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One's Summer  作者: 新増レン
エピローグ
41/41

-40- 『ありふれた夏に誓う』


「もうそろそろ、か」

 懐かしい風景を車窓の外に見て、自然と笑みがこぼれた。

 夏だけど、夏休みではない。そして今度は、この町で住むことになる。

 町の役場に就職が決まっており、俺は、大好きな町を直接、建て直すことが出来る立場になった。

 夏が終わって、俺は九月から配属になるのだが、その辺はいいだろう。

「空が、高いな」

 この風景は壊れていなかった。

 パタリ。

 俺は一人、本を閉じた。


 駅のホームに降り立つと、あの日のような暑さが身体に刻まれる一方、夏なのに、この町はどこか涼しい。コンクリートが少ないからだろう。

 駅を出ると、誰もいなかった。

「まさか、また用事とか……」

 気になって携帯電話を取り出そうとした時、後ろから肩をつつかれる。

「……!」

 振り向くと、少しは大人びた幼馴染の姿があった。

「……菜有なゆ


「ふーくん、おかえり」

「ああ、ただいま」


「……ふーくんっ!」

 感極まったのか、菜有は飛びついてくる。

「よかった……! 忘れてなかった」

「あたりまえだ。神経衰弱の時に言っただろ。記憶は得意なんだよ」

「……ふーくんったら」

「もう、お前を待たせないよ」

「うん……っ!」

 太陽が、俺達を祝福してくれているようで、雲一つない晴天だった。




 ――そんな、ここに戻って来た時の事を、今更ながら思い出す。

「新婦、入場!」

 教会の扉が開かれて、華やかな音楽が響き渡る。

 俺の視線の先には、ウェディングドレスに身を包んだ菜有が、お父さんと一緒にゆっくりと歩き始める姿があった。

 ゆっくり。ゆっくりと。

 いま、彼女は何を思っているだろう。俺と同じように、あの、忘れてはいけない夏のことを思い出しているのかもしれない。

「ふーくん」

「……菜有」

 すぐそばまでやって来た菜有と、俺は正面を見た。

 正直、緊張で神父の言葉が耳に入らない。微かに、咲楽さくら達の視線も気になる。

「では、指輪を」

「は、はい」

 一度、こんな真似事をしたっけ。まさか、本当にこうなるとは。

 震える手で指輪を薬指に通すと、菜有も顔を赤くして俺の指に指輪を通した。

「新郎は、いついかなる時も新婦と助け合い、共に生きていくことを誓えますか?」

「はい、誓います」

「新婦も、誓えますか?」

「誓います」

「では、誓いの口づけを」

 改めて向かい合い、緊張してしまった。

 深呼吸、深呼吸。

「い、いくぞ」

「うん」

 菜有の肩を掴むと、彼女は目を閉じる。

 は、初めてじゃないんだ。経験数が少ないって二人に笑われたけど、ここは、気張れ。


『……ふーまくん、菜有ちゃんを待たせないんでしょ?』


「……!」

 声が、聴こえたような気がした。

 そうだ。もう待たせない。

「菜有、愛してる」

 俺は、震えている柔らかな唇に、自分のそれを重ね合わせた。

 



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