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One's Summer  作者: 新増レン
四章「寄せ集めのカッコよさ」
20/41

-19- 『千歳、消える。』

 

 あれ以降、どこへ姿を消したのか、千歳はいない。

 結局、俺は一人で菜有なゆの家に着いた。

「ただいま~~」

 そう声に出すと、奥から菜有が小走りでやってくる。

 靴を揃える背中越しで声がした。

「あ、ふーくん。お疲れ様~。キャンプ、楽しみだね」

「そうだな」

 首だけをそちらに向けて言った。

 なるべく平静を装ったつもりだが、表情に出ていたのだろう。

 立ち上がると、菜有は心配そうな顔で見上げてくる。

「なにか、あったの?」

「どうしてそう思うんだ?」

「ふーくん、難しい顔してるから……。もしかして、キャンプがイヤだったとか?」

「そうじゃない」

「じゃあっ……!」


 菜有は本気で心配そうな声を出している。でも、このことは話せない。

 もしも、失った記憶の相手が菜有だったら、俺は最低だ。

 菜有は自分からそのことを話してこなかった。

 それは、俺の身を案じてのことだろう。

 咲楽によれば、誰よりも口止めをうるさく言っていたらしいからな。

 でも……それでも、俺は聞きたかった。その口から、菜有の全てを俺は記憶している事。

 これを、肯定してほしかった。


「俺さ、お前のこと知ってるよな? なにか忘れてること、とかないよな?」

「ど、どうしたの? 急に……」

「なんか、大事なことを忘れてる気がして。気のせいかもしれないんだけど……どうだ?」


「んー、ふーくんはウチのこと全部知ってると思うなぁ。メールでやり取りしてても、やっぱりふーくんだなぁって思ってたし。少なくとも、ウチには忘れられている事とか、特に心当たりはないかな」


「そ、そうか!」

「うん!」

「ふぅ……よかった」

 ホッとすると、菜有の顔をまともに見られるようになった。

彼女は、いつもの様に笑顔だ。

「そうだ。一緒にキャンプの荷物揃えようよ!」

「いまから、か?」

「備えあれば患いなし。だもん。ね、いいでしょ? 特にすることもないんだし!」

「仕方ないな」

 数分後、二階の菜有の部屋に集合して、必要そうなものをリュックサックにまとめていった。およそ一時間かかったその作業の後には、今週末が楽しみになっていたことは言うまでもない。


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