冒険者から盗賊へ
フリークエスト
その名の通り常時出されてる依頼、特にゴブリン、コボルト、オークさんはその強力な繁殖力と農作物の被害から国が依頼主となっている鉄板クエストである。
さてカール少年は取りあえず街を出てこのフリークエストに挑む事とした。
あまり深く考えないカール少年は街の外に出ればすぐにモンスターに出会えるだろうと思っていた。
実際の所、街の外に出た位でそんなもんに出会えてたら人間の世界はとっくに滅びている。
しかしカール少年にはその様な常識を持ち合わせてはいなかった。
何も考えず街の東門を出て適当にふらふらと歩き続けて2日後、カール少年は見事に行き倒れとなり街道に座り込んでいた。
う〜んこんなはずじゃ無かったのに、お腹はすくし喉はカラカラこうなれば街道を通っている人を襲うしかない。
カール少年は冒険者から盗賊にジョブチェンジしようとしていた。
次に来た通行人を襲おうと待ち構えているとガラガラと馬車の通る音が聞こえた。
よし殺るか!
カール少年は疲れた体を起こして街道に飛び出した。
「おう!金目の物を置いていけ!」
結果無視されて轢かれた。
その馬車は何者かに追われている様でカール少年にまったく気づく事なく走り去った。
「人身事故ですよ、ひき逃げですよ、誰か警察を呼んで下さい。」
カール少年が独り言を言っているとその上を大勢の狼さんに乗ったゴブリンさんが走り抜けて行った。
どうやら先ほどの馬車は今のゴブリンさん達に追いかけられていたようだ。
逃げる馬車も追うゴブリンさん達もカール少年には気づかずに通り過ぎた。
カール少年は無視をされるのは大嫌いなかまってちゃん、空腹とシカトされての踏みつけに怒髪天を突く思いであった。
カール少年が怒りでプルプル震えていると、数百メーター先で馬車が転倒した。
ゴブリンさん達の粘り勝ちの様子だった。
そしてそこから惨劇が始まる。
ゴブリン達は最初その存在にまったく気づかなかった。
狙った獲物を襲い食らう事に夢中になっていたから、その化け物は自分達とさほど変わらぬ大きさで片手に剣を持っていた。
髪の毛を逆立てて訳の分からない叫び声を上げながら一目散にこちらに走り込んできた。
ゴブリン達は自分達が弱い存在だと知っている、だからこそ常に数の力を大切にした。
狼さんが子供の頃から飼い慣らせばなつく事を知ってからは自分達の食べる量を減らしてでも大切に飼った。
その結果この近辺で自分達に襲い掛かってくるモンスターは極端に減った。
数は力、その事にゴブリン達は絶対の自信を持っていた。
にも拘らず今一匹の化け物が自分達に襲い掛かって来た。
「キシャオ~キシャオ~」と訳の分からない雄叫びを上げてゴブリンの群れに突っ込んだカール少年は当たると構わず剣を振り回しゴブリン狼関係なく斬りつけていった。
本来剣と云うものは人を1人でも斬れば、 血油によって切れ味は極端に悪くなる。しかしカール少年の剣はまったく切れ味を損なう事なく、それ処か切れ味を増していった。
なんとこの剣、グスタフ男爵が数年間お小遣いをコツコツ貯めてやっとの思いで購入した魔法剣であった。
効果は血を吸うと切れ味強化という余りかかわりたくない性能の剣であった。
当然剣を持ち逃げされた男爵は喚き散らしたらしいが今は関係ない。
ゴブリン達は余りの恐怖に身動きの捕れぬまま斬り殺されていった。狼さんといえばしっぽを丸め座り小便を流しながら悲鳴を上げる事しか出来なかった。
十数分後そこには膓を撒き散らして散乱するゴブリンさん&狼さん達の哀れな肉が散らばりその中心で頭から血をかぶり身体中に肉片をくっつけた状態でふ〜ふ〜と荒い息を吐き湯気を上げているカール少年が立っていた。
ゴブリンさん達が皆殺しにされて、数分後横倒しになっていた馬車のドアがガチャっと開き中から恰幅のいい男性が出て来た。
「ふ〜どうやら助かった様だな。」
そんな台詞を言いながらハンカチを口許に押さえて、
「オイッそこの冒険者このままではどうにもならん。先ずはこの馬車を起こせ、それとなお主のその姿見るに耐えん早々に身体を洗え、まったく汚らわしくてかなわん、これだから下賤の者は・・・」
などと捲し立てた。
このオッサンは大変残念な事に自分がでっかい地雷を踏んでいる事に気づけなかった。
-1時間後 -
顔面を腫らしながら人力で馬車を曳くオッサンの姿が冒険者の一団に発見された。
勿論馬車の上で鞭を振るっていたのはカール少年である。