△3八飛鷲(ひじゅう)
「ダイショウギチェンジ!!」
計3名の声が重なった。僕とミロカさんと……そして沖島。
いや沖島て……っ、何で沖島が……っ!? いちばんあり得ないだろ……
沈着冷静。どんな圧勝局面でも、詰めろレベルの苦境に追い込まれても、いつも変わらない伸びやかな手つきと指し回しで、軽やかに盤面を制してしまう……そんな沖島が……っ
「……『ショッキング=ピンク盲虎』ちゃんなのだっ!!」
全・毛穴が浮き上がりそうになるほどのその高いアニメ声で、何か垢抜けないポーズを取っているよ……怖いよ……
おっしゃる通りの目に来る鮮やかな桃色のスーツは、周りの風景からも、この現実世界からも浮き上がって見える。お馴染みの「黒いパーツ」は顔面を、ゴーグルの上を覆っているけど。これじゃ見えないんじゃないか?
瞬間、今回はゼラチン質の板に、頭から貫通するように突っ込んでいくような感覚が来て、僕らの体はふわりとまた、宇宙空間のような重力を感じない世界へと引き込まれていった。辺りにはまた、真っ暗な中に星々を散りばめたような、まさしくの「宇宙」的スペースが展開していく。そんな中、
「ん『ゴールド金飛車』、ッハァっ!!」
漂う上空で、「先輩」がキメのポーズを取ったものの、周りの反応はゼロに限りなく近いほどに薄い。こちらもおっしゃる通りのメタリックな質感の「ゴールド」。「黒パーツ」は……無い。全身ゴールド。その色味は渋くていい。が、先ほどの沖島ショックに喰われた感じで特筆すべきことは無いまま、ノーリアクトで局面は進んでいく。
「……スカーレット鳳凰」
レーザービームのような縦横に走る光で区切られた「九×九」の盤面に音もなく舞い降りたミロカさんは、一対の黒い翼を展開した、いつぞや(昨日か、もはや懐かしい)の凛々しくも華麗なる赤き戦士の姿へ変貌を遂げている。
「四人揃ってッ!! ……摩訶大戦隊、『ダイショウギレンジャー』ッ!!」
「着地」を感じた瞬間、僕もキメを放つ。今回も僕の初期配置は「8八」の本来なら「角」がいるところだ。そこから一マス飛ばしに右に、沖島、先輩、ミロカさんと並ぶ。一列に並んでの見栄切りは、何だろう古典をなぞっているかのようで何故か奥ゆかしく、誇らしくも感じるのであった。
……感じている場合じゃあない。本局こそ活躍。それが僕のマスト。
今回僕らの他に引き込まれたのは、5名。僕らのひとつ後ろの段に、「銀金玉金銀」と並んでいる。リーマン・学生・ばあちゃん・学生・リーマンの順に規則正しく並んでいて、例外なくそれらの顔は一様に驚愕でこわばっているものの、僕らの突拍子もない姿も、それに一役買っていると言っても過言ではないかも知れない。
ともかく、僕らの「後ろ」にいるということは重要だ。我々が前へ前へ出ていき盤面を制圧すれば、誰にも恐ろしい体験をさせずに、この対局を終わらせることが可能なはず……。
一般の人を守る。それが僕の考えるヒーローの基本原理だと、思うから。
……やってやるぞ。これを「レッド獅子」の初陣と改竄出来うるほどの活躍を見せてやるっ!!