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「トイレのおんなの子の噂」

本作はコメディです。

ですが、この頁のみ多少のホラー要素を含みます。

怪談の類に耐性のない方は、

このページをとばして、第二話から先にお読みください。

充分に話は伝わります。


最終第五話まで読み終わってから、改めて第一話をお読みいただければ、

ホラー成分はほとんど薄れると思います。




 女子トイレの噂話?

 あぁ、もちろん知ってるわよ。ワタシの先輩だもん、実際に逢ったって女子生徒。っていうか、だからワタシのトコに聞きに来たんでしょ?

 そっか……でも、ゴメン。実はワタシも詳しくは知らないんだ。だって結局、又聞きだからねぇ。


 それでも良いの? ……わかった。それじゃ、ワタシの聞いた話ってコトでヨロシクね。




 たしか梅雨くらいの話だったかな。……ホラ、今年って結構雨続いたじゃん。去年とかは、梅雨だって言っててもほとんどまともに振らなかったのにね。空梅雨って言うんだっけ? あぁ、ゴメンゴメン。関係ないよね、こんなの。

 でさ。その日も雨、朝から降ってて。なんだかじっとり蒸し暑い……そんな日だったのよ。


 知ってる? テニス部って、基本外で練習するじゃない。だから雨降っちゃうと、室内での筋トレとかがメインになるワケ。あれ、ホントにメンドいんだわ。なんだかんだ言っても、やっぱりボール打ってた方が楽しいからね。


 おっと……また話ずれちゃったね、ゴメン。それで室内練習なワケだけど、それって他の部活も条件は一緒じゃない。だから、ちょっとでも動きやすいスペースはすぐに一杯なのよ。もともと体育館は、元から室内のバスケ部とかバレー部が居るし、他にも広いトコは野球部やサッカー部が優先されちゃうしねぇ。


 そんなんだから私たち女テニは、いっつも西校舎三階の廊下を使ってるってワケ。ホントは三階とかイヤなんだけどさ、しょうがないじゃない。私たち人数も少ないし……それに男子と同じ場所で練習ってのも、ちょっとね。

 それでその日も、放課後ずっと地道な筋トレやってたのよ。たしか五時すぎだったかな、終わったの。いつもはもうちょっと遅くまであるんだけど、筋トレだけだし、早めに終わろうかってコト。



 練習終わって、汗とか残っちゃった廊下掃除して、みんなで西校舎出たのは六時前。もうだいぶ暗くなっちゃってたわ。そしたら先輩が、急に「忘れ物しちゃった~」なんて言い出したのよ。だから、その先輩おいてワタシたちは先に帰ったの。


 ……違うわよ? いつもならみんなで戻ってたと思うし、それじゃなくても待ってるくらいはしたハズだもん。でもさ、その日はみんな汗だくだったし雨も降ってたしで、出来れば早く帰りたいって思っちゃったのよ。その先輩も含めて、ね。

 だから、校門出たところで解散になって、ワタシもまっすぐ家に帰ったわ。



 で、こっからがその先輩から聞いた話。

 先輩、一人で薄暗くなった三階の校舎に戻って、忘れちゃってたタオルもすぐに見つかったんだって。そのまま、すぐに帰ろうって思ったらしいんだけど、どうしてもトイレに寄りたくなっちゃたらしいわ。

 アレ、ホントに何でなのかしらね? 暑くて汗だって一杯かいちゃってるのに、不思議と、その……行きたくなっちゃうのって。


 まぁそれで、先輩もそのままトイレに向かったのよ。そう、噂になってる三階北の女子トイレに。本当は、いつも使ってる二階まで行きたかったみたいなんだけどね。自分達の学年じゃない階って、なんだか使い辛いじゃない。

 でも、二階の女子トイレって下駄箱とは逆側にしかないから、わざわざトイレの為だけに遠回りするのも、ねぇ。



 廊下の外は相変わらず雨が降り続いてて、ただでさえ暗い廊下が、すっごく嫌な感じだったらしいわ。

 いつもなら、まだ何処かの部活が練習してそうな時間なのに、その声も聞こえなくって……。自分の足音と窓を叩く雨音だけしか聞こえない廊下を、一人でぺたぺた歩いていく。誰が消したのかわからないけど、廊下の天井灯は電気すら付いていなくて、遠くにある非常ベルの赤い光だけが、ぼんやり先を照らしていたらしいわ。


 正直な話、その時点で帰りたくってしょうがなかったって先輩言ってた。でもあの人結構負けず嫌いだから、空元気振り絞ってトイレの前までたどり着いたの。それにさ、トイレの中は灯りだって付けられるじゃない。だから大丈夫……って。




 放課後の電気が消えたトイレの中って、どうしてあんなに薄気味悪いのかしらね。外に繋がる窓はあるはずなのに、何でかとっても暗いし。廊下より狭いからなのか、変に物音が響いちゃったり、さ。

 手探りで入り口傍のスイッチ見つけて、やっとこさ明るくなった時は、とっても安心したって言ってたわ。そして同時に、ぐっしょり手汗かいちゃうくらい手を握り締めてたことにも気づいちゃった。



 あそこの個室に入ったのは、特に理由は無いらしいわ。ただ、他の個室のドアが半開きだったのに、あそこだけがちゃんと閉じてた気がするって言ってたから、多分それが理由なんだと思う。

 わからない? だってさ、なんかイヤじゃない、半開きになったドアって。こっちから見ると電気ついてて明るいのに、どうしてもドアの影が目に入っちゃうもん。完全に閉まってるトコなら、自分でバーンって開けちゃえば良いだけだけど、半分だけ開いてる場所だと、そういうのもなんだか気が引けちゃうのよね……って、ゴメン。言ってて思ったけど、コレ、アタシだけかもね。


 まぁ、とにかく先輩は、唯一閉じてた手前から二番目のドアの前に立って、そのまま入ろうとした。けど、一応念のためドアをノックしたのよ。電気消えてたんだから誰も居ないのはわかりきってるのに、それでも、ね。

 もちろん、中には誰も居ないんだから返事が返ってくるワケ無いわ。そのまま先輩は個室に入って、トイレを済ませてた。



 ……でもね。突然、外からドアがノックされたの。

 コンコン、コンコン……って。


 先輩すっごい驚いちゃって、しばらく身動きできなくなっちゃったらしいの。一人で夜のトイレに居るところに、いきなりノックの音がしたわけでしょ? ワタシだってビビるわよ。


 でもすぐに、見回りの先生かなって思いついたの。ってか普通に考えたら、もう生徒は帰ったはずのトイレに電気がついてるんだから、残ってた先生とかが不思議に思って見回りに来たとしてもおかしくは無いでしょ?

 だから先輩も「入ってます」って返事したんだって。「忘れ物取りに来ただけだから、すぐに帰ります」って。そしたらすぐに、タイルの上をサンダルで歩く足音が聞こえて、そのままどこかに行っちゃったらしいわ。



 ……そ。黙って居なくなったの。

 失礼な話よね。女子が恥ずかしいの我慢して返事してあげたんだから、一言くらいあっても良いじゃない。当然、先輩もそう思ったらしいわ。でもね……同時にふと、気がついたの。


 あれ? 自分はどうしてさっき、あんなに驚いちゃったんだろう……って。

 いくら薄気味悪いトイレの中だからって、ノックの音くらいであそこまでびっくりすること無いじゃない。なのにどうして、たかだかノックくらいで身動きできないほど驚いたんだろうって。


 薄クリーム色のトイレのドアを眺めながらそんなこと考えてたら、急にわかったの。自分が驚いたのは、いきなりノッ(・・・・・・)クの音がした(・・・・・・)からだって。

 今、目の前から遠ざかったような足音が……安物のゴムサンダルが鳴らす、パタパタって足音が聞こえなかったからだ……って。



 もちろん! そんなの気のせいだって思うようにしたらしいわ。ばかばかしい、ちょっと心細くなっちゃってるだけだって、すぐに思いなおした。そしてそのまま、蒸し暑い個室の中のくせに、何でかやけに冷たいドアノブを捻って外に出たの。


 ……うん。ホントは結構おっかなびっくり外に出たみたい。なんだかんだ言って、やっぱり怖いものは怖いもの。でも、いつまでも個室の中に居るなんて、そっちの方が怖いわよ。

 なけなしの勇気を振り絞ってドアを開けた先には……やっぱり、誰も居なかったらしいわ。

 まぁ当然なんだけどね。



 上履きに履き替えて手を洗いながら、先輩はやっぱり自分の勘違いだって考えたみたい。こういうのってさ、怖い怖いって思うからホントに怖くなっちゃうわけで、実際は単なる偶然の積み重ねってコトがほとんどじゃない。


 さっきの足音の話だって、普通に考えたら聞き逃しちゃっただけだもの。ってかさ、近づいてくる足音全部聞き逃さないとか、普通に無いでしょ? そんなのどこの特殊部隊よって話だもん。

 ノックしてきた相手だって、たまたま見回りに来た先生とか、もしくは自分みたいに残ってた生徒が気になってノックしただけ。そう考えるのが普通だもんね。

 でもね、先輩。そこで……なにかが自分の後ろを通り抜けた気がしたらしいの。


 ううん、違う。今度は足音じゃない。でも、わかるでしょ? 空気が流れたっていうか、人が後ろを通り過ぎた時の感覚。それが確かにあったんだって。


 洗面台に俯きながら、ソレに気がついちゃった先輩は、それでもなけなしの勇気を振り絞って顔を上げたわ。そしておそるおそる鏡を見たら……それでもそこには、やっぱり自分しか写っていない。

 あぁ、やっぱり気のせいだ。そう思った時に……気づいちゃったの。


 自分が上履きに履き替えた時、脱ぎ散らかしちゃったはずのトイレのサンダルが、いつの間にか揃ってるってコトに。自分以外誰も居ないはずのこのトイレの中で、誰かが綺麗に並べ直したんだって気がついたのよ。



 先輩、慌てて振り返ってトイレの入り口を見たわ。でもやっぱりそこには誰も居ない。人の気配も感じない。けどね、その瞬間。先輩、確かに聞いちゃったんだって。


 小さな女の子みたいな。でもどことなく、年老いたおばあさんみたいな声。


「……あそんでくれると。……おもったのになぁ」


 って……。



 そこからは、もう無我夢中だったって。入り口においてたカバン掴んで、全速力で逃げたらしいわ。もちろん、話はそこでおしまいよ。まぁその日は、先輩たちで緊急お泊り会を実施したみたいだけど。


 でもね、先輩。逃げる時に確かに見た気がしたって言ってたわ。

 下り階段に向かって曲がった時、視界の端っこで。おかっぱ頭の女の子が、じっ……とこっちを見ているのを。

 もしもあそこで「すぐに帰る」って言ってなかったら。あの女の子の遊びにつき合わさせられちゃってたんじゃないか。先輩そう言ってたわ。

 それがいったい、どんな『あそび』かはわからないけれど……って。



 私が知ってるのはこれくらいよ。……その先輩? 普通に学校来てるわよ。まぁまだ、一人じゃ絶対学校のトイレには行かないらしいけどね。

 アンタも、なにが面白くてこんな話聞いてまわってるのか知らないけど、面白半分に試さないほうが良いわよ?



 夜の学校。西校舎三階の女子トイレに入ってると、誰も居ないはずの外からノックがあるかもしれない。もしもソレを聞いちゃったら、絶対にすぐに帰るから遊べないって言わなきゃダメ。


 じゃないと、あの女の子の。

 『あそび友達』にされてしまうかもしれないから……ね?

※※※※※※

最初の前書きでお知らせした形状の作品ですので、

一応、こちらでもご挨拶を。

もしも次話以降を未読であれば、飛ばして次にお進み下さいませ。

※※※※※※




お読み頂き、ありがとうございました。



コメディとしてお読みいただくことが出来ましたら、

作者としても嬉しい限りでございます。


もしもお気に召しましたら、

ご感想などいただけると嬉しいです。


最後までお読み頂き、本当にありがとうございました。





↓↓宜しければこちらもどうぞ↓↓

 ※※現在連載中※※

中年独男のオレ達が、何の因果か美少女冒険者

http://ncode.syosetu.com/n1506dm/


 ※※完結済み※※

つじつま! ~いやいや、チートとか勘弁してくださいね~  (旧題【つじつまあわせはいつかのために】)

http://ncode.syosetu.com/n2278df/

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