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One's Summer  作者: 新増レン
三章「乙女になりたい乙女」
15/41

-14- 『デート』

 咲楽とのデートが決まった翌日、集合会議は「一身上の都合」により取り止めとなった。

 そして俺は、この町を訪れた場所に立っている。


「暑いな」

『デートだって! さくちゃんも可愛いところあるんですね~~』

『しっかり者だけど、咲楽も女の子だからな』

『あ、私もそうです』

『お前は生首だ』

『が~~ん』

 そんな脳内会話で暑さを紛らわせていると、咲楽が歩いてくるのが見えた。

 いつもとは違う服を着ていて、随分と、年相応を感じさせる。

「待った?」

「いや、十分くらい」

「楓馬、そこは彼女をフォローするものよ? ひょっとして初めて?」

「……」

「ごめんごめん。あたしも初めてだから、お互い初心者ね」

 それなら、気が楽だ……ん?

「彼氏とか、いないのか?」

「いないわよ? どうして?」

「意外だ……」

「あたしは、楓馬の方が意外よ」

「俺は……地味だし」

「確かに」

「肯定するな!」

 駅の前で炎天下も忘れて話し込んでいると、目的の汽笛が聞こえた。

「あ、来たわよ。乗りましょう!」

「ああ」



 田舎町の中でデートするのもムードに欠けるし、あの二人に遭遇したくないとのことで、俺達は近場の街でデートすることになった。

 その街には電車で二十分。都市に比べると劣るものの、十分な場所だ。

「切符、買った?」

「ああ」

 電車は空いていて、二人並んで座ることにした。

 抵抗はあるが、デートで二人に距離がある方がおかしいだろう。

 何分か停車して電車が動き出す。

 そういえば、数日前、こうして揺られていたっけか。

「楓馬は、むこうでは電車とかよく使うの?」

「そうだな。電車とかバスが多い」

「へぇ……。ところで楓馬は、卒業したらどうするの?」

「普通に進学するつもりだ」

「こっちに戻ってくるの?」

「その辺は……わからないな。咲楽はどうするんだ?」

「……あたしは、未定ね」

「そっか」

 てっきり、しっかり計画しているものだと思ったけど……。


『それです!』


「うわぁあっ!」

 耳元に叫ばれ、俺も思わず声を出した。咲楽は隣で、何事かとこちらを窺っている。

「ど、どうしたのよ?」

「な、なんでない。ウトウトして、電車の揺れで目が覚めただけだ」

「そ、そう?」

 完全に怪しまれているが、これ以上は余計なことまで話しそうだ。

『なんだ急に……。大声はやめろ。心臓によくない』

『えへへ。ごめんね』

『用件は?』

『私、わかったかもしれませんよ。手紙のトリック!』

『……本当か?』

『もしかしたら、将来のことが関係しているのかも!』

 成程……。でも、待てよ?

『菜有は地元で就職するって言っていたぞ?』

『……え』

『それに、俺だってはっきりしてないんだ。早まったな』

『残念です……。それじゃ、私は監視してますから、デート、お楽しみください』

 監視されて、楽しむも何もないだろう。

 しかし、どうして俺が読めたのか……。俺は、千歳のことを完全に忘れかけていたのに。

「もうそろそろじゃない?」

「あ、ああ」

「どうしたの? また寝てたとか? あの馬鹿じゃないんだから、もう少し紳士的に振舞ってよ」

「紳士的って?」

「女性をエスコートするとか」

「……わかったよ。先頭歩けばいいんだな」

「……なんか違うわね」

 話をしてる間に駅に着いた。俺達は急いで降りて、デートを再開した。



「人、多いね」

 咲楽は人混みに慣れていないようで、駅を出るなり人の多さに酔っている様子だ。

「大丈夫か?」

「へ、平気」

 そうは言っているが、とても平気には見えない。

「慣れない電車で疲れただろ。その辺の喫茶店で休んでから歩けばいい」

「楓馬……」

 俺達はとりあえず近場の喫茶店に入ることにした。

 モダンな雰囲気の店内は人が少なく、休むには最適だった。

「ご注文はいかがなさいましょう?」

「オレンジジュース一つ。咲楽は?」

「あたしは……あ、アイスコーヒーを」

「かしこまりました」

 店主と思わしき優しそうな男性が戻ってから、ものの十分で注文の品が運ばれてきて、一息つくことができた。

「どうだ? 落ち着いたか?」

「うん。ありがと」

「……っ!」

 こうも直球に感謝されるとは……。

『そう言えば』

 突然、隣の生首が口を開く。日常に溶け込み過ぎていて、もう驚かなくなっていた。

『どうした?』

『さくちゃんって、昔から人混みが苦手でしたよ』

『そうだったか?』

『絶対に!』

 ……なら、どうして街にデートなんか誘ったんだ?

「なぁ、咲楽」

「ん?」

 アイスコーヒーを飲んでいたようで、ストローから口を話して向き直る。

「何?」

「咲楽、人混み苦手だったろ。どうしてデートでここまで来たかったんだ?」


「……! 思い、出したの?」


「まあ、な」

「他には!? あたしの他に! 何か大切なことあるでしょ!」

「大切な……千歳のことか?」

「そんな……!」

 まさか、あちらから話を振ってくるとは。

『ラッキーでしたね』

『ああ』



 やはり、咲楽は知っていたのか。知っていて黙っていたんだ。

 ……だけどここは、まだ問い詰めたくないな。

「でも安心しろ。名前だけだ。そいつ、元気なのか?」

「名前、だけ? 本当?」

「ああ。一緒に遊んでいた女の子ってことだけだ。転校したのか?」

「…………」

 ここで言葉に詰まるのか。

『ふーまくん、どうして嘘つくんですか?』

『一応、まだ知らない方が都合良いだろ。あっちも、なんか理由があって隠していたみたいだからな』

『そっかぁ』

 意を決したように、咲楽は口を開く。

 咲楽は昔から、嘘をつくのが下手だった。

 五人の中で一番下手で、いつも誤魔化せないから損をしていたのを思い出す。そんな咲楽がどう反応するかで、対応を変えなくてはいけない。


「そ、そうよ。転校したの」


「……そ、そうか」

『ふーまくん、これって』

『詮索はまだいい。それよりも、話を持っていく』

 飲み物を口に含み飲み込んだ。

 焦るな。

 咲楽にとって、俺が知らなければ好都合なんだ。ここは慎重に言葉を選べ。

「昨日――」

「……?」

 しかし、先に言葉を紡いできたのは咲楽だった。

「昨日、楓馬があんなこと言ってくるからビックリしたわよ」

「……なんでも願いを聞くってやつか?」

「それもそうだけど……。これからも連絡するって言ったこと」

 あっちか……。

「本当よね?」

「ああ」

「じゃあ、番号教えて」

 咲楽は肩に下げていた鞄から携帯電話を取出し、テーブルの上で開いた。

 ここまできて、持ってきていないとは言い辛い。

「これ、あたしの」

 そう言われましても……。

「こ、ここではやめないか? 帰ってからできるだろ」

「みんなの前で、そんなこと出来ないわ」

「どうしてだよ?」

「……どうしても」

 理由を言ってくれないと、対処のしようがないな。

「楓馬、ごめんね」

「なんで謝るんだ」

「……罪悪感、かな」

 何を、言ってるんだ?

「さっき、千歳のこと思い出したって言ってたわね。あれ、どうやって思い出したの?」

「……唐突に」

「神社で集まった時から、兆候はあったわね」

 確かに、あの時から妙な違和感があった。

「楓馬はどう? 千歳に会いたい?」

「……会えるなら、な。転校したんだし、難しいだろ」

「そうよね。わかった……」

 俺にはさっぱりわからん。

『さくちゃん、ふーまくんのこと試してるんじゃない?』

『咲楽が? なんでだ?』

『さぁ』

 頼りにならない生首だ。

「デートの続き、しない?」

「平気なのか?」

「もう大丈夫よ。それにあたしがしっかりしないと、示しつかないじゃない」

 昔からこうだ。

 多分疲れは完全に抜けていないだろう。しかしそれでも、咲楽という人間は弱さを軽々みせたりはしない。

「さ、行くわよ」

 こうして、デートが再開となった。

 

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