-27- 『記憶』
「今日もお出かけ?」
「ああ。ちょっとな。菜有も来るか?」
「一緒に行ってもいいの?」
「勿論」
神社に行くだけなら、菜有と行動を共にしても問題ないだろう。
支度を終えて、二人で家を出る。
ここまでは昨日と同じだな。
「どこへ行くの?」
「あの神社だ」
「何しに?」
「……散歩がてら、かな」
「そっか」
少し歩いて、いつもの神社に辿り着く。
ここは、いつ来ても不気味なところだ。
「どうして、子供の頃はここが楽しかったんだろうな」
「んー、どうしてかな? やっぱり、秘密基地みたいでカッコよかったからかな?」
「あの頃の視点には、そう映っていたのかもしれないな」
背も小さかったあの頃、自分の数倍も大きな木々に囲まれたこの場所を、遠い異国のように感じていたのかもしれない。
そう、あの時だって……。
「あの、時?」
「? ふーくん?」
あの時、どうして俺達はタイムカプセルを埋めたんだ?
そもそも、どうして俺がそんなことを……?
「俺、か?」
「ふーくん、どうしたの?」
タイムカプセル……。
『じゃあ、タイムカプセルに書いておけば忘れないよ、きっと!』
『そ、そうだな。七年後の俺が、あいつとの約束を果たしてくれれば……』
『きっと、その時までには答えが出てると思うよ。大人になった時に答えたら、すごく、ロマンチックだと思いますし』
「――っ!」
提案したのは、俺ではない。千歳だ。
ある約束を、いつまでも忘れず、必ず果たすために。
そのために、タイムカプセルを埋めたんだ。
確か、千歳に相談を持ち掛けたんだっけ。
なんで、そんなこと忘れていたんだよ、俺は。
もしかして、事故の影響で記憶違いを起こしていたのか……。
「ふーくんってば!」
「――! な、なんだ?」
「ボーっとして、どうしたの?」
「な、何でも……」
ズキン!
「っ!」
「!? どこか痛むの?」
「ちょっとした、頭痛だ」
「頭痛……? ひょっとして……い、いいよ! 思い出さなくてもいいから!」
菜有?
「お願い!! 思い出そうとしないで!」
急に取り乱した菜有は、涙を目に溜めながら抱き付いてきた。
「イヤだ……」
「な、菜有? 一体……」
「もう、大切な人がいなくなっちゃうのはイヤだよぉ!」
そう叫んで泣き始めてしまう。俺には、なにがなんだか……。
『大丈夫だよ、菜有ちゃん』
「こ、この声……」
頭の中に響き渡ったのは聞き覚えのあるあの声だ。
「ち、ちーちゃん」
「菜有にも、聞こえているのか?」
「……うん」
『もう、ふーまくんは大丈夫。あの記憶を思い出しても、いなくなったりしないよ』
声の主は、森の奥から、その全身を現した。
「……!」
しかしその姿は、あの頃の、千歳のままで。
その姿を見た瞬間、俺の記憶は、完全に蘇ろうとしていた。
『もう、菜有ちゃんが苦しむ必要もない。ふーまくんが、全部思い出してくれるから』
「で、でもそれだと、やっぱり……」
『不安? もう一度、あの言葉を聞きたくない?』
「――――! それは……」
『そうだよね。怖いよね。でも、いまのふーまくんなら、きっと大丈夫』
「本当?」
『うん……。全部、受け止められるよ』
小さな千歳は、こちらを向いてきた。
『ふーまくん、そのまま思い出してみて。憶えていることを、全部』
「……ああ」
徐々に、思い出していく感覚がある。
忘れていたのは、菜有との約束だ。
たしかあの日突然、菜有がこう言ってきたんだ。
『わ、わたし、ふーくんのこと好き』
『え、ぇえ?!』
『ふーくんは、わたしのこと好き?』
『急にそんなこと言われても……。そ、そうだ、今度答えるよ。ちゃんと考えて』
『本当?』
『うん……』
『じゃあ、これ』
『わかった。指切りしよう』
『約束だよ! ゼッタイねっ!』
『うん。いつかきっと、答えるから』
「……!」
忘れていたのは、あの時の約束。菜有の気持ちに対する返事だった。
「そう、か……」
全部わかってきた。俺は、何度もその言葉から、約束から逃げていたんだ。
帰ってきて、あの夏祭り。こいつは、どんな気持ちであの言葉を口にしたのだろう。
そう思うと、胸が張り裂けそうで……。
「う、うぅ」
涙が、溢れ出た。




