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13話 潜入 5 ~地下室の咆哮~

 扉を押した圧で風が起こり2人の全身に吹き抜けた。

 それと同時に獣臭い異臭が鼻についた。


 ガンッッ!


 鉄扉が壁にぶつかる音と同時に━━━━


「オオオオオオオオオオオォォォォォォォ!!」


 物音に反応した獣たちが一斉に鳴き出した。


 廃墟になった工房の地下に囲われていた魔獣の、幾重にも重なる咆哮。

 まるで、余所者に縄張りを侵されたかのような激昂の叫びがひたすら響いた。


「うあ゛ぁ゛っ! うっせぇーな!!」


 両耳を手で塞ぎながら苛立ちを(あらわ)にするスライプ。

 その叫びも魔獣の咆哮にかき消された。


 狂騒は収まらないが、立ち止まっているわけもつもりもない2人は1歩踏み出し、魔獣地帯を進み始めた。

 

「凄いな……。何体いるんだ……」


 シャロラインの呟きも当然。左右両側、はるか先まで続いている檻の中に鎖で繋がれた魔獣が、うじゃうじゃと密集していた。


 どの個体も、猪のような前に突き出た鼻が特徴で、スライプ達の何倍もある大きな巨体であり、狂暴な目付きと凶悪な爪と牙が、光に照らされ鈍く反射している。



 ━━━━ガッッッッ!!


 人間の匂いに興奮した魔獣の1体が檻を突き破ろうと体当たりをし、ぶつかった部分の鉄柵が少し歪んだ。


 よく見ると、檻は時間経過と獣の唾液でボロボロになっており、鎖は錆び付き連結部分が緩み今にも枷が取れそうな状態であった。


 ━━━━何かのきっかけでここにいる魔獣が解き放たれても、不思議ではなかった。


「こいつらはみんな、魔薬実験に使われた奴らなのか?」

「多分ね。だから余計面倒(たのしみ)だ。理性というか……野生の勘がないからガムシャラに突っ込んでくるぞ」


 自分よりも強者の気配を感じたら接触を回避しようとする生存本能……それが実験の影響で失われている。


「つまり、危機を感じる事なく命を落とすまで襲ってくるって事だな?」

「そゆこと。…………お、目の前のいるぞ。エンカウントだ」


 スライプは槍を構える。その姿を見てシャロラインも拳を構えた。

 まだ続く地下室の檻。その奥の方から足音と鎖を引きずる音が近づいてくる。

 やがて、目に捉えられる距離まで魔獣が接近してきた瞬間、突然魔獣が絶叫し2人へ突進してきた。

 現れた姿は今まで見てきた魔獣より一回り大きく、爪も牙も鋭く尖らせている。


 巨体が疾走する地響きで2人は体勢を崩しよろめくが、腰を低く落としたスライプはシャロラインの前に立ち━━━━


「ウラァッッ!!」


 襲いかかってきた1体の魔獣を、槍の一閃で首を跳ね落とした。


 バケツに入った水をぶちまけたような大量の鮮血が、わずかな光源の、薄暗い地下室にぬらぬらと広がった。


 巨獣を一撃で打ち倒す腕力と戦闘意欲(テンション)

 シャロラインはてっきり喜びに満ちていると思っていたが、予想に反し彼の表情は(あわ)れむように暗かった。


「……元は、犬とか猫とかの普通の動物だったんだ。それが実験のせいで体は肥大化、思考は奪われ野生にもペットにもなれなくなった可哀想な子達なんだ。……せめて楽にさせよう」


 スライプ渾身の一撃は、これ以上の苦しみを与えないための、弔いの一閃だった。


 ここいる魔獣は……いや、魔獣と言われている生物達はすべて人間に利用された成れの果てであり、最初から狂暴な獣ではなかった。


 ここの施設だけでも、何十体何百体と魔薬実験に利用された哀れな生き物達がいるのだ。

 今までのものや、今も実験に利用されているものも合わせたら、どれほどの数になるのだろうか……。


 血の止めどなく流し倒れてる魔獣を見つめていると、床が揺れ始めた。小さな揺れから大きな地響きへ……どんどんこちらへ近くなっている事を察知した。


「スライプ……。感傷的になってるとこ悪いが……」

「ああ……。こっからが正真正銘本番だな……」


 見ると、人間と血の匂いに誘われた幾多の魔獣たちが、檻から脱走し、スライプ達のもとへ疾走してきていた。


 理性も本能もない、ただ音と匂いに刺激された巨体の群れ。

 狂暴な軍勢を睨みながら、スライプは(わら)った。


「こっからは可哀想なんて思わねぇからよ。…………俺は、お前らを殺したい━━━━」


 先程の感傷はどこへやら…………。

 余計な感情を彼方へ捨てたスライプは槍を閃かせ、薄暗い地下室(せんじょう)を駆け出した。

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