-17- 『不自然な幼馴染』
美味い……。
「どう? 美味しい?」
「ああ」
「よかった~~」
相変わらず菜有に昼飯を作ってもらっているが、いつか俺が作ってやろう。
そう思いつつも、箸は進んでいった。
『おいしそ~~』
隣に浮かぶ昇格した千歳も、並ぶ料理の湯気を恨めしそうに見ている。あの体には燃料がいらないらしく、食べ物を摂取せずともいいらしい。
そもそも、物に触れられない以上、食べられないか。
しかし、これを目の前に食べられないのはきついだろうな。
「ふーくん、ほっぺ」
「え?」
「おべんと、ついてるよ?」
そう言って身を乗り出してきた菜有は、人差し指で掬うように頬をかすめた。
「……はい、これ。あむ」
「た、食べるのか?!」
「え?」
俺が言及したからか、菜有は段々と紅潮していき、耳まで赤くなった。
「ご、ごめんねっ!」
「い、いや。嫌だったわけじゃないけど……」
「え、えへへ」
誤魔化すように笑って、菜有は話題を変えてきた。
「そうだ。今日は何して遊ぶ?」
「菜有は、そればかりだな」
「だって、結局さっちゃんの家でも予定決まらなかったし、ダラダラしてるだけってのもつまんないよ! 折角ふーくんが遊びに来てるんだもん。何か思い出に残ることしたいもん」
確かに、このままでいいとは思っていない。
俺達は結局、あの神社や誰かの家に集合するだけの日課になりつつある。
勿論、あと二通、手紙を届けないといけないからな。
「そういえば、俺アイツらの番号知らないんだよ。教えてくれないか?」
「……! そ、それはダメだよ!」
「なんで?」
「だって、ウチが連絡するから必要ないでしょ!」
「いや、帰ってからの連絡とか――」
「ごちそうさま!」
突然菜有は食器を片付け始める。
「お、おい」
「食器はキッチンに置いておいてね。ウチ、少し部屋にいるから。あ、洗い物は後でやるから」
そう告げると、早々と部屋に戻っていく。
『なゆちゃん、急にどうしたのかな?』
『さあな。ところで、あれから変化あったか?』
『特に目立ったものはないです。胴体が見えただけで……あ、あと、さくちゃんともお話しできるようになりましたね』
『ああ。……それで、次はどっちにする?』
菜有と善治。
『ぜんちゃんがいいと思うなぁ』
『また、覚えてるからか?』
『そうなの。昨日、さくちゃんに読んでもらった時から、ぜんちゃんのこと思い出したの』
『……どういう仕組みなんだ』
しかし、難しいのはこれからだろう。
昨日のおかげで、何か掴めた。咲楽が手紙を読めたのは、俺が咲楽の悩みを聞いた後だ。それに、五年間の溝が埋まった気がした。
他の二人、善治とは連絡を取っていないから頷けるが、菜有とはずっと連絡を取り合っていた。にもかかわらず、あいつは手紙を読めなかった……どうしてだ。
「あ…………」
考えれば考えるほどわからなくなり、気付けば昼食を食べ終えていた。
食器を片付け、ついでに洗い物も済ませると、急ぎ足の菜有が階段を駆け下りてきた。
「どうした?」
「すぐに神社に集合だよ! みんな来るって」
ははぁん。
今まで誘いの連絡でもしていたか。なんとまぁ、高三の夏にこれだけ遊んでるのは俺達くらいだろう。
「それで、どうして急いでいるんだ?」
「食器洗いしてから用意するから……って、あれ?」
俺はお礼の言葉を聞く前に居間から立ち去り、自分の準備を済ませることにした。
その数秒後、部屋に菜有が訪ねてきてお礼を言ったのは、言うまでもない。




