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▲7七踊鹿(ようろく)


「将棋……将棋だと? 残念だがもう遊んでいる暇は無い。キミの面はほとほと見飽きたよ。私はキミらの世界を破壊して眠りにつく。最早もう……疲れたのだよ、すべてに」


 先女郷サキオナゴウの顔は、今まで見たことがなかったような、諦観と疲労のようなものに包まれているが、お前の都合など、知らん。


「……この対局に、お互いの『存在』を賭けようぜ」


 だが、譲歩してやる。ボクらが目障りなんだろう? 「対局」で全てを決着させれば、手間は省けるはずだ。


 僕はじっと、先女郷との間に現出させた「盤駒」を見ている。そうだ、この小さな9×9の枡目が、僕とお前の最後の一騎打ちの場だ。


「……どういう意味で言ってるかは分からんが」


「『対局』に勝った者が負けた方を屠る。それだけだ」


 先女郷の言葉を遮り、僕はそう告げてやる。純粋な「戦闘」であれば、僕らがこいつを倒すこと、それはもう容易であろうと思われる。


 だが、それじゃあ駄目だ。こいつの「肉体」のような物が滅びようとも、怨嗟を凝結させたようなこいつの「意思」は、必ずこの地球に残る。そのことを僕は知っている。いや、判っている、と言った方がいいのかも知れない。


 「オマジュネイション」と僕が勝手に名付けたその「力」は、いまやかなりの奔放さを持って「万能」を僕に問いかけてくる。


 それが僕に告げて来ている。こいつは、真の内部から破壊しなければならないと。


 ……ではどうする? 答えはやはり「将棋」だった。


 将棋から生まれし存在は、将棋にて葬る。


「……負けを認めたら、僕は潔く首を差し出すこととする。それが真実かどうかは……お前にだったら分かるはずだ」


 先女郷にも、「全知」レベルの力は備わっている。僕が虚偽の言葉を発していないことは分かるはずだ。伝わるはずだ。


 何を考えているのか、底も見えなかった眼鏡の奥の両の瞳が見開かれた。元々表情のバリエーションの少なかった眼鏡の細面と、初めて正対したような感覚が訪れた。伝わった。


 僕は、頭と顔を覆うマスクの首との継ぎ目辺りを探るとロックを外し、がぼとそれを脱ぎ去ると、いつの間にか現れていた脇息の外側に投げ捨てるようにして置く。


 汗がすごい。ひんやりとした空気に久方ぶりに晒されて少し開放感を感じつつも、最後の対局に向けて集中力は限りなく高まっていくかのようで。


 「レッド獅子」としてだけでも無く、「鵜飼ウガイ 守男モリオ」としてだけでも無く、その双方で、お前と闘う。出で立ちはだから、こんな感じでいいだろう?


 そして、そして。


 ミロカさんの事は頭の片隅のさらに端っこに追いやろうとしていた僕だが、それは無理だった。なら、一緒に戦ってくれ。


 君の評した「と金顔」を敵に晒し向けて、この対局を全うする。


 願わくば、君がどこかで見ていてくれれば。



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