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△2五奔猪(ほんちょ)


 僕の体が赤い光に包まれたと思った瞬間、何か得体の知れない、硬いゼラチンの板みたいなものが、自分の胸を貫いたような、奇妙な感触を知覚する。


 目の前が暗転して、青白いレーザービームのような細い光が縦横に走っていった。それらは正確に直角に交わると、見慣れた「九×九」の枡目、盤面を形成していく。


 先ほどから言われていたように、その大きさは多分「38メートル×35メートル」の長方形なのだろう。ワイヤーのように張られた光の線で形作られた「将棋盤」が、空中に浮遊している僕らの足元に出来上がる。


 周囲は、宇宙空間に大小さまざまな星を散らしたかのような、まるで宇宙だ。


 僕の脳がいい感じにキマって、こんな現実離れした像を脳内に結んでいるのか、それともやはりこれは「現実」なのか、僕の一コ手前の頭では理解することは出来なかった。


「……やるやん」


 僕の左前方で浮いていたフウカさんが、そう白い歯を見せる。


 周囲を見渡すと、その何もないが故に「黒い」空間に、僕ら3人の他には、先ほど僕の身柄を確保しようとしていた制服組の方たち4名が、驚愕の表情で浮いているだけだった。良かった、子供たちを巻き込むことが無くて。


 フウカさんの奥面には、腕組みをしたまま漂う、全身から怒気を発せられているミロカさんがこちらを物凄い眼力で射抜こうとしているけれど。


 少し、強くはたき過ぎただろうか。美麗な顔の左頬が少し赤くなっているのを視認し、この「対局」が無事に終わっても無事では済まされないだろうな的、諦観が僕を襲う。


 だが、それならば。


 ここは一発、全力でやらせてもらう。ここ一番の、全力で。


「……ダイショウギレンジャー……レッド獅子っ!!」


 空中で雄叫び一発、不安定な体勢でキメポーズを取ってみる。全身を包む赤いスーツに、胴部には黒い金属質の「防弾ベスト」のようなアーマー。やはりこれを装着するとテンションが二割は増す。


「……後で話がある。こんなザコ戦は最短手数で詰ますわよ」


 戦意あるいは殺意がどうも僕側の方に向けられていそうなミロカさんが、黒い印籠サイズの将棋駒こと、「ダイショウギ×チェンジャー」を胸の前に翳す。そこ刻まれた文字は「鳳凰」。


「……ダイショウギチェンジ」


 憤怒、恥辱、あと何か、を鋼の意志で自分の中に押し込めているようなそんな張りつめた声でミロカさんが言い放つと共に、そのしなやかな体は赤色の光に包まれる。


 虚空に現れた光る赤い粒子が、ミロカさんに向け集約していく。きらめき、まばゆい光線を周囲に放ちながら。そして集約した一点で、爆発的に拡散する……僕の時と演出だいぶ違―う。


 光が収まった中心に現れたその姿は、しなやかなシルエットはそのままで、僕と同じようなスーツを体にフィットさせた、勇ましくも神々しい姿であった。


 ただ、背中からはそれこそ鳳凰が如くの黒い「翼」が大迫力で展開しており、右手にはベレッタM92のような自動拳銃然としたフォルムのを、左手にはS&W M686のようなリボルバー然としたフォルムの「銃器」を携えていたりして、えー、装備にも差があるー。


「……スカーレット鳳凰」


 すっ、と余分な力が入ってなさそうなその素立ちにも見える構えには、まるで隙が無い。このヒト相当強いよな……と感心する一方で、え? 色被ってない? との妙な不安も脳裡に去来しつつあるが、


「……あんま気張り過ぎると、周り見えんくなるで。大事なのは『大局観』。平常心やで新人くん」


 そんな僕の硬直を見て取ったか、フウカさんが軽やかな声を掛けてくれる。そして気負いの無さそうな声で、ダイショウギチェンジぃ、と言い放つと、その肉感的かつ流麗な肢体は透き通って光沢のある、エメラルドのような色の輝きに包まれる。


「……グリーン反車へんしゃぁっ」


 一瞬後現れたのは、全身にフィットした緑色のスーツによって、隠された分だけ逆になまめかしいシルエットの、「戦士」だった。両手の指先、両足の爪先が、黒い金属質のもので覆われている。


 陸上競技のクラウチングスタートのような格好から顔を持ち上げ、その存在感を放つ双球をさらに強調させた、獲物に飛び掛かる前の女豹のようなポーズでキメている。


 ああー、足速そう、とのおざなりな感想を思い浮かべるだけの僕だったが、畳みかけるようにまた赤、みたいなパターンじゃなくて本当に良かった、そしてちゃんと基本に則った三原色で良かった、との安堵がどうしても先に立ってしまっているのでそこはしょうがない。


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