▲5一奔鷲(ほんじゅう)
「敵」の第一波は、難なく退けた……が、事はそう簡単では無かった。
「わ……沸いて出てきてへん? 20がとこはもう殺ってるはずやん!」
珍しく、フウカさんの慌て切羽詰まった感のある声が響き渡る。巨大化しているとは言え、最弱の「ホリゴマンダー」。群れと化しても我々が遅れを取ることなど無い、はずだったが……
「もう今までの『定跡』は通用しない……そう思った方がいいね」
後方でいいことを言った風の波浪田先輩だったが、いやそんな余裕かましている暇は無いだろ! そもそも貴方は一匹も倒してないですよね?
「ルールも問答も無用と……思った方がいいな。もとよりこちらはそのつもりだが」
ミロカさんが落ち着いているのが救いだ。本局は「銀の武装化鋼」とやらを発動させ、長尺の「鎌」のような形態に変化した敵の「銀将」の一匹を軽々とぶん回し、リーチの差を埋めている。その的確かつ変幻自在な弧を描く湾曲した刃に、今も一匹、また一匹と、二次元人たちは呆気なく斬られていってるけど。
それでも。それでも、向こうの「沸く」スピードは無尽蔵だ。
目の前でお仲間たちが斬られ、砕かれ、喰われているにも関わらず、その横一列の行進のような歩みは規則正しく、とどまることを知らない。僕らがこの場に降り立った時には三段目くらいにいた敵の最前列は、今や半分を越えようとしている。
「数に物を言わせてくるなんて……でも当たり前にその可能性だってあったはず……!! 迂闊……っ!!」
後方で的確に「指し手」の指示を飛ばしてくれていた沖島も、流石に思考に乱れが見え始めた。思わず口走ってしまったその感情の吐露具合に、尋常じゃない事態に追い込まれていることを僕は悟る。
「!!」
悟ってる場合じゃない。長尺得物を振り回していた最前線のミロカさんだったが、疲れからか、振り下ろした瞬間、ほんのわずかだが隙が出来てしまったようだ。すかさずそこを狙って「桂馬」が一撃を入れてこようとしているのが、視界に一瞬入った。
「くっ……!!」
ミロカさんも最小限の動きで態勢を立て直そうとするも、右脇腹への「桂馬」の攻撃の方がどう見ても速いっ……!! くそ、間に合えぇぇぇ!!
「……」
次の瞬間、僕の「獅子」能力が発動する。その場に居ながらにして離れた敵を撃つ……「居食い」。この攻撃は……感知できまいっ!!
「……!!」
「桂馬」に見えない一撃を入れてその場に叩きつけた僕は、今度はミロカさんの華奢な体を抱いて再び元の場所へと戻る。瞬間移動……そうとしか見えないはず。
「と……金」
ミロカさんも驚愕で言葉も出ないようだ。仮面の下でさわやかな笑顔をかましてみるも、まあ見えないから意味はないか。と、
「……いつまで触ってんのよ!」
やはり古文書通りのツンが……炸裂すると思ってはいた。思ってはいたが、抱きかかえた腕の中から放たれた最短距離で迫る鋭い掌底は避けられない。ぺんとはうす、みたいな呻き声を上げて上を向かされた僕の腕からするりと抜けて、ミロカさんは何事も無かったかのように今度は今しがた盤面に這わされた「桂馬」をサーフボード状に変形させて、空中をうおおと滑空し、敵に体当たりをかましにいっている。
……こちらのツン力もなかなかに無尽蔵そうで。いや遅れを取ったらあかんって。僕も慌てて前線へと舞い戻る。