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▲2四横行(おうぎょう)


「こ、子供たちがいますっ!!」


 僕は池の方角を指さし、二人の美麗少女に注意を促す。しかし、


「ああ……頭数としては充分だ。囮か陽動には使える」


 予想外に飛んで来たのは、ミロカさんのそんな冷徹な声だった。え? 言葉遣いも何か軍人のような厳しく重いものに変わっているが。


 ふ、フウカさんっ、と競泳水着少女に向き直り、僕は抗議するようにそう告げるものの、


「あ、まあーしゃあないちゃうん? 『対局』に勝ちさえすれば相手の持ち駒になった『人質』も返ってくることやし、『八枚落ち』とかでやるよりもええやろ?」


 そんな……馬鹿な。まだちっちゃい、幼子ですよ?


 僕の脳裏に、嘉敷博士に見せられた端末の画面の中で、胸を鉄骨のような『腕』で貫かれていた女子高生の姿が甦る。


「そんなことより、そろそろ『変身』しておけ。『SGフィールド』に引きずり込まれてからでは余分な『一手』がかかってしまうからな」


 言いつつ腰に巻いていたポシェットバッグらしき所から、黒い金属的な質感の手の平サイズの「将棋駒」を取り出すミロカさんだけど。だけど。


「ま、待ってくださいっ!! あの子らを避難させましょうっ!! 巻き込んじゃあ駄目だ!!」


 何とかして、この場から離すんだ! あんな危険で怖い目に、わざわざ合わせる必要はないっ。そう必死で言い募る僕だったが、その刹那、左脇腹に鈍痛が走る。


「……変身しろと言った。現場では私が指令を出す。それには迅速に正確に従ってもらうぞ」


 ミロカさんの右爪先が僕の脇腹にめり込んでいた。素立ちからよくそんな重い蹴りが出せるな。そしてまたその実験動物を見る目かよ。でも意味合いが、さっき僕に向けられていた時とは全然違う。


 ……全然違うぞっ。


「!!」


 次の瞬間、僕の右掌は、ミロカさんの美しく整った顔をはたいて、振り抜いていた。わーおー、みたいな声をその横のフウカさんが上げるものの、もうこの美麗少女たちに好かれること、それは諦めた。それよりも、


「『八枚落ち』だろうが何だろうが、そんなこと関係ないっ!! それよりも……それよりもっ!! いたいけな子供たちを盾にするような真似をしようとする者をっ!!」


 時間が無い。僕は自らの上着の襟ぐりを引っ張って頭頂部に引っかけながら池の方向へと走り始める。


「……僕は断じて『ヒーロー』とは呼ばないっっっっ!!」


 何あれ、と僕に気付いて指差してくる幼稚園児たちの姿が迫ってくるや、僕は白目を剥いて気味の悪いしゃくれ顔にシフトしながら、走り方もガニ股で前に垂らした腕を左右に小刻みに振るといった、得体のしれない化物に変容していく。


「……チョ~ォキョっキョっキョキョっ、ワレはヒトの悪手ヨリ生マレシっ、『指した瞬間ケツが座布団から5センチは浮くゲルゲ』ナルゾォォォォォォォォォォっ」


 そのまま園児の群れに突っ込むと、指していた将棋盤をひっくり返したり、逃げ遅れた子の脇をくすぐったりして狼藉の限りを尽くす。


 ぎゃあああダメ妖怪だぁぁぁっと意外に楽しそうに逃げ出す子供もいれば、本気でおびえてマジ走りで加速する子供、何あれキモ、と冷めた目で距離を取る女子もいるが、この場から、この子たちを遠ざけることが出来るのなら。


「!!」


 芝生の上を逃げ惑う園児たちと引率の先生ふたり。……片方の描写は省くが、もう一方の先生は怯えて振り返った顔がまたしても僕の脈動を揺さぶったわけで。


「チョ~ォッキョッキョッキョ、キョ? KYOOOOOOOOOOOOOOOOOOOM!!」


 どさくさ紛れで女体に触れられないかな、と襲う振りをして本当に襲い掛かってみる。そんな既に身も心もゲルゲ化していた僕に、いきなり浴びせかけられる強烈な衝撃。意図せぬ叫びが僕の喉奥からいい天気の上空に向け、放たれていった。


 ああー、そうか、いまやスタンガンって結構配備されてるって聞くよね……不審者から子供たちを守るためには最早必須だもんね……でも僕は金属のギプスを体に巻き付けるように常に装着しているから、人一倍電流が全身を貫くんだよね……はがねにでんきはらめぇぇぇぇぇっ!


「……」


 薄れゆく意識を何とか引き戻そうと、両まぶたを必死でひくつかせてみるも、それが随意なのか不随意なのかはもう分からなかった。膝にも来た衝撃に、芝生の上にどうと倒れ込んでしまう僕。


 でも倒れている場合じゃない。遠目からは騒ぎをいち早く察知した警察官らしき人たちが、園児・先生たちと入れ代わるように、一直線にこちらに向かって来ているのが見て取れた。まずい、ヒーローが獄中にいたら二次元人倒せない。


「……!!」


 先ほど「イド出現」と告げられた場所まで、芝生の上をずり這いで何とか戻ろうとする僕。その低い視線の先にはフウカさんミロカさんの姿があるけれど、二人とも呆気に取られた風の顔でこちらを見ている。そんな僕を取り囲む影。


「そこのキミっ、動かないで!! 腕を頭の後ろで組むんだッ」


 威嚇する言葉が僕の頭上で発せられる。


 ままならない首を捻って確認すると、老若男女、四人の警察官に四方を囲まれてしまっていた。めいめいその手に警棒が構えられているけど、これもでんきタイプだよね……撃ち込まれたら今度こそ気ぃ失うわ。


 だが。……現役の方たちなら。

……かえって心強いと言えなくもない。


「ミロカさんっ……『イド』は……あと何秒?」


 震える声を振り絞って、そう訊く。はっと我に返ったようなミロカさんは、左手首に目をやった。


「……あと2秒」


「……『ダイショウギチェンジ』っ!!」


 懐から五角形の金属駒を既に抜いていた僕は、抵抗しないで後ろ手に組みますよと見せかけて、その駒を後頭部に乗せるように掲げると、力の限り叫ぶのであった。


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