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One's Summer  作者: 新増レン
四章「寄せ集めのカッコよさ」
19/41

-18- 『キャンプに決まり』

 

 また集合していたのは咲楽の家だった。

「さあ、今日こそ決めるよ!」

 菜有なゆは随分と張り切っている。他の二人もまんざらではなさそうだ。


「じゃあ、一人で一つ意見を言う形にしよう。残りの夏休みをどう過ごすか。議題はそれでいいな」

「ふーくん、やる気だね!」

「まあ、こないだの会議を見てたら、俺が議長をすればいいと思ったんだ。意見を暴投するんじゃなくて、キャッチボールしなきゃ決まるのも決まらない。その中継役が必要だろう」

楓馬ふうまならベストだね、咲楽さくら

「え、ええ」

 昨日の一件があってか、咲楽は少し緊張気味だった。隣に浮かぶこれが見えるせいだろうか。

『さっすがふーまくん。きちんとしてるねぇ』

『この中だと、お前が適任だけどな』

『残念! 私は二人には見えないよ~~』

『知ってる』

「じゃあ、菜有から頼めるか?」

「ウチは、ふーくんが参加するなら何でもいいよ! 主役はふーくんで! 要望はこれだけだもん」

「善治は?」

「そうだなぁ、海は嫌だって言ったけど、キャンプはしてみたいね。夏と言えばキャンプってイメージ強いし」

「キャンプか……有力な案だな」

「でしょでしょ!」

 こいつに手紙を渡す以上、距離を縮めるに越したことはない。

「咲楽は?」

「あたしは……悔しいけど、キャンプに賛成」

 協力を頼んだからだろう。プライドを犠牲に、キャンプに賛同するとは。

 提案者が一番驚いているけど。


「じゃあ、決まりだな。出発はいつ頃にする?」

「ほ、本当にキャンプでいいの?」

「行きたいんだろ?」

「ま、まあ。でもいつもは、反論がバシバシ交差するとこでしょ!」

 俺は残りの二人を見た。二人とも頷いているのを見ると、反論しているようには見えない。

「全員一致だ」

「……ハハ、これが普通なのに、逆に怖い。裏とかないよね?」

「うら?」

 菜有が首を傾げるのを見て、善治は強張った肩を下ろした。なんとなく、あいつの心情を察する。菜有なら、どこか裏のサプライズネタをばらしそうなイメージがある。

 賢明な判断だな。

 それから、出発を週末に定め、俺達は近くのキャンプ場に行くこととなった。



 咲楽の家から帰る際、少し時間を取って咲楽と話をすることにした。菜有にはキャンプに関する打ち合わせと言ってある。今回は本音だから偽る必要もない。

「こんなもんか」

「そうね」

 二人で当日の荷物を確認し、別の話題に入る。

「このキャンプで、あいつに手紙を渡すつもりだ」

「やっぱりね。なんとなくわかっていたわ」

「そうだ。携帯電話の番号、知りたいんだろ?」

「――!」

 思い立ったので、携帯電話を取り出す。あの時は忘れていたけど、今日は持参していた。

「ほら」

 喜ぶと思って携帯電話を差し出すが、咲楽は複雑な表情を浮かべていた。

「や、やっぱりいいわ」

「……なんで? 咲楽といい菜有といい、そんなに俺と連絡取りたくないの?」

「な、菜有? 菜有が何か言ってたの?」

「いや、二人の連絡先を知りたいって言ったら、必要ないって」

「……そ、そうよ。昨日は少し昂ってただけ。連絡先は、やっぱりいいよ」

「そうか?」

 なんか、手紙を渡したはずなのに壁を感じる。

『気のせいですよ。きっと』

『……そうだよな』

「咲楽、あいつのことで何か思い当たることあるか? 悩みとか、この五年間で何かあったとか」

「そうねぇ……」

 咲楽は少し考え込んで何かひらめいたらしい。

「確かご両親と、進路のことでもめているらしいわ。本人は都会に行ってみたいけど、ご両親はこの町で家業を継いでほしいって」

「……それかもしれないな」

「え?」

「あいつの悩みだ。それをクリアすれば、少しは距離も縮まるかもしれない」

 方針は決まった。あとは、方法だけだ。

「でも、難しいわよ?」

「それでも、やらなきゃいけない」

「なら、あたしもサポートするわ。約束だしね」

「――!」

 なにかが頭の中をグルリとよぎった。

 なんだ? 大事な何かを、俺はまだ忘れているのか?

「どうしたの?」

「いま、この町に来た時と同じ感覚になった」

「同じ感覚?」

「……千歳のことを、思い出そうとしていた時の感覚だ」

「それってもしかして、他に忘れた記憶があるの?」

 そんなはずはない。千歳のことを丸々忘れていても、ほかの皆のことは憶えていた。

 菜有とずっとやり取りしていても、こんな感覚を覚えたことはない。

「何か、知らないか?」

「あたしは知らないわ。千歳のことがすべてなくなったとは聞いているけど」

「千歳は、どうだ?」

『私も、知らないですね』

「本当か? お前なら、知っているんじゃないか?」

『……たとえ知っていても、それは教えられるものじゃないと思いますよ』

「え……?」

『忘れてしまったからって、教えてもらうのは反則です。思い出そうとしないのは、忘れられた記憶の相手に失礼ですよ』

「す、すまん」

 千歳のことは思い出したけど、こうも簡単に記憶が戻るとは思えない。

 しかし何故、千歳は教えてくれないんだ? その口からは教えられないのか?

「と、とにかく、まずはあの馬鹿よ。週末、楽しみながら頑張りましょう」

「あ、ああ」

 すっきりしないまま、俺は帰宅することになった。



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