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▲7五近王(きんのう)


 リンゴの皮むきのように、大根のかつら剥きのように、熟練のカンナ捌きのように。


 先女郷サキオナゴウの触手は、僕の差し出した左掌を境に、ちりぢりに分かたれ、その動きもついに止まった。


<グッ……>


 苛立ち混じりの声が、地の底を這うかのように聞こえてくるが、


 ……もういい。


 自らの体自体をその「触手」につぎ込んだのか? 先女郷の身体はさらに縮んでいた。その首根っこを、「獅子の左手」で掴み上げる。


 力を使い果たしたのか、観念したのか、されるがままの先女郷。あっさりと、決着はついたような感じだった。


 だが、


 ……これで終わらせる気はさらさらない。二次元人、お前らの存在意義すらもかき消して、完全にこの地球から排除してやる。


 言葉にしてみるとそんな陳腐な感情に、それでも僕は押され続けられていたかった。ふとした瞬間に、襲い掛かって来る感情があったから。


「モリくん? どこに……」


 コクピットの中、スライド式のドアから出ていこうとする僕の背中に、沖島オキシマからそう声がかかったわけだが。振り向かずに僕は言う。振り向けなかった。ミロカさんの姿をもう見ることが出来なかった。


「……決着をつけてくる。奴と……」


 余分な力と共に、感情までも抜け落ちたような僕の声に、それ以上は何もかける言葉が見つからなかったのか、沈黙が狭い空間に満たされていった。


 それに構わず、コクピットから出た僕を待っていたのは、球体のゴンドラらしきものだったわけで。これもおそらく僕のオマジュネイションが作り出したものだ。これに乗れば、この「ロボ」の内部を自在に移動できる。そう、僕が決めた。決めたからには、その通りになるんだ。僕は無言でその「球体」に乗り込む。


「……」


 行先も、もはや分かっているんだろう、伝わっているんだろう。「球体」は左腕の先を目指し、音も無く移動し始めた。


 ロボの胸部にある操縦席から、時間にして一分もかかってはいなかっただろう。その間はわざと呼吸を止めて、その苦しさに意識を逸らしてたりしていた。内部空間はそれっぽい機械で埋め尽くされていたものの、それらの隙間を縫うようにして、スムースに「球体」は推進していく。


 終点は急に訪れた。


 左掌が接している「怪物」の首の部分。「球体」は静かに止まる。そこにはいつの間にか、いま通ってきた「通路」から直結するような「トンネル」然とした穴が開いていた。


 いや、僕がイメージし、僕が開けた。「球体」から降り、先を目指す。


 ぱっくり抉られた「怪物」の喉元の先には、少し開けた空間があって、その中央に、驚愕を無理やり抑え込もうとしている、先女郷の姿があった。下半身を「怪物」に埋め込ませて。



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