-19- 『千歳、消える。』
あれ以降、どこへ姿を消したのか、千歳はいない。
結局、俺は一人で菜有の家に着いた。
「ただいま~~」
そう声に出すと、奥から菜有が小走りでやってくる。
靴を揃える背中越しで声がした。
「あ、ふーくん。お疲れ様~。キャンプ、楽しみだね」
「そうだな」
首だけをそちらに向けて言った。
なるべく平静を装ったつもりだが、表情に出ていたのだろう。
立ち上がると、菜有は心配そうな顔で見上げてくる。
「なにか、あったの?」
「どうしてそう思うんだ?」
「ふーくん、難しい顔してるから……。もしかして、キャンプがイヤだったとか?」
「そうじゃない」
「じゃあっ……!」
菜有は本気で心配そうな声を出している。でも、このことは話せない。
もしも、失った記憶の相手が菜有だったら、俺は最低だ。
菜有は自分からそのことを話してこなかった。
それは、俺の身を案じてのことだろう。
咲楽によれば、誰よりも口止めをうるさく言っていたらしいからな。
でも……それでも、俺は聞きたかった。その口から、菜有の全てを俺は記憶している事。
これを、肯定してほしかった。
「俺さ、お前のこと知ってるよな? なにか忘れてること、とかないよな?」
「ど、どうしたの? 急に……」
「なんか、大事なことを忘れてる気がして。気のせいかもしれないんだけど……どうだ?」
「んー、ふーくんはウチのこと全部知ってると思うなぁ。メールでやり取りしてても、やっぱりふーくんだなぁって思ってたし。少なくとも、ウチには忘れられている事とか、特に心当たりはないかな」
「そ、そうか!」
「うん!」
「ふぅ……よかった」
ホッとすると、菜有の顔をまともに見られるようになった。
彼女は、いつもの様に笑顔だ。
「そうだ。一緒にキャンプの荷物揃えようよ!」
「いまから、か?」
「備えあれば患いなし。だもん。ね、いいでしょ? 特にすることもないんだし!」
「仕方ないな」
数分後、二階の菜有の部屋に集合して、必要そうなものをリュックサックにまとめていった。およそ一時間かかったその作業の後には、今週末が楽しみになっていたことは言うまでもない。




