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One's Summer  作者: 新増レン
一章「曖昧な、あの頃」
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-1- 『再会』


 一人――。

 無人駅のホームに降り立ち、背中で汽車を見送った。

 駅にも、誰一人いない。打ち合わせの上では、この時刻、既に迎えが来ているはずだった。

 ――が、駅を出てみても人や車はなく、第一印象は「とてもとても田舎」。


 高校の夏休み。

「たまには遊びに来てよ」と呼ばれ、俺は懐かしいこの場所に戻ってきた。

 中学校に上がるのと同時に転校し、ここよりも排気ガスの多い町で暮らすこととなった俺が、こうしてここを訪れるのは、実にそれ以来だ。

 転校はありふれた理由。父親の転勤で、特別なことがあってそうしたわけではない。

 それ以来は家族ぐるみで仲の良かった幼馴染と文通し、中三の頃からケータイのメールでやり取りをしていた。

 今回誘ってきたのは、その彼女だ。

 話によると、小学生の頃から仲の良かった友人達とは今でも親交が続いており、そんな彼らが総出で盛大に出迎えてくれる手筈だったが――。

 ゲコ、ゲコ。ミ~~~ンミンミンミ~ン。ジリリリリリ。

 ご覧の通り、出迎えてくれたのは夏の日照りと蝉や蛙の声だけだ。


「待つか……」


 他に頼りが無いため、無人駅のベンチに腰掛けて待つことにした。

 とりあえず稼働しているのかどうか怪しげな自動販売機を駅の手前に見つけ、お茶を購入したのだが、出てきたのは別の意味の期待を裏切らず、生温いお茶だった。喉を湿らせる効果しかないそれを飲み、滲み出る額の汗を我慢しながら待機した。


 約一時間後。

 携帯電話が振動する。ようやく彼女から連絡がきたようだ。

『ごめんね! 用事で遅れる!』

 用事で遅れるのなら、メールは遅れないでいただきたい。

「……しゃあない。歩くか」

 諦めてベンチを立った直後、メールが来た。こちらの動きを悟っているかのような内容だ。


『待ってて! あと一時間したら行くから!』


「……………………」

 一時間あれば平気で彼女の家に着けると思うが、彼女の面目の為にもここは待つことにした。

 数年前の記憶と、現在の地形が変わってないとも限らない。こちらが迷子になってしまえば、それこそ迷惑だろう。俺はあくまでも「客人」なのだから。

「……ぷは」

 先程買ったお茶を飲みほし、俺はまた暇な時間を過ごすこととなった。

 退屈しのぎに買っておいた文庫本が役に立つとは。わからないものだ。


 一時間後。

「もう、こんな時間か……」

 ちょうど夕焼けが差し込む頃、ようやく大きな声が聞こえてきた。

 本を閉じて駅を出ると、一人の女の子が俺の名前を呼んでくる。


「ふーくぅ~ん! お迎えだよぉ~~!」


 ふーくん。

 これは彼女が勝手につけたあだ名だ。「瞬瀬楓馬またたせふうま」で「ふーくん」らしい。

 しかし、十八歳でこの呼称はどこか恥ずかしい。

「あ、ふーくん! お~い!」

 駅から出てきた俺を見つけたのか、彼女は自転車をこいで近づいてきた。とても嬉しそうに片手をブンブンと振りながら、満面の笑みを浮かべている。同様に自転車もグラングラン揺れている。実に危なっかしい光景だ。

「転ぶぞ~~」

「だいじょお~ぶっ!」

 少々危なげではあったが、がらんとした駐輪場に自転車を停めてから歩み寄ってくる。

 彼女が、幼馴染の「駒羽田こまはだ菜有なゆ」。

 見た時は本人かどうか疑ったが、先程の愛称で確信した。

 性格こそ変わっていないが、彼女の容姿は随分と女の子らしくなっていた。幼い頃、泥だらけになって遊んだ仲とは思えない。時間とは恐ろしいものだ。


「「…………」」


 向かい合った所まではよかったが、お互いに言葉が出てこない。

 要するに緊張していた。

「久しぶり、だな」

「……うん! ふーくん、背、伸びた?」

「あの頃から比べたら、どんなやつでも伸びているだろ」

「そ、そうだね。あはは……は……」


 沈黙。


 出来るだけ明るく再会しようとか考えていたが、無理だ。五年は無理がある。

「ふーくん。その……待たせちゃった?」

「随分と、な。おかげで一冊読み切った」

「……わぁ! 読書、続けてたんだね!」

「続けてたというよりは、これが唯一の趣味だから」

 バッグから取り出した文庫本を見て、菜有はくすりと笑っていた。

 昔を懐かしんでなのか、「唯一の」という言葉に反応してなのかわからないが、おかげで互いに緊張感がほぐれたような気がした。

 すると、菜有はいきなりこちらの顔をじぃっと覗き込む様に見てくる。

「な、なんだ、どうした」

「やっぱりね、ふーくんだなぁ。――って思ってたの」

 どういう意味だ。

「おかえり。ふーくん」

「……一時的だけど、ただいま、かな」

 こうやって互いに顔を見合って笑ったのは、懐かしかった。


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