわ! 腕の修理のほかに腰の板金費用、オレじゃどうにもならなかったから板金業者に頼んだし、全身は1回コーティング剥がして磨いてまたコーティングしなおしたし、中に入りこんでいた血は錆びないように拭ったし、髪は液剤で拭き取ってからちょっと巻き直ししてんだぞ! ここまでやってこの料金は良心的、何ならもっと取ってやりたいけどかわいそうだから値引きしてんだ! ありがたいと思え!」


 そもそもアンドロイドは頻繁に修理されるものではない。通常の使い方をすれば年に1度のメンテナンスで済むものなのだが、シャロラインは戦闘用としての機能(やくわり)もあるせいか維持費が誰よりもかかる。

 と、いうよりシャロラインは戦闘用とはいえ伴侶(つま)としての立派な機能(やくわり)もあるのだから、戦いに出さなければ済む話なのだが。



「これに懲りたら妻を大事にして仕事は1人で行くんだな。そうすれば費用はあまりかからずに済むぞ」

「嫌だ! 難しい依頼気軽に受けられなくなるから嫌だ!」

「お前の戦闘(しゅみ)に付き合わされる身にもなってみろ!」

「いや、私は割と楽しいぞ?」

「シャロラインは黙ってて!」


 だだをこねるスライプ。楽しんでいるシャロライン。頭を抱えるテラバス。

 そして新たに加わったアンドロイドのカルス。


 賑やかになりそうな日常に、シャロラインは不思議な心地よさを感じていた。


「ちなみに、分割は無しだからな。うちは一括オンリーだ。1週間以内に払えよ」

「くっ! クソバカァァァーーーーーー!」



 心中穏やかなシャロラインに対し━━━━

 スライプは膝から崩れ落ち、テラバスは日頃のうっぷんを晴らすかのように高らかに笑っていた。


 これで第一章は終了となります。

 ここまで読んでくださりありがとうございます。

 途中ジャージについて言い合う場面がありますが、ジャージをバカにしているわけではなくむしろ好きです。なので、作品に対する誹謗中傷はおやめください。


 さて、これから続く第二章ですが、夫婦について掘り下げたいと思います。

 夫婦といえばけんか、けんかといえば離婚、離婚といえば不倫ですね。そう二章は不倫です。

 この話を中心に二人のなめそれを書いていきます。

 安直な発想ですが、三章にも若干関係する大事なものになりますのでお付き合いいただければと思います。


 さらに、プロローグ冒頭で書いた回想にも触れていきたいと思います。


 では第二章『夫婦問答編』の更新をお待ちください。

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