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▲6二犬(いぬ)


 現れては飛び掛かってくる金・銀・黒の「駒」たちを、逐一丁寧に薙ぎ払っていく。


 腕を大して狙いもせずに振り回しつつ、キリないだろ、と思っていた僕だったが、徐々に、その密度のようなものが緩んできたように感じた。無限ではない。そのことが分かっただけでも上出来だ。身体はまだ動く。「ギプス」を外してからこっち、溜まりに溜まった曰く言い難い奔流のような力が、体表面を二重にも三重にも覆っているかのように、漲って感じる。


「勝負しろっ!! 先女郷サキオナゴウぉぉぉぉぅっ!!」


 自然と腹から出た声は、時の九冠を呼び捨てだったけど、もうそんな事は関係ないんだ。


 ……関係ねえんだぞぉぉぉぉおおおおっっ!!


 跨っていた「獅鷹しおう」から軽やかに跳躍した僕は、宙に自然な感じで浮かんだままの目指す和服姿の男に、さらなる上空から襲い掛かっていく。


「『勝負』……勝負ね。いいだろう」


 先女郷は相変わらずの余裕面を取り戻していたが、この必殺の間合いっ!! 全人類に成り代わりっ、貴様を討つぞぉぉぁぁぁぁぁああああああっ!!


「!?」


 と、気合いをぶん回し気味で突っ込んでいった僕だったが、目標の細身の身体が、金銀に煌く何かに包まれていくのを狭まる視界の中、感知していた。


「わかりやすく『力』を顕現してやろう。そのための『巨大化』だ。たぶんに恣意的ではあるけどね。私はこういったわかりやすいものが好きでねぇ」


 何だ? こいつの物言いが変わった? いやそれよりも「巨大化」? 瞬間、わざとらしい笑みを張り付かせたその眼鏡面さえも、まばゆい何かに覆われていき、見えなくなる。振り下ろしていった渾身の拳も呆気なく弾かれてしまった。硬いっ……!! 空中で何とか体勢を立て直した僕の元に、「獅鷹」が再びその背中を差し出してくれ、何とか落下は免れたものの、


<ハハハハハハハハハっ!!>


 瞬く間に、おそらくは粉砕したはずの「駒」たちの破片が、先女郷のもとに集積していき、その身体を包み、肥大化させていくのをただ見ることしか出来なかった。


 でかい。そんな間抜けな感想が頭に浮かんでしまうほどに馬鹿でかいシルエットとなった先女郷。目測で全長50mはあるんじゃないかくらいの、動く物としては異常さを感じさせるほどの巨大さだ。その姿はもはや人間然としたそれではなく、腕が地表につきそうなくらいに長い、かろうじて二足歩行のような化物じみたフォルムへと変貌を遂げている。


<もっと、静かに、隠密裏に……ことを運びたかったんだけどねえ。『気付いた時には詰んでいた』。そんな局面を目指していたりもしたんだが>


 饒舌になってきやがった。ヒトならざる物の姿になった先女郷は、その「化物」の首あたりから、上半身だけを突き出すようなかたちで、周りを囲んでいる僕たちや、人々の悲鳴や怒号が沸き起こるようになった地表を見下ろしている。


 待て。「化物」の体表に何か……蠢く何かが見て取れた。


「!!」


 人の顔。が、いくつも。見たことのあるような「取り込まれ方」ではあったものの、実際に対峙してみると、そのおぞましさはこちらの動きを止めるほどだ。老若男女は問わないようだったが、それらの表情は一律、苦悶。


 ……野郎。今までの「犠牲者」たちを、その血肉にしていやがる。


 僕は、滅多に発火することのない湿った心の奥底に、じくじくとした熱が広がるのを感じている。


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