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▲3三飛鹿(ひろく)


 結局、諸々あったが、ひとまず解放された。


 外は流石に暗闇が覆っている。午後8時。千駄ヶ谷駅までの新緑薫る通りを、早くも襲ってきた全身の筋肉痛に若干の心地よさを感じつつ、ひとり歩く。


 いろいろあった一日だった。


 勧誘されて恫喝されて驚愕されて変身させられて戦わされて面罵されて昏倒させられて告白コクられた。


 今までの平凡だった日常を覆す諸々が、ここ何時間かで起こった。僕は学生服の内ポケットに指を差し込む。指の腹に固い感触。やはり夢ではない。


 確かにある。大いなる災厄に立ち向かい、人々を清浄で正常な世界に導く、だっけ?


 ダイショウギレンジャー。正義、と言い切るには自信ない部分もあるけれど、うん、でも「正義」だ。己にとっての義。それはある意味「正義」と言うのではないだろうか。


 僕は選ばれたそうだ。雄々しき「獅子」に。だが次は僕が選ばなければならない。


 ……別に無理強いはせんよ。それに必要以上の拘束も。今日び、そんな熱血は流行らん。皆、体を鍛えに此処に集まり、出動がかかれば出る。お互いも必要以上に干渉しない。それが昨今のあり方なんだよ……


 カシキ「博士」がそう少し寂しげに言っていたことを思い出す。


 ……まあ、「干渉」に関しては、何とも言えないけど。と言うかあの老人、微妙に皆からハブられてない?


少々の同情感に包まれる僕の尻のあたりが振動する。ポシェットからタブレットを取り出すと、「禿頭トクト 三郎花ミロカからメッセージです」の文字が。


 漢字で書くとえらい名前のその人と、別れ際アドレスを交換したのであった。あ、明日きちんと返事しなさいよっ、との言葉に、僕は嬉しさが無論、満ち満ちているものの、言葉で説明できない、もやもや感も混ざり合っているといったような、何とも言えない気分でいる。


 何だろう、追加のお叱りかな? と内心びくつきながらメッセージを開くとそこには、


<アリガトウ。戦ッテクレテ。引ッパタイテクレテ>


 あれ~? 一世紀前の携帯から送ってるのかなこれ? みたいなカタカナが羅列されていたけど、もうそれが彼女特有の照れ隠しなんだろうことは、わかってしまう。


 わかってしまうんだ。だから。


「うおおおおおおおおおおおっ」


 もう一度、腹からの叫びというやつをかましてみる。道行く人がちら見しつつ早足になって離れていくけど。そこかしこにある監視カメラがキュイイと僕にフォーカスを絞ってくるけど。


 もやもやしている場合じゃない。人生に一発穴を開けてやるんだ。世間に反発するようにずっと、ずっと体を鍛え抜いていたのは何のためだ?


 正義のヒーローとなるためだっ!!


 ……多分。


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