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△3六角鷹(かくおう)


 この場から全てを振り切って走り去る事、それは容易に出来たことかも知れなかったが、後々が恐ろしすぎるので、僕は精一杯の作り笑顔で、目の前に現れた美麗少女と相対する。


 あ、あれミロカさんもこの駅使ってたんですね、いやー今の今までまったく気づきませんでしたわー、みたいな取り敢えずの間を持たそうと放たれた僕の言葉に、え、た、たまたまよっ! こんな寂れた駅! 私、家は白金なんだからねっ、と慌てて過剰な情報を含ませて返してくる少女だけれど、ああー、じゃあこれ待ち伏せされてたな……そして何故僕の最寄り駅を知ってんの? そしてもしかして先ほど確認していた携帯には、僕の居所をサーチできるGPS的なアプリが搭載されているのではないだろうか? などなど、様々な不穏な考えが去来してしまう。


 その時だった。


 ミロカちゃんおはよー、と、僕の左隣にいた沖島が、気さくな感じで、僕の右隣にいたミロカさんに小さく手を振りつつ挨拶をしたのである。


 「日常」と「非日常」の接触。


 「現実」と「異世界」の邂逅。……それらは得てして、何気ない瞬間に、起こる。


「……ミユおはよ。今日対局じゃないんだ」


 ミロカさんも急激に日常へと引き戻されたかのような、通常にほど近いテンションでそれに返すけれど。


 あっれ~、ふたりは知り合い? 自分を中心として放射線状に広がっていたと思い込んでいた人間関係が、周囲で円周を描くかのようにつながっていた時に感じるちょっとした疎外感を受けながら、僕は何とか今朝はミロカさん発の厄介事からはスルー出来た、と少しほっとしかけた。


 それがいけなかった。


「おお~い、ミ~ロカく~ん、何だってまた今日はこんなところに寄ったんだ~い?」


 唐突に間延びした声が掛けられる。どっちの峰に転がるか揺蕩っていた「主導権」という名の玉が、急速に「非日常」へと傾きかけていきそう、そんな僕の最近特によく当たる直感が、どんぴた嵌まってしまいそうだ。


「……波浪田ハロダ『センパイ』」


 抑揚の無い声で一応、その人物を呼んだのか、単に固有名詞を口に出したのかは分からないが、感情を押し殺している無感情では無く、元から感情が皆無な無感情、といった真顔でミロカさんは一瞥を寄越している。


「ああ~、ミユくんじゃな~い。今日は対局じゃあないんだねぇ~、よし! じゃあ三人で仲良く通学と洒落こもうじゃないかあ」


 よく自分が嫌にならないな、と思わせるほどのひと昔前の爽やか青年感を全面に押し出している謎の青年……その白っぽい金色の長髪の「波浪田」と呼ばれたヒトは、顔はかなり整ってるし整えてるんだろうな的なわかりやすいイケメン感を醸しているものの、性欲を軽薄でくるんだかのような、何にも刺さりそうもない言葉は、ふわふわと空中に紡ぎ浮かばせているだけだけど。


 僕の学校の詰襟制服を羽織っている。骨格が遠目にもよく分かりそうなほどガリガリだが、これまた結構上背はある。こんなんいたっけ。と、


「は、波浪田四段、昨日の対局はお見事でした……終盤の3六角打、あんなのAIにも指せないです……」


 お、沖島っ!? 僕には見せたこともないような赤面はにかみを、軽薄長髪に向けている……っ? 


 日常と非日常がふんわりシェイクされていくような何とも言えない浮遊感の中、皆の衆……この混沌は更なる混沌を招くであろう、フェッフェッフェ、という確度の高そうな「予言」の言葉が脳裏に浮かんでは消えない僕がいる。


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