-29- 『誰?』
ふーくんが退院して二年。
この二年で、わたしはあることを確信していた。
ふーくんの記憶から、わたしとの約束が消えていることだ。
正直、思い出してほしかった。
でも、ふーくんがちーちゃんのことを忘れているのも知っている。
もし、無理に思い出してもらおうとすれば、ちーちゃんのことも思い出して、大変なことになるかもしれない。
だからわたしは、約束をなかったことにしようとした。
そうしたかったのに、アレを、神社で見つけてしまった。
「なんだろ、これ」
それは、わたしに向けて綴られた手紙。ちーちゃんの字だ。
「タイムカプセル?」
そこには、タイムカプセルを埋めた理由と、掘り出す年月が書かれてあって、これは、埋めた場所のメモらしい。わたしが保存しておくことになっていたのかもしれない。
不思議だったのは、手紙の最後にわたしが一度掘り出しておくように書かれてあることだ。
「どうしたんだ? 菜有」
「……! な、なんでもないよ」
「そうか」
急に声をかけられて驚いたけど、バレなかった。
なんとか、ふーくんには見つからないようにしよう。
――そう思い、後日、一人で掘り出してみた。家に持って帰って開けてみると、未来の自分たちへ宛てた手紙が出てくる。
「わたしの、これだ」
あの手紙に書いてあったように、自分のものを取り出して読んでみる。
未来の菜有ちゃんへ。
あの約束、ふーまくんに聞いちゃったよ。
ふーまくんって忘れっぽいから、こうやってタイムカプセルにして残しておくの。
これまでにあの答えは聞けましたか? 聞けていないなら、手紙みせてね!
私、菜有ちゃんのこと、応援してるよ。いつまでも。
あ、そうだ。私の手紙も似たような内容だし、ふーまくんが先に掘り出さないように、手紙は隠しておくことをお勧めします。適当に私たち宛ての書いておいて!
雛町千歳
ちーちゃんの分も読んでみると、予想通りの内容が書かれてあった。
わたしはすぐにその手紙を二通、部屋に保管することにした。
もし、これがふーくんの目に届いてしまえば、きっと、思い出してしまうから。
ちーちゃんのアドバイスとは別の意味で、わたしは手紙を隠した。
わたしは他に、あの約束を連想させるものはないかと探してみた。
「菜有~~楓馬君よ~~」
「え?!」
そんな時、急にお母さんの声が聞こえてきて、わたしは頭が真っ白になった。
階段を上がる音が聞こえてきて、ようやく焦り出すけれど――もう遅かった。
「菜有、遊びに来た………………それって」
「こ、これは、その……」
タイミング悪く家に遊びに来たふーくんに、タイムカプセルの中身を見られてしまった。
ふーくんは、黙ったまま、頭に手をやっている
「ふ、ふーくん?」
「……っ!」
苦しそうに頭を抱え、ふーくんはその場に座り込んでしまう。
「約束……そうだ。千歳……」
「ふ、ふーくん! お母さん! ふーくんがっ!」
何もできず、お母さんを呼んだ。
すぐに病院へと連れていかれ、記憶が戻りかけていることをお医者さんに告げられる。
わたしも、ふーくんのパパとママも、それを喜んだ。
しかし、本人が記憶に耐えきれなければ、再びそれを抑え込んでしまうかもしれない。
お医者さんの言葉は、理解できた。
ふーくんのパパとママに、会ってほしいと頼まれて、誰よりも先にベッドに横たわるふーくんに会いに行った。
いつも通りのふーくんだ。
そう思いたくても、目を閉じる彼の頭の中を想像すると、平常心でいられない。
「う、ううん」
「ふーくん?」
体が動いて、瞼が開かれる。
「大丈夫? 頭、ガンガンしてない?」
「……誰?」
「え……」
わたしは、その言葉に固まってしまった。




