▲1七飛
真顔の沈黙のまま、新緑が覆いかぶさる歩道を往く。さわやかな外気とは裏腹に、僕の心は大分不穏の方向へとシフトしているのだが。
「鵜飼くん、先ほどは取り乱してすまんかった。だが集団でコトに当たる以上、名前にも統率が取れていないことには、色々と不具合があるのだよ。そこは呑んでもらいたい」
取り繕うかのように穏やかな声で、そう老人はこちらを見つつ言ってくるけど、多分違うのだろう。人を面罵するまでの譲れないこだわり……まあ、僕がとやかく言えることではないが。
「……」
曖昧な笑顔でそれを交わす。「アジト」とやらを少し見学したら、速やかにおいとましよう、との決意を新たに、かなりの歩幅で足を運ぶ老人の後を、遅れないように着いていく。
真正面に見えてきた鳩の森神社の灰色の鳥居は、やはり聖地としての威厳を誇っているかのようだ。周りの緑に同化しつつも、焦点を合わせた時の存在感が半端じゃない。
まさか、ここにアジトが……と畏れ多くも若干期待していた僕を当然のごとく裏切ると、老人は神社の右手を通り、坂の途中にあったやけに薄暗い公園へと足を踏み入れていく。
何故か階段を上る作りだったので、僕も訝しさを感じつつもそのさびれた感がひしひし押し寄せてくる佇まいの狭い段差を体を横向けて上がる。
「……」
ネコの用足しに適した砂場と、最低限の骨組みだけで作られたかのようなすべり台、あとは何か丸太を模したような要らんメルヘン感のあるベンチ然とした切り株型椅子がふたつあるだけの、狭い公園だった。原色の色づかいが逆に物寂しさを誘う。鬱蒼とした柳の木がその少ない面積を覆いつくさんばかりに張り出されており、じんめり暗い。人影も無い。
「ここだ」
ここなのだろう。意外という感じはしなかった。ああ、まあそうだよねーみたいな、パズルのピースとピースとが嵌まり合ったような感覚……でも老人の言っていた魅惑の各種設備なんか影も形も見当たらないけれど。やはり、騙されたか。
「この下だ」
僕の胡乱な目つきを見て、慌ててそう言って切り株ベンチのひとつを指し示す老人。
下? とさらに怪訝な顔つきになった僕だが、老人はまあ見てなさいと制すと、屈みこんで手にした端末をその側面辺りに翳す。
次の瞬間、音も無くその切り株は横にスライドしていくと、その下にあった空隙を僕らに晒した。何だろう、テクノロジーってこうやって無駄遣いするものなんだー、と妙に納得させられてしまう。
「……ようこそ、我らが『千駄ヶ谷支部』へ。申し遅れたが、私はここの支部長をやっている、嘉敷という。改めて、よろしく。そしてようこそ! 鵜飼モリオ君」
老人がかしこまり、両手を広げるゼスチャーを交えて言ってくるが、どう見積もっても怪しいわけで。
僕の脳裏には、この人ら、もしや巷で流行りの「失踪事件」、その黒幕なのでは? との疑いが徐々に頭をもたげてくるのであった。