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One's Summer  作者: 新増レン
四章「寄せ集めのカッコよさ」
21/41

-20- 『あいにくの空模様』

 キャンプ当日。

 絶好の、とは言い難い天候だった。


「午後からは、曇りのち雨か」

「降らないといいねぇ」

 相も変わらず二人しかいないダイニングで昼食をとる俺達は、食い入る様にテレビ画面を見ていた。だれか、雨男でもいるのか?

「念のため、折り畳み傘持っていこっか」

「そうだな。それこそ、備えあれば。だ」

「用意しておくね」

 そう言って食事を終えた菜有なゆは食器を片付けると、玄関の方に消えていった。

「なんか、前途多難なキャンプになりそうだ」


『…………』


 千歳は、未だに口を聞こうともしない。

 今日は近くにいるが、先日は結局、寝るまで姿を見せなかった。

『怒ってるのか?』

『なんのことですか? 無神経なふーまくん』

 これは完全に怒ってらっしゃる。火に油はそそがないでおこう。

『さいですか』

 そう言ってから食器を片付け、無言のまま食器を洗い終える。

「ふーくん、これ、リュックに入れておいてね」

「ああ。ありがと」

 戻って来た菜有から折り畳み傘を受け取り、二階へと戻ることにした。それから数十分の間、読書で時間を潰していると、菜有が訪ねてくる。

「そろそろ出発しよっ」

「そうだなぁ。……あーあ」

「どうしたの?」

 俺が見ていた方角を、菜有も見た。

 視線の先には、今にも降り出しそうな黒い雲の層だ。

「どうする? まだ延期できるぞ?」

「うーん。大丈夫だよ! 降ってもテントの中に集まればいいんだし」

 それもそうか。

 テントの一つは咲楽が用意することになっている。もう一つは、この家から持っていく。

 なんとかなるだろう。

「じゃあ、行くか」

「おー!」



 待ち合わせの駅には、まだ二人は来ていない。

「早かったか」

「そだね~~。ねぇ、入って休んでようよ」

「それもそうだな」

 しかし、これでこの数日間の内に、何度この場所を訪れたことになるんだ?

 駅の無人の休憩所に入り、並んで座った。

「そういえば、二人でここに来るのって今月で二回目だね」

「そりゃあ、ここは玄関みたいなところだからな。窓から入ったら不法侵入だろ」

「ぷふっ、なにそれ~~」

 特に意味のない会話で時間を潰すことにした。

 実は昨晩、心の中で一つの決め事を作った。それは、このキャンプ中は例の過った記憶のことは一切忘れるというものだ。だから、知りたくても聞かない。

 折角、菜有が楽しみにしてるんだ。俺も楽しまないとな。


「――でね。――あっ!」

 何か見つけたように、菜有は声をあげる。勿論、視線の先、つまりボロボロの窓ガラスの奥に見えたのはこちらに向かってくる二人の姿だった。

「おそ~い! 罰金だよぉ!」

「か、勘弁してよぉ~~」

 そう言ってへたり込んだのは、なぜか大荷物を背負っている善治ぜんじだ。よくみるとそれは、テントのようにも見える。

「どうしたんだ? 随分と重装備だな」

 対して、笑いながら菜有と話してる咲楽さくらは軽装備。なんとなく想像がつく。

「そのテント、咲楽のだろ」

「そ、そうだよ」

「なんでお前が持ってんの?」

「……」

 視線が泳いだ。この辺は変わらないな。

「大方、荷物持ちジャンケンでもやったんだろ。負けた奴が勝った奴の荷物を持つとか」

「その通りだよ。ははは、女の子のハートはいくつも仕留めてきたんだけど、ジャンケンは時の運だね」

 そう言い残してガクッと項垂れる。全敗だな、これは。

「ふーくん、電車もうすぐ来るって」

「ああ、今行く。ほら、立て」

「お、起こさないで」

 善治がいっこうに起きそうにないので、首元を掴んで引きずることにした。

 荷物が何か反論しているが、車内に入るまで気にしないでおこう。

 あー、重い。



 駅から電車に乗り、山の近くへ。

 無人駅で降り、徒歩で山の近くまで行くと、俺達はそのままハイキングコースを進むことにした。この時期は人が多いと思っていたが、そんなことはない。上空を見上げれば、今日キャンプをしようと考える人は滅多にいないからな。

「……あ、あと何分」

「お前、そればかりだな。あと三十分くらいだ。頑張れよ~」

「ふ、楓馬ふうま。少し荷物を……」

「くどい」

「そ、そんな」

 俺は後ろを振り返ることもなく、前方の二人に追いついた。

「ふーくん、ゼンくんは?」

「あいつはもう駄目だ。置いて行こう」

「置いていくって、テントも置いていったら、あたし達何しに来たかわかんないわよ……」

 呆れたように咲楽が言った。俺は呆れて何も言えない。

 実は数十分前、このハイキングコースを目指していた時の事。

 奴は電車の中で体力を回復したのか、張り切って提案した。

『楓馬、じゃんけんしない?』

『なんで』

『負けた方が、僕と楓馬の分の荷物を、一人で持つ! どぉ?』

『勝手にやってろ』

『あ、負けるのが怖いの?』

『いや、勝った時、お前がこの量の荷物を到底持てるとは思えない。テント二つと、お互いの荷物を背負って、ハイキングコース四十分の道を、お前は歩けるのか?』

『だいじょ~ぶ。勝つから』

『後悔するなよ』

『それはこっちのセリフだね!』

 結果、奴はものの十分でへばった。

「馬鹿はホントに、馬鹿ね」

「昔の性格の方が、扱いやすかったな」

「そうね。あの頃なら、調子に乗って危ない橋を渡ろうとはしないわ」

 しかしとうとう、善治は足を引っ張ることとなり、見兼ねた俺と咲楽が荷物を分担して持つことになった。

 キャンプ場に着くと、そこはほぼ貸し切り状態だった。

 広い公園を管理している施設とテントがある。テントは、指折りで数えることが出来た。

「とりあえず、用意しましょ」

 咲楽の号令で、俺達のキャンプが始まった。


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