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ナットゥーンの街

 ナットゥーンの町はプリッツから徒歩で一週間程歩いた所にある。

この辺りの冒険者なら誰でも一度は訪れる町。

ただしそれは他の町で仲間を作りある程度の力をつけた者が来るべき町。


ナットゥーンの町で一番大きい建物は冒険者ギルドである。

何故ならナットゥーンの町は魔の森と呼ばれる巨大な迷宮から獲られる資源により成り立っている町だからだ。

それだけに、ナットゥーンの町では力のあるものは少々常識はずれでも普通に受け入れられる・・・あくまでも少々だが


その少年がギルドのドアを開けた時は誰も少年に見向きもしなかった。

最初に気づいたのは音だった。

ズルズルと物を引きずる音、次に気になったのは匂いだった。

嗅ぎなれた血のニオイを身体中に張り付けて、実際頭から血を被っているようだった。

身長は150㎝位頭からフードを被っているがまだ十代の少年だろうと思われた。

文不相応にも腰には立派な剣を差している少年。

だがそれ以上に違和感を感じるのはクソ長いハルバートを肩に担いでる所・・・?

嫌、そこじゃない、コイツから感じる違和感の正体は腰ひもに縛りつけてある3つの生首だ。


牛鬼の首が3つ・・・その少年はズルズルと生首を引きずりながら受付の前に進んだ。


「買い取りお願いします。」


「はい、討伐依頼ですか?」


「嫌、今日この町に着いた。コイツに討伐依頼がついている事は知らなかった。」


「そうですか、失礼しました。ではギルドカードをお願いします。」


「はい。」


そう言ってソイツはカードを提出した。


「えっ・・・」


大概の事には慣れっこになってる受付嬢がカードを見たまま固まっていた。


「何か?」


ソイツが尋ねると、受付嬢は慌ててカードを返した。


「失礼しました。では買取りは牛鬼3体と魔石で宜しいですか。」


ガキは静かに頷いた後、受付のテーブルに牛鬼の頭と魔石の他にギルドカードを5枚置いた。


「牛鬼に喰われてた奴等の遺品。」


そう言うとコイツは静かに目を閉じた。


部屋の中にいた冒険者はパーティーを全滅しちまって独り生き残っちまったルーキーに同情した。


「そうですか、ご苦労様です。では討伐報酬と魔石の代金合わせて金貨90枚になります。ご確認下さい。」


「いい、ありがとう。」


そう言うとソイツは無造作に金貨を掴むと腰に下げている袋に放り込み踵を返して出て行こうとした。


「待てっコラッ!おい、ガキ」


そう言って独りの男が出て行こうとした少年を引き留めた。


「お前そのハルバートどうした?」


「ソイツは俺が弟にやったハルバートだ!見間違いようがねぇ!ガキッ!そいつをどこで手に入れた。さっさと答えろ!ぶち殺すぞ!」


そう言って男はおもむろに少年の頭を掴もうとした。

その瞬間、少年はその場でしゃがみ込むと体を回転させて持っていたハルバートを使って男の膝裏を叩き付けた。


男が堪らず仰向けに倒れると目の前には殺気を撒き散らしハルバートを構えてその刃を降り下ろそうとする少年が見えた。


少年は躊躇う事なくハルバートを男の頭上に降り下ろした。

しかしその刃は男の頭をかち割る寸前で別の男によって止められていた。


「グフフフまぁ待ちな坊や、そこに倒れてるバカはうちの身内の者でな、失礼があったならワシが謝る、その刃を引っ込めてくれんか?」


止めに入った男は身長2メートルを超え体重も150キロはあろうかと云う巨漢の老人だった。


「・・・そっちの獲物を退いてくれないとどかせない。」


少年が答えると老人は笑いながらハルバートを防いだメイスをどけた。


「それでな、出来ればそのハルバートを何処で手に入れたか教えて貰えないだろうか、この通り頼む。」


 そう言うと老人は腰を屈め頭を下げた。


少年は頷くとポツリポツリと話始めた。


「この武器は、町を目指して歩いていたら草むらから血の臭いがしたんだ。俺は身を隠し血の臭いのする方へ近づいて見ると牛鬼の家族と思われる3体が食事をしていたんだ。向こうは傷だらけでコッチの事まったく気づく事なく食事してた。だから俺は最初に一番デカイ牛鬼に襲い掛かったんだ。奇襲は上手くいき一体の首を撥ねる事に成功したんだ。そっからは必死だったからよく分かんない。牛鬼が動かなくなるまでたたっ斬って心臓(ませき)抜いた後で、喰われてた奴等の遺品探した。落ちてたギルドカードとこの武器を拾って町に来た。」


そう言うと少年は持っていたハルバートを倒れてる男に渡した。

泣きながらハルバートを受け取った男の代わりに老人の方が礼を言って来た。


「ありがとうよ、坊やが知らせてくれなけりゃ行方知れずで処理されていただろう。本当にありがとうよ、処でワシの名前はガンツ、ガンツ傭兵隊ちゅうのの頭務めてる。お前さんの名前を聞かせて貰えないかな。」


「・・・カール。」


少年はそう言ってギルドを出て行った。


「カールか、いつか礼をさせて貰おう。」


そう言いながらガンツ老人はハルバートを抱えて泣いている男を抱え起こした。


ナニあの恐っかねぇ爺は!

ギルドを出たカール少年は全身に冷や汗をかきながら震えていた。

あの爺い俺が引かなかったら下で倒れてる奴ごと俺の事潰そうとしてやがった。

この町にはあんな爺がウヨウヨいるのかよ・・・


「たまんねぇな」


そう言ったカール少年の顔には獰猛な笑みが張り付いていた。




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