▲5九四天王(してんのう)
現れた「亀裂」を難なく通過した、先女郷の飛翔は止まらないようだ。
「奴は……奴の目的は……?」
横からはミロカさんの絞り出すような声。ようやく奴を「敵」と認識してくれたようだ。だが、その声は冴えない。それでも自らの「乗機」―鳳凰を軽やかに駆ると、意を決したかのように、上空の「亀裂」向けて速度を上げて上昇する。
「言うてたやん、『日本侵略』て。ま、させへんけ↑どぉ↓」
グリーン反車、フウカさんはいつも通りの、いい感じに力抜けた調子でそう言いつつも、動きはかなりの急制動で、跨った「鯨」共々、宙を力強く(双球を弾ませつつ)推進していった。
彼女らの後を追い、残った僕らも各々跳躍をかまし、亀裂より「外」へ飛び出していく。
「……!!」
明るさに目が慣れるのに数秒、現れたのはやはり、入って来た時と同じ、昼日中の新宿駅南口周辺の光景だったわけで。
既に一般の方々の避難は始まっててくれたようだ。制服の警官たちが、手に手にスマホを掲げている人たちを、押しやるようにしてこの場から遠ざけようとしてくれているのが眼下に望めた。そう、眼下。
僕らはと言えば、いつの間にか、宙に浮いていることが出来るようになっている。自然と「出来る」と考えれば、何でも出来てしまいそうな、そんな謎の万能感の中に僕らはいるみたいだ。
「オマジュネイション」……何をオマージュしているかは定かではないが、とにかく、この奇想天外な力を……使わない手は無いし、使わなくては到底覚束ない相手でもありそうだ。ならば、存分にそれを解放するまで……っ!!
「……っらぁぁぁあっ!!」
と、唐突に、スカーレット鳳凰:ミロカさんのテンション入った裂帛の胴間声が開けた空間に響き渡った。その残響を置き去りにして、空気を、空間を切り裂くようなスピードで、20mほど先に浮いている先女郷の元へ吹っ飛ぶように、その真紅のシルエットは突っ込んでいく。
「……」
騎乗する鳳凰と共に、その雄々しく深紅に燃える両翼をはためかせながら、その構えた両手からいつの間にか顕現していた揺らめく「炎の剣」を上段に、目指す「敵」に最短距離でっ……!! 踏み込み速度が尋常じゃない。これは……決まった!!
「……!!」
しかし、上下真一文字の軌道を描いた剣撃は、先女郷の身体には届かなかった。SPよろしくその刃の前に我先へと飛び出して身を挺して受け止めたのは、人間サイズの「金」と「銀」。でかいのを見慣れていた僕には随分とちんまり映ったが、その五角形のボディは先輩と同じく、黄金の輝きを放っていた。鳳凰の最速の一撃はあえなくそれら頑強なボディに弾かれ、ミロカさんは空中でバランスを崩すと、たたらを踏んでしまう。
「モリアーゲミスト」とか言ってたな……最上位の「駒」が突然現れやがった。周囲に視線を飛ばすと、それだけでは無く、黒色と銀色の駒も大小さまざまに「亀裂」から這い出しては、先女郷の周りにミレニアムばりの堅牢囲いを作るかのごとく宙を泳ぐようにして集まってきている。その数は100や200じゃあ利かなさそうだ。