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One's Summer  作者: 新増レン
五章「彼女との時間」
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28/41

-27- 『記憶』


「今日もお出かけ?」

「ああ。ちょっとな。菜有も来るか?」

「一緒に行ってもいいの?」

「勿論」

 神社に行くだけなら、菜有なゆと行動を共にしても問題ないだろう。


 支度を終えて、二人で家を出る。

 ここまでは昨日と同じだな。

「どこへ行くの?」

「あの神社だ」

「何しに?」

「……散歩がてら、かな」

「そっか」


 少し歩いて、いつもの神社に辿り着く。

 ここは、いつ来ても不気味なところだ。

「どうして、子供の頃はここが楽しかったんだろうな」

「んー、どうしてかな? やっぱり、秘密基地みたいでカッコよかったからかな?」

「あの頃の視点には、そう映っていたのかもしれないな」

 背も小さかったあの頃、自分の数倍も大きな木々に囲まれたこの場所を、遠い異国のように感じていたのかもしれない。

 そう、あの時だって……。


「あの、時?」


「? ふーくん?」

 あの時、どうして俺達はタイムカプセルを埋めたんだ? 

 そもそも、どうして俺がそんなことを……?

「俺、か?」

「ふーくん、どうしたの?」

 タイムカプセル……。



『じゃあ、タイムカプセルに書いておけば忘れないよ、きっと!』

『そ、そうだな。七年後の俺が、あいつとの約束を果たしてくれれば……』

『きっと、その時までには答えが出てると思うよ。大人になった時に答えたら、すごく、ロマンチックだと思いますし』



「――っ!」

 提案したのは、俺ではない。千歳だ。

 ある約束を、いつまでも忘れず、必ず果たすために。

 そのために、タイムカプセルを埋めたんだ。

 確か、千歳に相談を持ち掛けたんだっけ。

 なんで、そんなこと忘れていたんだよ、俺は。

 もしかして、事故の影響で記憶違いを起こしていたのか……。


「ふーくんってば!」


「――! な、なんだ?」

「ボーっとして、どうしたの?」

「な、何でも……」

 ズキン!

「っ!」

「!? どこか痛むの?」

「ちょっとした、頭痛だ」

「頭痛……? ひょっとして……い、いいよ! 思い出さなくてもいいから!」

 菜有?

「お願い!! 思い出そうとしないで!」

 急に取り乱した菜有は、涙を目に溜めながら抱き付いてきた。

「イヤだ……」

「な、菜有? 一体……」

「もう、大切な人がいなくなっちゃうのはイヤだよぉ!」

 そう叫んで泣き始めてしまう。俺には、なにがなんだか……。


『大丈夫だよ、菜有ちゃん』

「こ、この声……」

 頭の中に響き渡ったのは聞き覚えのあるあの声だ。

「ち、ちーちゃん」

「菜有にも、聞こえているのか?」

「……うん」

『もう、ふーまくんは大丈夫。あの記憶を思い出しても、いなくなったりしないよ』

 声の主は、森の奥から、その全身を現した。

「……!」

 しかしその姿は、あの頃の、千歳のままで。

 その姿を見た瞬間、俺の記憶は、完全に蘇ろうとしていた。

『もう、菜有ちゃんが苦しむ必要もない。ふーまくんが、全部思い出してくれるから』

「で、でもそれだと、やっぱり……」

『不安? もう一度、あの言葉を聞きたくない?』

「――――! それは……」

『そうだよね。怖いよね。でも、いまのふーまくんなら、きっと大丈夫』

「本当?」

『うん……。全部、受け止められるよ』

 小さな千歳は、こちらを向いてきた。

『ふーまくん、そのまま思い出してみて。憶えていることを、全部』

「……ああ」

 徐々に、思い出していく感覚がある。

 忘れていたのは、菜有との約束だ。

 たしかあの日突然、菜有がこう言ってきたんだ。



『わ、わたし、ふーくんのこと好き』

『え、ぇえ?!』

『ふーくんは、わたしのこと好き?』

『急にそんなこと言われても……。そ、そうだ、今度答えるよ。ちゃんと考えて』

『本当?』

『うん……』

『じゃあ、これ』

『わかった。指切りしよう』

『約束だよ! ゼッタイねっ!』

『うん。いつかきっと、答えるから』



「……!」

 忘れていたのは、あの時の約束。菜有の気持ちに対する返事だった。

「そう、か……」

 全部わかってきた。俺は、何度もその言葉から、約束から逃げていたんだ。

 帰ってきて、あの夏祭り。こいつは、どんな気持ちであの言葉を口にしたのだろう。

 そう思うと、胸が張り裂けそうで……。

「う、うぅ」

 

 涙が、溢れ出た。


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