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△6三雜将(すいしょう)


 新宿駅上空は、徐々に薄灰色の雲に包まれてきた。ぽつぽつと雨滴も感じるようになってきている。眼下に見えていた人々の姿も、わずかに残った警察消防報道関係の人間を除いては、ほぼほぼ見えなくなっていた。


 戦いの、最後の戦いの場としての体裁は整った。しかし僕および仲間は、目の前で蠢く「化物」の巨大さと、その体表面のそこかしこで、様々に何かを叫ぶかのような表情をしている人間の「顔」の威容・異様に圧倒され、更なる巨大化を続ける先女郷サキオナゴウの姿を見据えることしか出来ない。


<キミらもワタシと融合しないカい? 人類もコンピュータをも超越した『棋力』を得ることが……出来るカも知れなイ……>


 もはや言っていることも意味不明となった「化物」。しかしその腕の長い類人猿然としたフォルムからは、化物の面目躍如とばかりに、軟体動物を思わせる大小様々な「触手」たちが何の脈絡もない部位からしなり張り出していて、さらに不気味だ。


<……だんまリかい……ナらば、そこで見物をシているトいい……この姿ニなったカらは……穏便・隠密裏などと言っテはいラレなくなルからナァ……>


 触手たちが振動したかと思うや、それらが弾けるように細い「糸」のようなものに展開する。その黒い糸の一本一本が意思を持つ何かのように、てんでばらばらな方向を目指して伸長していった。


 いや、方向はまちまちだが、それらは全て「地表」を目指している。


「やめろぉぉぉぉおおおおおおっ!!」


 いやな予感を察知してしまった僕は、恐怖で強張ってしまった自分を鼓舞するために腹からの咆哮を一発かますと、先女郷の「本体」と思われる「化物」の喉仏付近目掛けて空中での突進を始める。


「!!」


 しかし「糸」状の触手は僕の目の前に網のように集中して展開すると、行く手を阻みながら、さらにこちらを捉えようとしてくる動きを見せた。


 斬る。ただそれだけのイメージを頭の中に思い描く。この鬱陶しい触手らを、ただ断つ、その力を我に。


「……あああああ、顕現しろぉぉぉぉぉっ!! 『リーオー・ブレーズ』ぅぅあああっ!!」


 イマジネーションは残念ながらありきたりではあったけど、僕の両手には瞬間、輝く二本の長ドスのような見た目の赤い「剣」が握られている。それらを背中側に思い切り振りかぶってから、「X」の字を描くように前方へと振り下ろす。技自体もどこかで見たような様相だったが、それはもういい。


 なぜならこれは「オマジュネイション」。「あー、あれあれ」と万人の共感を得るにつれて力を増す、謎かつ驚異の力なのだから……っ(多分


 僕の思い込みにも似た自己暗示の力によってなのか、振り下ろし「X字」からさらに振り上げつつの「X字」の斬撃によって、黒糸触手の網は呆気なくも、ばさらと断たれ四散していく。


 先女郷の「本体」まで、残り20mほど。しかしその顔には余裕が笑みの形をもって貼り付いたまま。舐めるなあぁぁぁっ!!


<落ちるがいい、蚊トンボ……>


 先女郷の最早出どころもよく分からなくなった低音が響くより先に、その「化物」の右腕が水平に差し上げられると、その車両ほどある大きさ長さの黒い金属の塊のようなものが、弾けて何本もの「触手」へと変容してくる。こいつの攻撃もありがちになってきたぞ。かといってそれをいなす有効な手段もないわけだが。


「……!!」


 急上昇して何とか黒い触手束をかわす。こいつらをいちいち相手にしてる暇も無い。どうする?


「……ふふふ、鵜飼ウガイくん!! こんな時こそオマジュネイションじゃあないか。いくぞみんな、『六棋合体』だぁぁぁぁぁっ!!」


 そこに掛けられたのは、何とも緊張感の抜けた波浪田ハロダ先輩の声であった。周りの面々もそれぞれ薄いリアクションでそれを流し気味に収めようという空気が流れ始めていたが、ちょっと待てよ。それいけるんじゃね?


「みんなぁぁぁぁぁぁぁっ!! 僕と!! 合体してくれぇぇぇぇぇぇっ!!」


 魂の叫びは、「ええ……キモ」というような女性陣の汚物に投げかけられる呟きもかき消し、何とか「共有」されたようだ。鮮やかなそれぞれのイメージカラー(?)の光線を周りにぶちまけながら、「メカ」たちは、謎の力により膨張し、その体躯を巨大化させていく。


「!!」


 そして次の瞬間、がぱりと開いたそれぞれの乗機の背中部分に吸い込まれるようにして、その内部へと誘われた僕ら。中はやっぱり、メカメカしい「操縦席」だったわけで。


 搭乗完了。やはり巨大化した敵に対しての手段と言えば、決まっている。


「がっ………たいっ!!」


 あえてのフレーズを力強く叫ぶ僕。合体は男の浪漫。変な意味じゃなくて。



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