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反撃と群れ運営


「…なんで私が…」


「そう言うな、イクザが決めたんだ。リーダーには従わないとな」


「お兄ちゃんが木ノ下に負けるからでしょ!もう!」


「嫌ならイクザに木ノ下で勝ちな。そうなりゃ、()()()()()()?」


「……もう!もう!完全に毒されてる!お兄ちゃんのバカ!」


 不満げなツキに、モチが宥めながらも新しい考え方にいち早く順応していた。


「そろそろ、無駄口を叩くのをやめろ。それにツキ、勝負はいつでも受けるぞ」


「うぐっ!?ぬぅぅぅ!」


「ほら、静かにしろ」


  口を膨らませて不満を表すのを兄のモチが頬を突いて萎ます。


「いいか、俺らの戦いが他のコボルトに希望を抱かせるか絶望を抱かせるかが決まる。教えたとおりにやれよ。()()()()()()()()()()()()()()()()()


 モチもツキも、キミテも里の中でトップクラスの才能を持っている者達だ。イクザが持つ戦闘技術を少し教えるだけで、すぐに己のものにした。あくまで、基礎だけで後は自己流だが。


()()()()()()()()()()()()()()()()()()


「行くぞ」


 目の前にいるのはコブリン10体。数は倍以上の群れだ。勿論、これが群れの全てではなく別れて行動している一部なのだろうが。


 この戦いを、遠くで見守っているコボルト達がいる。ただ、勝つだけではダメだ。圧勝して見せるのだ。臆病が過ぎるコボルトにはそれが丁度いい。


「最初は俺が二体を潰す。後は全部お前らがやれ」


 そう言って飛び出すイクザ。最初の一体は奇襲のような形になり、難なくその拳を顔面に当てる事が出来た。一撃で、顔が陥没し絶命したのが分かる。


「フンッ!」


 さらにその隣にいたコブリンの頭を蹴り抜く。これも、首が変な方向に曲がり倒れた。まさに瞬殺。この2体は自分を殺したものの顔すら見れなかった。


「いやぁぁあ!」


  最初に出てきたのは、悲鳴に近いような声を上げてコブリンに攻撃をするキミテ。泣きそうな顔の割に、その効果はえげつない。その体当たりはコブリンを大きく吹き飛ばし、蹴りは骨を陥没させた。


「イクザぁ!怖い!」


「大丈夫だ。コブリンはお前が怖い」


 的外れの慰めは真実であった。馬鹿げた威力を誇る蹴りを放つ存在のキミテをまるでバケモノを見るような目で見るコブリン達。


「くぅ…怖ぇ!だが!」


「お、お兄ちゃん!離れないでね…ってぇ!まってよ!」


 次はモチとツキが冷や汗を流しながら出てくる。若干モチの方が好戦的な性格をしていたようで、吼えながらコブリンに飛びかかる。


「グラァ!」


 モチは大柄な身体を持っている。その膂力も当然強く、イクザを見習って右ストレートをコブリンに放ち一撃で沈めた。


「…この!」


 その隣にいたコブリンはモチを棍棒で殴りつけて反撃にでる。それを手で受け止めるモチ。


「い…ってぇ。でも、こんなもんか」


 棍棒を強く握りゴブリンから取り上げる。逆手に取った棍棒を振り上げて、コブリンに打ち付ける。コブリンよりも強い力を持つモチの一撃は確かな威力をコブリンに伝え、沈める。


「…やれるじゃねぇか…俺は!」


 顔がニヤけるのを止められない。奪った棍棒を持ち変えて、次のコブリンに目を向ける。


「もう!もう!やってやるわよ!このぉ!」


 涙目のツキも覚悟が決まったのか、残りのコブリンに飛びかかる。ツキのいい所は、その思い切りの良さだ。敵に向かって走り、飛ぶ。


「ぬらぁぁ!」


 これぞ、ライダーキック。そう言いたくなるような綺麗な蹴りが決まる。それは、一番えげつない威力をコブリンに伝えてその身体が浮き後ろのコブリンも巻き込み吹き飛ばされる。


「どうだこのやろぉ!」


 蹴った反動を利用し、地面に綺麗に着地するツキ。強気な瞳は潤みながらも、確かにコブリンを睨みつけていた。


「な、なんなんだ!コボルトが…どうして!」


「それをお前が知る必要は…無い」


 そう言って首をクイッと生き残ったコブリンに向ける。殺れという合図だ。


「はいよ、新リーダー」


 棍棒を持つモチが最後のコブリンを殺し。コボルトの最初の戦闘を終わらせたのだった。









 そこから1月が経つ。あの戦いを見ていたコボルト達は正式にイクザを群れのリーダーと認めて、その方針に従った。


 若いコボルトしかいないというのも助けになった、比較的に好戦的な者が多く乗り気な者も少なくない。それにより戦闘技術の伝授に、それぞれがコブリンとの初戦闘を乗り越えてその身体能力を大きく向上させていた。しかも、1人も欠けることなく。


「ついに、この時が来た」


 そして、今日。コボルト達の悲願が叶う日になる。最初にイクザがリーダーに就任し演説をした日に立った岩の上に再度立ち、喋り始める。


「コブリンに汚された里、殺された仲間、潰された面目。その恨み、コブリンの命で払ってもらう!いくぞ!これより、奪われた里を取り返す!!」


「「「オォォォオオ!」」」


 イクザの言葉に吼えるコボルト達。その姿は、とても逃げるだけが能の魔物には見えなかった。







 森のコブリン全部が1枚岩では無い。数が多く、それぞれが長を持ちコブリン同士で争っていた。


 今回、里を襲ったコブリンはそのコブリン同士の争いに負けて西に逃げてきたコブリンの集団だ。その数は100近くいたがコボルトの反撃により、その数も半分以下になっていた。


 コブリン達は、まさかのコボルトの反撃に里を堅める事で対応した。これ以上数を減らす訳には行かないのだ。このゴブリン達も西にも東にも逃げ場がなく立て篭もることを選ばざるおえなかった。


 そしてそれは、進むことを選んだコボルト達の敵では無かった。


「進め。里は俺達の庭だ。敵を殲滅しろ!」


 いくら、里を堅めようと地の利はコボルトにある。抜け道など沢山あるのだ。キミテ、モチ、ツキ、イクザはそれぞれ5人ずつ率いて里のコブリンを駆逐していった。


「コボルトか!おのれぇ!逃げるだけが能のコボルトがよくも!」


 コボルトの元リーダーが使っていたねぐらから出てくる、ボスゴブリン。それには、歴戦の傷が見えて前にイクザが死闘を繰り広げたのと同じ匂いがした。


「…あれは俺がやる」


 残党コブリンに守られるボスゴブリン。それを狩るのは自分の仕事と駆ける。


 道中にいたコブリンの命を軽々と刈り取ってそのコブリンの目の前に到着する。


「残党は任せた」


「はいよ!」


「頑張ってね!イクザ!」


「せいぜい、死なないようにね」


 里の殆どのコブリンを駆逐し終えた仲間達が全員合流する。率いられる者達も欠員はいない。


「…貴様か…コボルトの群れ長は」


「そうだ。荷の重いことにな」


「…なら、貴様を殺せば奴らは逃げる訳だ!」


「試した事ないから分から無いな。多分逃げないと思うが」


「……なら、全員殺すまで」


 コブリンは覚悟を決めた。そんなことは、絶望的だと分かっているがそれでもそれをしないと生き延びれないのだから。


「…………コボルトにも、最初からその位の気概があればな…」


 イクザはもしかしたらコボルトよりも、コブリンの方が気質が近いかもしれない。


 そんな思いを抱きながら、戦いは始まった。


  棍棒を振り上げて、イクザに向かってくるコボルト。それを身動きせずに、待ち構える。


「フッ!」


 射程に入った瞬間、コブリンの顔を蹴り上げる。棍棒は空をきり、数歩後ろに下がる。イクザはさらに前に出てボディに右拳をめり込ませる。


「…ガァッ…」


  くの字に曲る身体、下がった顔は蹴るに適した位置にあった。


「ラァッ!」


 遠心力を利用し最高のタイミングで、コブリンの顔に蹴りを直撃させた。


 その衝撃に後ろに倒れるコブリン。その無防備な腹を踵で思いっきり踏み抜きそこを起点にして、さらに顔を蹴りあげた。


 イクザのあまりの容赦の無さに、生き残っているコブリンは恐怖する。もう、ボスゴブリンは死んだであろう。咎めるものはなく、残るは恐怖のコボルト。


  残党は一斉に逃げ出した。


「なるほどな。コブリンの心を折るにはこのくらいしなければならないのか。……おい!何をしている!速く追え!殲滅だ!誰1人逃すな」


 イクザの容赦の無い攻撃に、仲間のコボルトもその手を止めて顔を青ざめさせる。そのコボルト達を一喝し、追うように指示を出してイクザの里奪還の仕事は終わったのだった。









  里は取り返した。そして、大方の予想通りほかのコボルトは全て殺されておりその骨が大量に積まれていた所があったのだ。それに、手を合わせるイクザを見て他のコボルトも手を合わせだし、死んだ者には手を合わせるという習慣が出来た。


 そして、半年が過ぎる。


 死んでいく命もあれば、また生まれる命もある。年若いコボルトは色々な意味で()()()()。そのおかげか、新しい仲間が20人も増えた。


 コボルトは1度に3から4匹を産む多産だ。それに妊娠期間も人よりも短く半年程、6ヶ月で生まれる。


 これにより暫くの間、何体かのコボルトが戦闘に参加できなくなる。周りのコブリンの群れを潰して回っていたイクザ達もその頻度を下げて、出かけることも少なくならざるおえなくなった。


 その代わりに、イクザが力を入れたのは生まれたてのコボルトの英才教育だ。どんな生物も幼い頃から刷り込み教育していくことによって、戦闘のエリートを生み出すつもりだ。


  その訓練にはイクザ自ら参加して、幼いコボルトに厳しく時に優しく教えていった。


「イクザ!今日はもう終わり?」


「あぁ、なんかようか?」


「もう!分かってる癖に!ほらほら!ねぐらに行こう!今すぐ!」


 顔が赤く、ハァハァと息の荒いキミテがジリジリと近寄ってくるり。そんなキミテを優しく己の胸に迎え入れて


「ふんっ!」


「うぎゃ!」


 キミテの首を軽く締めて意識を失わせる。最近より、この手の誘いが酷くなっている。


  むぎゅうーという声を出しながら気絶するキミテを、苦笑いをしながらモチが近寄ってくる。


「…今日もか。可哀想に、1度抱いてやればいいものを」


「なんだ?モチ、キミテに気があったんじゃないのか?」


「それはそうだが…流石に不憫でな」


 毎日イクザに迫り、拒否されているキミテ。それはモチも同情するほどだ。それに日に日に欲求が高まり、目が危なくなりつつあるのを見るとまた別の意味で心配になる。


「……別にキミテとの交尾が嫌な訳ではない。というより俺も雄だ。性的欲求は当然あるに決まっている」


「あれ?そうだったのか?」


 以外であった。戦いにしか興味の無い戦闘狂だと思っていたが、ちゃんとコボルト並の感情はあったようだ。しかし、それでは新たな疑問が出てくる。


「じゃあなんで拒否するんだ?」


「……いま里は大きく戦力が低下している状態にある。管理しなかった俺に責任の一旦はあるが…妊娠しているコボルトがまだ3体に子育てで手が離せないコボルトが5人。そんな、状態でキミテまで妊娠したら…」


  キミテは、モチとツキと並ぶコボルトの群れの最強の1人。それは各地のコブリンと敵対している今、戦えない状態にする訳にはいかないのだ。


「…なるほどな…。なら、そう言ってやればいいのに。キミテなら事情さえ話せば待つだろ」


「いや、変わらん。1度だけ、1度だけ!と言いながら迫ってくる確信がある」


「………………」


 その姿が容易に想像できて、反論が出来ないモチ。


「いや、それにしても不憫だ」


 イクザの役に立つべく毎日自己鍛錬を欠かさずにやり、コブリンとの戦闘も積極的に参加して実力を伸ばしているのだ。それが原因で交尾の機会を逃しているのだから、余計に。


 しかし、この状況は良いとはモチは思わない。イクザは今、群のボスなのだ。それが童貞なのはよろしく無い。せめて、モチだけでもその欲求を解消してもらおうと考えた。


「…そうだなぁ。イクザも性欲が溜まっているのだろ?なら、ツキはどうだ?アイツ最近お前の事を目でおっブベラッ!?」


「ハァハァ!お、お兄ちゃん!ちょっっと来て!い、イクザ、何でもないからね!勘違いしないで!」


「……あぁ…?」


 勘違いも何も、何が起こったのかすら分かっていない状態のイクザは空返事しか返せない。顔を真っ赤にして、兄であるモチの首根っこを引っ張り森の奥に消えてく。


「……仲の良いことだ」


「うぅ…イクザぁ…どこぉ…」


「………ここだよ」


 気絶してうなされるキミテを横に寝かせて、頭を撫でるイクザ。その顔は優しく、決してキミテが起きている時には見せない表情をしていたのだった。








 更に一年が過ぎる。成長した子コボルトが親から独立し、狩りに参加しようかという時。


「でかいな…」


 成長した、新しいコボルトの平均身長が高い。130位の平均を大きく越えて140近い者が多い。それでも、150cm近いモチには勝てないが。


 イクザがリーダーになってから、奪われる側から奪う側になった為に自分達が狩る獲物とは別にコブリンからも奪う分もあり、その食糧事情は大きく改善されたと言ってもいい。倍近くに増えたコボルト達を余裕で養えるだけの食糧があったのだ。


 そして。


「イクザ様!俺達はいつになったらゴブリン狩りに参加出来るのですか!」


「早く参加したいです!」


「身体が戦いたいと疼く…」


 イクザの英才教育のおかげか好戦的なコボルトが多数生まれた。その顔には、滲み出る自信がある。これらが、以前のコボルトを見ても信じないだろう。


 やはり子育ては血ではなく、環境が大きく分けると改めて納得するイクザ。氏より育ちというやつだ。


「やっ、やっぱり…私、怖い…」


 と、言ってもだ。どうしても苦手な者は出てくる。矯正しようとしても直らないものは、それはもう個性として受け入れる。それに群れの規模が大きくなれば戦闘員以外も多数必要になってくるのだ。


 この頃には、子育てをしていたコボルトが戦線に復帰し周りのコブリンの群れを更に速い勢いで潰していった。イクザは毎度それに参加するが、もうモチやツキ、キミテの方がイクザより強いかもしれない。戦闘経験は遥かに多いが、才能の差がそれを埋めていくのだ。


 しかしそれでもこの3体は下克上などしない。ここまで群れを大きくしたイクザの手腕に惚れ込んでいるし、忠誠に近い感情を持っていたからだ。


 やっと群れの運営が安定し軌道に乗ったといえよう。この時、ようやくイクザの許可を得て悲願を叶えたキミテ。嬉し泣きするキミテを見て複雑な気持ちのモチとツキ。最近本当にブツブツと独り言が多くなったキミテを見て、そろそろ危ういと思っていたので安心したが、好いている者が他のコボルトとくっつくのは少し悲しいものだ。


 少しして、おめでたが発覚して更にはしゃぐキミテに大人しくしろと本気で怒るイクザの姿が暫くの里の名物風景になるのであった。








 そんな時であった。里にコブリンの使者という者が現れたのは。


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