家出
「カールよ、それは父のイチゴだ、手を出してはならん。」
「これは俺の誕生日ケーキだ。親父こそその薄汚い手を離せ。」
「それが父に対して云う言葉か!」
「そういう台詞はイチゴケーキから手を離してから言いやがれ!」
「出てけ!」
「言われなくても出てってやらぁ!」
こうして王国辺境貴族グスタフ男爵家三男カールは13才の誕生日に家出した。
元々辺境貴族の三男坊等と云うものは成人したら独り立ちをするのが当然なのだが13才で独立するのは珍しい。
と云うよりまずいない。
貴族の子ならば尚更である。
通常は親が子供の為に勤め先を探し就職の手伝いを行う。
しかしカール少年の場合は売り言葉に買い言葉、結果ツテもコネも無し、持ち出した物と云えば家の武器庫にあった剣と書斎に隠してあった親父のヘソクリ銀貨30枚のみという有り様。
本来ならば頭が冷めれば謝りに行く所だが困った事に1代で小さいとは云え領地持ちの貴族に迄なった父親に似て行動力だけは人一倍あった。
カール少年は躊躇う事無く最終の乗り合い馬車に飛び乗った。
行き先も確かめずに・・・
「クソ親父め必ず絞める、そのうちキャン言わさなきゃ気がすまない。」
それでも今の自分では逆立ちしたって勝てない事は分かってる、分かっていても我慢の方が出来ないチョット残念な性格の持ち主であった。
う〜む、考えろ、クソ親父に勝てる様になれて尚且つ独り立ち出来る方法・・・そんなん分かったら誰も苦労しね〜ぞ、コラァ!
考えるのがチョットだけ苦手なカール少年であった。
馬車に乗車中ずっとブツブツ言っていたカール少年に御者が話しかけてきた。
「お客さん終点ですよ。降りてください。」
「ここどこ?」
カール少年が尋ねると御者は呆れる様に言った。
「ここはグスタフ領のとなり町プリッツですよ。さぁさぁ降りてください。」
何だよ飛び出しては見たものの着いた先はとなり町かよクソッ!
ブツブツと回りの人から避けられながら歩いていると1つの建物から出て来た一団にぶつかった。
「危ね~な、気をつけろ!」
「何言ってやがるクソガキが!」
本日二度目の売り言葉に買い言葉、違いと云えば相手がカール少年の胸ぐらを掴んだ事とカール少年が相手の股ぐらに膝を叩き込んだ事ぐらいでしょうか。
その後?
もちもん大勢でよってたかって袋叩きにされ道端に転がされました。
う〜ん・・・知らない天井・・・知らない鉄格子・・・
「スゥ〜出~せ〜冤罪だ〜!」
「五月蝿い!騒いでないで目が覚めたなら、さっさと出ろ!」
あれ?
カール少年が鉄格子を押すとそれはあっさりと開いた。
「さっさとこっちに来い。」
カール少年が声のする方に歩いて行くとそこには二人の牢番が座っていた。
「目が覚めたか、ボウズ、」
「あぁうん、おはようございます。」
「もうすぐ昼だぞ、あんまり起きないから、死んじまったかと思ったぞ。」
「全く、あんまりバカやらかすなよ。」
牢番達は口々に話し掛け来た。
「お前の持ち物だがこの剣と財布で間違いないか?」
「うん、あいつ等取らなかったのか?」
「あのな坊やお前さん貴族のボンだろ?」
「あぁ答えんでいい。こっちも聞きたくない。」
「お前さんをボコったのは冒険者の一団だ。」
「冒険者が貴族と揉めたのがばれたら面倒な事になるからな。」
「だからお前さんが貴族の関係者と見た途端逃げ出したよ。」
「分かったかい、分かったらさっさと出てってくれ。」
牢番達の説明を黙って聞いていたカール少年は1つの質問をした。
「そうか冒険者か・・・おいっオッサン達、冒険者って何処にいるんだ。」
「おい!まさか復讐するつもりかね?」
「・・・はぁ?誰が誰に復讐するんだ?」
「あぁ嫌すまん。忘れてくれ。」
「冒険者なら冒険者ギルドに行けば会える。」
「わかった、ありがと。」
一言礼を云うとカール少年は急いでその場を飛び出した。
クックックッ冒険者か良いじゃないか冒険者、強くなれるし金にもなる、やっべ俺って天才じゃね。
牢を飛び出したカール少年は一目散に冒険者ギルド目指して駆け出した。
5分後冒険者ギルドの場所を知らない事に気づくまで。